2台のトランスアクスル・ポルシェの違いを明らかにする│924カレラGT & 928S

Photography: Antony Fraser



今回、ここに取り上げた2 台はそれぞれのシリーズの初期モデルではなく、同族の中でもベストなモデルと目される車である。1983 年式928Sは、簡潔な初期型928のスタイルと300bhpを発揮する4.7リッターV8を備えたモデルだ。80年代後半にはよりパワフルでラグジュアリーなS 4 や、爆発的なパワーを誇るGTおよびGTSも登場するが、この928Sはオリジナルの意図を忠実に表現している。

いっぽう924を代表するのは1980 年カレラGT だ。ホモロゲーションスペシャルとして406 台のみ生産されたうちの一台で、210bhpのターボエンジンが搭載されている。ロードゴーイング924 の中で最も入手困難と言われるモデルである。デレック・ベルはポルシェのワークス・ドライバー時代に一台を贈られたというが、それを手放すつもりはないと言っている。その言葉がこの車の価値を表していると言えよう。

ホットなホモロゲーション・ベース車とラグジュアリーなGT に共通するのは、ローがゲート左手前に位置する5 段ギアボックスである。もちろんそれはリアに搭載されている。思想とキャラクターは大きく異なっているが、同じトランスミッション技術を分け合っているのである。



もっともポルシェの得意分野は、レースで鍛えられた軽量でパワフルなクーペだったはずだ。フロントの水冷エンジンもさることながら、豪華な928はまったく新しい挑戦だった。「それは違う種類のカスタマーを狙ったものだった」ポルシェ・ミュージアムから引き出された2 台の前で語ってくれたのは、1977年のル・マンで優勝した(ポルシェ936)でもあるユルゲン・バルトだ。「当時の社長だったペーター・シュッツは"成功者たち" と呼んでいたが、要するに自分で運転するのが好きな、成功した自営業者ということだね」

では、いわば"みんなのポルシェ" たる924はどうだったのか。「サスペンションは文句がつけようがないでき栄えだった。VWパーツはすべて見込み通りに働いてくれたが、リアのドラムブレーキだけには手を焼かされた。すぐにリアにもディスクブレーキが装着されることになった」

この鮮やかな赤の924カレラGTは当然4輪にディスクブレーキを備えている。低く取り付けられたステアリングホイールに足をひっかけないよう911 同様のハイバックシートに体を滑り込ませて、地味なダッシュボードを眺める。率直に言って実にビジネスライクなインテリアである。

4気筒エンジンはラフな唸りとともに渋々といった感じで目覚めた。これではやっぱり商用バンと言われるかもしれないが、そもそもこれはフェラーリV8 ではない。ただし、スロットルペダルを置くまで踏み込み、無視できないターボラグを通り過ぎれば非常に力強い。210bhpは1980 年当時の2リッターとしては決して小さな数字ではないが、インテリア同様、エンジンも魅力的というよりはビジネスライクである。

だが言うまでもなく924 の真価はハンドリングにある。ワインディングロードをダンスするように駆けると、軽く敏捷で、それでいて乱れることなく安定している。ノンパワーのステアリングはロック・トゥ・ロックが4 回転も回るが、おかげで回転半径は小さい。どんなコーナーでもテールは安定し、911 のように振り子を背負っている感覚はない。ひと言でいえば、この車はドライバーを有頂天にさせるのである。



928も同じように興奮させるのだが、その方法はまったく違う。"成功者" のようにアウトバーンに乗り、928 がどのように堂々と走るかを感じてみてほしい。これは高速で旅するための車である。速度制限のない区間で長い5 段ギアをすべて使って、V8エンジンが微かなハミングから整った唸り声へ変わるのを聞きながら走れば、盤石のGTそのものである。正確なパワーステアリングはコーナリングの際に非常に頼りになるもので、さらに驚くべきは強力なブレーキである。ダッシュボードは人間工学的によく考えられたものだし、シートはサポート性が高く運転に集中できる。それに免じてバーガンディ色の奇妙なトリムはこの際気にしないことにしよう。

まったく異なるキャラクターを持ちながら、2 台はどちらも固有の魅力を備えた傑作である。驚くべきはやはりトランスアクスルだ。その形式は重量配分に優れているが、シフトの操作感ではいまひとつ。どちらの車にも重要な存在だが、素早く正確にシフトする際には集中力と注意が必要だ。ただそれはもっと後の、1990 年代までのどんなポルシェでも変わらない。多分そのことが、なぜAT の928 のほうがMTより多く造られたか、そしてなぜトランスアクスル・ポルシェが素晴らしい車だと認められるようになったのかを説明しているだろう。

ポルシェ・ワールドでは充分に合理的であるが、そもそも一体なぜRRの911のようにあえて一般的ではない設計を採用したのだろうか。誰にでも乗れるようにするための折衷案というものはポルシェには存在しないのである。

編集翻訳:高平高輝 Transcreation: Koki TAKAHIRA Words: Glen Waddington 

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