ポルシェ911から生まれた過激派「ポルシェ935クレマーK3」がル・マン優勝できた理由とは?

1979年クレマー・ポルシェ935 K3(Photography:Pawel Litwinski)



935の開発にあたって、アーネスト・フールマンとノルベルト・ジンガー率いるポルシェのエンジニア陣は、CSI(国際自動車スポーツ連盟)のルールを限界まで拡大解釈した。ルールでは、「市販車のシルエットを残さなければならない」とされていたが、プロジェクトリーダーのジンガーは、「フロントフェンダーの形は自由」という記述に目をとめた。これはタイヤの拡大を可能にするための規定だったのだが、ジンガーはこれを盾にとって、フロントフェンダーを削ぎ落とし、ヘッドライトは空力性能を向上させたノーズに組み込んだのだ。CSIはいい顔をしなかったが、ポルシェは押し通した。こうして、ルーバーが並ぶ935独特のフラットノーズが誕生した。サイドシルも地面すれすれまで下がり、幅の広い角張ったリアフェンダーに続く。そこに収まるのは、ダンロップが特別に開発した幅15インチ、リム径19インチの超ロープロファイルタイヤだ。フロントタイヤは幅10.5インチ、リム径16インチだった。

2856ccのエンジンは、ルールに従って市販の930ターボのクランクケースとクランクをベースにしていたが、コンロッドをチタン製としたほか、他の大半のパーツもモディファイした。燃料噴射装置はボッシュ製のプランジャーポンプ式で、ロードカーでは垂直配置だった冷却ファンを水平に変更した。ターボチャージャーは大型のもの1基で、唯一のサプライヤーだったドイツのクーンレ・コップ&カウシュ(KKK)製だ。これをエンジン後方に置き、その上に空冷式のインタークーラーを配置して、モディファイしたエンジンカバーで覆った。

外部パネルはコクピット周辺を除いてグラスファイバー製で、フロントのエアダムからフェンダーまでが一体となっていた。トランスアクスルは930用のケース内にモディファイされたギアセットとソリッド・ディファレンシャルを収めた。911伝統のトーションバー・スプリングはチタン製コイルスに変更し、リアのアンチロールバーはコクピットから硬さを変更できる仕様になった。ブレーキは917用のキャリパーとベンチレーテッド・ディスクで強化した。

シーズンが始まるやいなや、インタークーラーが収まるように拡大されていた、リアのエンジンカバーにクレームが付いた。修正のため6週間の猶予が与えられ、ポルシェはやむなく、重くなるのを承知でインタークーラーを水冷式に変更し、2基のラジエターをリアのホイールアーチ内に配置した。

1976年は2台のワークスカーで参戦し、シーズン末に次年度のカスタマー向け935を13台製造した(最終的には35台に達した)。翌1977年は3台体制で臨み、さらに開発を進めた結果、935はグループ5で全戦全勝を飾った。エンジンには小型化したKKKターボチャージャーを2基搭載してスロットルレスポンスを改善し、懸案のターボラグの軽減を図った。出力は8000rpmから630bhpを発揮し、トルクも4500rpmで434lb-ftに達した。また、風洞テストを重ねて"偽"ルーフを造り上げた。リアウィンドウの変更ははルールで禁じられていたため、オリジナルの上に、もう1枚のリアウィンドウとエンジンカバー、リアウィングを被せることで空力特性の改善を図った。

編集翻訳:伊東和彦(Mobi-curatorsLabo.) Transcreation:Kazuhiko ITO(Mobi-curatorsLabo.) 原文翻訳:木下恵 Translation:Megumi KINOSHITA Words:Delwyn Mallett Photography:Pawel Litwinski 取材協力:ブルース・マイヤー、カネパ・モータースポーツ(www.canepa.com)

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