歴代&新型メルセデス・ベンツEクラスに試乗|歴史を知れば現代の車の良さがより深く理解できる

Mercedes-Benz

メルセデス・ベンツの真骨頂とも言えるEクラス。最新モデルW214の試乗会が昨年、オーストリアの首都ウィーンで開催された。そこに用意されていたのは最新モデルまでのステップをイメージさせる歴代ミドルクラス全車。自由に乗り比べることで、メルセデスにおけるEクラスの魅力が見えてくるという粋な計らいであった。



70年前の車がそこに!


新型Eクラスの試乗を終えてウィーン郊外のランチ会場に到着した私たちを、嬉しいサプライズが待ち構えていた。



なんと、第二次世界大戦以降に誕生した「Eクラスのご先祖さま」が6台並んでいて、「どれでも好きに乗って構わない」というのである。こんなチャンスは滅多にない。私は喜び勇んで“クラシックEクラス”に飛び乗った。

1953年製 170DS。このディーゼルエンジンは独自の技術を取り入れた副室式予燃焼方式を採用。ガソリンエンジンと同等の性能を発揮した。

このなかでもっとも古いのは1953年製の170DS。写真で見ると戦前の車と勘違いしそうなくらいクラシックな佇まいだけれど、これが特別な工夫なしで普通に乗れてしまうのだから驚く。エンジンは4気筒1.8リッターのディーゼルなので、始動時には昔懐かしいグロープラグが温まるのを待つ必要があるが、ディーゼルらしく低回転のトルクは必要十分なうえに騒音も振動もほとんど気にならない。4速のマニュアルギアボックスにしても、シフトダウン時にダブルクラッチさえ踏めば、あとは特に気を使う必要もないほど運転は簡単だった。



ただし、スロットルペダルの最初の1~2cmはほとんどエンジンが反応してくれない。それはブレーキペダルも同じで、どちらも明確な意思を持って操作することが求められる。フレームがボディから独立した構造なので、ステアリングが反応し始めるまでにも一定の時間が必要。でも、考えてみれば、似たような傾向は、ほんの 20年ほど前まで、どのメルセデス・ベンツにも共通して見られたものだ。

それらは、操作し始めの反応を穏やかにすることで、ドライバーがリラックスして車を操れる環境を作り出すとともに、万一、ドライバーが誤った操作をしたときにでも、それによって直ちに危険な状態に陥らなくて済むという、メルセデス独自の安全面への配慮によるものだった。

「反応が穏やか」というメルセデスらしいキャラクターは、170DSの次に古い1958年製180(W120)通称“ポントン”からも感じられた。メルセデスは早くもこの時期にモノコック構造を採用しているが、それでもステアリングのほどよい“鈍さ”は健在(?)で、この点からもメルセデスがこのキャラクターを敢えて狙っていたことが推測できる。

通称“ポントン”と呼ばれた1958年製 180(W120)。すでにモノコック式ボディが採用されていた。



その後の1965年製200(W110)の世代になると、ステアリングは徐々に正確さを手に入れているものの、反応の穏やかさは相変わらず。それ以上に縦型デザインがユニークなメーターパネルに目が釘付けになった。

1965年製 200(W110)。後部トランクリッドから左右に伸びる独特の形状から、日本では“羽ベン”と呼ばれていた。



これに続く1970年製250(W114)は、私も現役時代を知っているW124あたりとフィーリングはそっくり。そして1979年製280TE(S123)に乗ったときには「あ、これはもう現在の車とまったく同じ感覚で運転できる」との感慨を新たにし、1994年製E500(W124)では「あー、いい車だなあ」としみじみ感じたほど。いずれにしても、メルセデスの歴代Eクラスは作りが飛び抜けてよく、どれも時代に先んじた車を実践してきたことが、とてもよく理解できた。

1970年製 250(W114)。メルセデスとして画期的な小型サイズ車 190クラス (W201)が登場するまでは、コンパクトシリーズと呼ばれた。世界初の 5気筒ディーゼルエンジンを採用している。

1979年製 280TE(S123)。リアサスペンションが特異なステーションワゴン。メルセデスのパーソナルライフスタイル感を確固たるものにした車である。

1994年製 E500(W124)。現在でも名車と呼ばれるE500(W124)。初期型はポルシェ工場で組んだこともありポルシェラインと呼ばれた。

もうひとつ、歴代Eクラスに試乗して気付いたことがある。それは、乗り心地が驚くほど似ている点だ。 基本的にはハーシュネスが優しくてゴツゴツした印象は薄いのだけれど、ここに絶妙なバランスでフラット感が加わっていたのである。それも、強力なダンパーで無理やりフラットな姿勢に抑え込もうというのではなく、フラット感はほどほどにして不快なショックの吸収を優先したセッティング。そのいっぽうでピッチングも適度に抑え込まれているので、ロングクルージングでも乗員の疲労を最小限に留めてくれそうな印象だったのである。

原点はひとへの優しさ


そして新型Eクラスも、これと同じ乗り心地で仕上げられていたのは嬉しい発見だった。「医学的に正しいのだから、徹頭徹尾フラットな姿勢を守り続ける」という頑なな姿勢ではなく、そこに、ほんの少し人間の感性に振ったチューニングを施してあるのがメルセデスらしいし、高級車としての本分だと思う。数年前までの「ハンドリングはアジリティが命」的なセッティングから大きく方針転換したことは、往年のメルセデスに強い憧れを持つ私にとってとりわけ嬉しいことだった。

しかし、メルセデスの歴史を感じさせたのは、ここまで。それ以外の領域は、いずれも最新のテクノロジーがふんだんに投入されていたので、ここでご報告しよう。

ボンネットやピラー付近のシーリングを徹底したことによるものか、風切り音が少なく快適。そして乗り心地の良さがとにかく素晴らしい。静粛性が高く乗り心地が良ければ車としての上質感の評価は高くなる。

まず、パワートレインは4気筒エンジン中心に生まれ変わった。しかも、全タイプにマイルドハイブリッドもしくはプラグインハイブリッドが組み合わされている。2024年初頭と予想される日本導入時にもエンジンは4気筒主体と見込まれているため、試乗会場でも4気筒モデルのキーを積極的に選んでテストドライブに連れ出した。

それでも、4気筒に起因すると思われるデメリットはほとんど感じられなかった。たとえば2000rpm以下であれば、ガソリンでもディーゼルでもノイズやバイブレーションはほとんど気にならず、トルク感も必要にして十分。プラグインハイブリッドを組み合わせたモデルのほうが多少トルクに余裕があるように感じられたものの、基本的な印象に大きな違いはなかった。したがって、よほど飛ばすドライバーでない限り、パフォーマンス的には4気筒モデルで十分というのが私なりの結論だ。

新型Eクラスで注目されるもうひとつのポイントがADAS、つまり運転支援システムの充実振りである。なかでもアクティブ・レーンチェンジ・アシストを中心とするアクティブ・ディスタンス・アシスト・ディストロニックの機能の豊富さには舌を巻いた。

高速道路などでこのシステムを立ち上げると、制限速度に応じてアダプティブ・クルーズ・コントロールの設定速度も自動的に変更。速度違反することなしにクルージングを続けられる。日本と違ってほんの数km/hの違反でも罰金をとられるヨーロッパでは、これは実に有用な機能だ。しかも、クルージング中に遅い車両に出くわした際には、後方の安全確認をしたうえで自動的に追い越し車線に出て、追い越し終了後は自動的に走行車線に戻る機能も備えている。

また、ナビゲーション・システムの目的地を設定しておけば、目指す出口が近づくと自動的に出口側へと車線変更してくれるほか、カーブ手前では自動的に減速してくれるのだ。

この手の機能、必要以上に減速してドライバーにストレスを与えるケースが少なくないが、新型Eクラスのシステムはその辺の速度コントロールが絶妙で、「そうそう、自分もたぶんこのくらい減速する」というペースを維持してくれるのも嬉しいポイントだった。

もっとも、こうした機能がすべて日本でも同じように役立つかといえば疑問だし、なかにはアクティブ・レーンチェンジ・アシストのように日本では当面、使用が認められない機能もあるのは残念。とはいえ、メルセデス・ベンツを始めとするヨーロッパのプレミアムブランドが、こうしたADAS、インフォテイメント、コネクティビティの開発に熱心なことは紛れもない事実である。

ADASの進化にくわえて、乗り心地の快適性、ドライバーのミスにも寛容な操作系の作り込みなどは、メルセデス・ベンツの「人に優しい」思想が貫かれた結果といえそうな気がする。そして「人に優しい」伝統が、70年以上も前に作られたEクラスの祖先から綿々と受け継がれてきたことを、今回の国際試乗会で再確認した次第である。

新型 Eクラスのボディサイズは全体的に大きくなっている。全長 4949mm×全幅1880mm×全高1468mm。これは現行型と比べると9mm長く、30mm広く、13mm高くなっている。またホイールベースも22mm長い。


文:大谷達也 写真:メルセデス・ベンツ
Words:Tatsuya OTANI Photography:Mercedes-Benz

大谷達也

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