メルセデス・ベンツSLの70年|歴代SLシリーズをつなぐ共通項はあるのか?

Octane UK

メルセデス・ベンツがブルックランズに、初代300SLガルウィングから最新の2023年型メルセデスAMG SLまでを集めた。70年にわたるSLシリーズをつなぐ共通項は本当に存在するのだろうか?それを知るには、実際に乗ってみるしかない。

私はまず、現行のエントリーモデルであるSL43に乗り込む。43は2.0リッター4気筒ターボに、F1にインスパイアされたマイルドハイブリッドドライブトレインと9速オートマチックが組み合わされている。0-62mph加速は4.9秒、最高速度は171mphと数字上は十分だが、少々控えめな印象を受ける。おそらく、近年の6気筒や8気筒のAMGと比べると、聴覚的なインパクトに欠けるのだろう。



ハンドリングに関してはアグレッシブというよりは落ち着いた感じだ。スポーツカーではなくGTであり、スポーツモードにしてもサリー・ヒルズの道の凹凸にはそこまで不快感を覚えない。車重は1810kgと決して軽くはないが、公道ではその重さが気になることはほとんどないし、高回転域で最高のフィーリングを発揮するのは確かだ。

ルーフを閉じると車の性格も変わる。煩わしいことに、これはボタンではなくタッチスクリーンでの操作によって屋根の開閉を行うのは少しもどかしくも感じるが、歓迎すべき変化なのだろう。この車は、リラックスしてゆっくりとしたペースで走ると、本当に最高のパフォーマンスを発揮する。

最初の目的地であるビーバーブルック・エステートに向かいながら、私はドライブトレインについて考えた。

かつてAMGを買うということは、「大きく」「騒々しい」V8を手に入れるということだった。このモデルは10万8165ポンド(約1700万円)という価格で販売されているが、エンジンは魅力的であるものの価格に見合った刺激が得られるとは言えない。

人によっては受け入れ難い事実かもしれない。しかしこれは190SLのもつ特徴と同じだといえば納得できるだろうか?190SLは1955年に登場した生産性の高いオープントップのロードスターだ。私は常々、この車は「本物」のSLが持つ魅力の多くを備えていながらも、決して高価な車であるべきはないと考えていた。エキゾチックなスペースフレームシャシーはなく、高回転型レース用フューエルインジェクション6気筒の代わりに105bhpの4気筒が搭載されているからだ。

しかし次に試乗する190SLを見て少し驚かされた。というのも、メルセデス・ベンツ・クラシックが持ち出したのは普通の190SLではなく、軽量レーシングバージョンのレプリカだったからだ。オリジナルは1955年に競技用として製造されたもので、ウインドスクリーンがなく、かなりの重量が削ぎ落とされている。この個体はノーマルの190SLをベースに、1980年代に150馬力のエンジンに換装されたものだ。さっそく乗り込んで、地元の道を走ってみる。



ウインドスクリーンのない車は、五感を刺激する。ノーマルはアメリカ市場を念頭にデザインされたグランドツーリングだったが、これはまったくの別物だ。車から放たれるサウンドは反社会的とも言えるが、周りを走る車のドライバーからは満面の笑みしか返ってこない。特別速いとは感じないが、思わず笑ってしまうほど楽しく、驚くほど俊敏で反応もいい。4速マニュアルギアボックスも正確だ。AMGに乗った後に味わう190SLは、たとえスピードメーターが時速50マイルを超えるのがやっとだったとしても、エスプレッソのような少量で強い刺激を感じることができる。

根本的にこの車はSLの魅力を如実に物語っている。このSLはフルウインドスクリーンがないにもかかわらず、快適で運転しやすく、何より見た目もサウンドも素晴らしい。



いよいよシリンダー数を増やす時が来た。クラシックにこだわって、私はR129 SL500を選んだ。数年前にW140 Sクラスに乗っていた数カ月の穏やかな日々を思い出す。ちなみに、このミュージアムカーには、長年開発車両として使われていたという興味深い裏話がある。そのためもともとは1994年に製造されたものなのだが、2000年に発表された「SLエディション」仕様になっており、まるで最終モデルのような走りを見せる。

私の古いW140やほとんどの古いメルセデスと同様、調整には少し時間がかかる。スロットルペダルのストロークが長いので、何かが起こる前に足をかなり動かさなければならない。そう、何かが起こる“前”にね。ステアリングホイールは幅が広く、アシストはほとんど指先ですむほどの軽さだ。スポーティとは言い難いが、数週間一緒に暮らせば、すぐにすべてが理にかなっていることがわかるだろう。この車は、旅の始まりよりも終わりのほうがリラックスできるようなドライビングスタイルを提供してくれる。



個人的には、ブルーノ・サッコのデザインは驚くほどよく熟成されていると思うし、当然のことかもしれないが、このSLは最高のクルーザーであることを証明している。ルーフを下ろしても、306bhpの5.0リッターV8エンジンが邪魔をすることはほとんどない。

ブルックランズへの帰り道では、もう1台のV8、最新の最上モデルSL63の出番だ。



エンジンに火を入れると、思わず笑みがこぼれる。このサウンドに代わるものはない。これは4.0リッター・ツインターボで、577bhpという驚異的なパワーを誇り、0-62mph加速3.6秒、最高速度196mphというスーパーカーに迫るパフォーマンスを発揮する。

価格は17万1965ポンド(約2890万円)で、ベントレー・コンチネンタルGTをはじめとするライバルとの厳しい競争にさらされているが、4輪ステアリングや電子制御デフなど、43から一歩進んだシャシー・セットアップが採用されており、プッシュしたときの63のバランスは驚異的だ。

SL63は全面的なスポーツカーにはなり得ないが(なろうとする必要もない)、4マチック四輪駆動システムと賢いEデフのおかげで、ハードにプッシュしても最高の落ち着きを保つ。

パフォーマンスもさることながら、SL63はルーフを下ろして、他の車と同じように、常識的なペースでクルージングするのが一番楽しい。結局のところ、SL63はまったく異なる車ではあるのだが、歴代のSLを乗り継いでみると、ドライバーをどんな状況でも気持ちよく走らせるという目的意識が共通していることがわかる。そう、確かに共通項があるのだ。


文:Matthew Hayward

Matthew Hayward

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