Audi Q8 Sportback e-tronで、晩秋の京都を目指すロングドライブへ

Atsuki KAWANO



ハイパワー急速充電だからこそ旅行中の貴重な時間が失われない


2日目は伊豆縦貫道から新東名高速道路を経て、一路京都へ。だが、それでは旅が早々に終わってしまうし、400㎞近い距離で途中、長い登り坂を含む道のりだけに、一度は急速充電を挟むだろう。ひとまず第2東名を西に、Q8 Sportback e-tronを走らせた。

車線もワイドかつ平滑な路面でハイペースを刻むことは、このクーペSUVのEVが得意とするエクササイズのひとつだ。浜松付近、120㎞/h制限の路上でACC(アダプティブクルーズコントロール)を設定して巡航する際の頼もしさ、さらに静粛性の高い車内のコンフォートぶりは流石だった。風の強い日ながら、通常のSUVに比べてクーペSUVとして空力特性にも優れるのだろう、風切り音もほぼ無ければ横風の影響も受けづらく、際立った巡航能力を見せつけた。電気になってもクワトロ・システムの底力は、速度無制限区間でなくても、自然と滲み出るものなのだ。

伊豆で山の風情を堪能した後だったので、愛知に入って蒲郡周辺を少し散策することにした。蒲郡には「三河のモン・サン・ミシェル」と称される竹島がある。陸と橋で繋がった小さな島ゆえの呼び名だが、ローカルとはいえ古くは昭和天皇や皇族方が足繁く訪れた景勝地でもある。柑橘の木々に囲まれ、碧い海に面し、12月というのに南国のような陽射しが降り注ぐこの地域は、少し地中海のひなびた街にも似ている。

三河・中京地区の保養地として有名な西浦温泉に至る海沿いの道は、パームツリーの並木に彩られ、海を挟んで蔵王山を遠方に望む。

蒲郡の側から「三河のモン・サン・ミシェル」こと竹島を望む。本家は修道院だが、こちらには八百富神社が祀られている。

遠くに豊橋港を仰ぎながら、海岸線沿いを南西に進むと、今度はカリフォルニアと見まがうばかりの、西浦シーサイドロードというパームツリー並木の通りに出る。三河湾沿いは小粒とはいえ、わざわざ周り道するのに値する、個性的な名勝や風景が多々ある。

下道を走るうちに、朝からの移動が250㎞を超え、バッテリー残量が40%を切った。そこでスマホの「PCA(プレミアムチャージングアライアンス)」アプリで調べると、新東名高速道路に戻りがてら、アウディ岡崎の「アウディ ウルトラ チャージャー」が程よい距離にあった。到着早々、32%から充電スタートすると、みるみるうちに138kWほどに電圧が高まった。「今、瞬間的ですが150kWと出ていましたね」と、雑談に応じてくれたアウディ岡崎の営業ディレクター氏が、目敏く教えてくれた。30分強ほどで80%を超えるほど電力量が復活した。再び京都を目指すには、十分だ。

新名神の京都東インターチェンジを下りて、五条は西本願寺近くにある「デュシタニ京都」へ着く頃には、冬の宵闇が早くも迫っていた。Q8 Sportback e-tronの、高速とうって変わり、街では軽快さを増すステアリングとフットワークが、じつにアウディらしい。

ところでデュシタニ京都は、2023年9月にオープンしたばかりの外資系ホテルで、母体のデュシット・インターナショナルはタイ資本のグループだ。じつはバンコクのデュシタニホテル旧館の建築は、旧ホテルオークラの建物と同じく故柴田陽三氏が手がけている。

組木のようなファサードの奥、外から見えづらいエントランスは、京都らしい控えめさの表現といえる。落ち着いた配色と素材で統一されたロビーからは、大きなガラスの仕切りの向こうに光のこぼれる中庭が見える。新しい建物なのに、オフィス棟のような冷たさを一切感じさせない。微笑の国・タイらしい寛ぎと日本のおもてなし文化が重なり合うような落ち着いた接客も、確かにいにしえからの国際都市である京都にこそ似合う。

優雅なホスピタリティやモダンで心地よい部屋のみならず、タイの伝統料理や鉄板焼き、隠れ家的なバーや本格的なタイ流のスパまで充実しているのが、「デュシタニ京都」の魅力だ。
「デュシタニ京都」www.dusit.com/thanikyotojp


さらにゲストルームのレベルも高い。もっとも控えめなツインルームでも40平方メートル確保しており、日本のチェーンホテルの大半は眼中にないであろうほどの、質とアメニティが備わる。設えも趣味もいいのだ。

デュシタニ京都の「インペリアル スイート」。173m2の広さにキッチンやサロン、執務デスクの他、日本の名ウイスキーも揃うプライベートなバースペースがある。最上階に位置し、京都タワーなど街並も一望できる。

もうひとつデュシタニ京都の美点は、京都駅や四条河原町に近い洛中にありながら、車でのアクセスが至便であること。しかも広々した地下駐車場には、8kW普通充電器を4基も備えている。

純正か公共かを問わず、150kW急速充電器で安定した充電性能を発揮。30分もかけずに200㎞以上の航続距離が回復するメリットは、旅では尚のこと大きい。またデュシタニ京都の駐車場にはアウディ純正の8kW普通充電器が設置されており、ホテルやダイニング、スパなどと同時に使用できる。宿泊の夜に充電し、翌朝を満充電に近い状態で迎えられる利点がある。

快適な眠りから覚めた翌朝、90%超までバッテリーを回復したQ8 Sportback e-tronで京の街を散策、白川筋から東山にかけてちょっとした朝駆けに出た。

するとこれまでEVであるがためにモダンの極みのように思えたQ8 Sportback e-tronの、乗り手や周囲の人に対して柔らかな一面というか、伝統的な車造りに根差すがゆえの完成度を、俄然、意識させられた。冷え込みのまずます強い朝だったが、車に戻るたびにシートヒーターのみならずステアリングヒーターが指先まで温めてくれる。またアコースティックガラスが外界の喧騒を隔てるレイヤーとして機能しつつも、救急車が近づく際のサイレン音などはきちんと伝わってくる。3日目にしてすっかり馴染んだ車内の操作系といい、新奇さがそのまま粗さといったEVにはついぞ感じられない、「ホーム感覚」すら芽生えてきたのだ。

町屋の立ち並ぶ狭い通り、継ぎ目の多い石畳の道でも、Q8 Sportback e-tronの静けさとしなやかさは変わらない。操舵角や速度に応じてプログレッシブとなるステアリングのフィールも自然で、乗り味自体が一貫して滑らかなのだ。

祇園のような伝統的な街並を美しく映し込むことで周囲に馴染みながらも、ほどよく主張するアピアランス。むしろ土地独特のランドマークや風景と張り合わないデザインが、新しい世代の欧州的感性の所産といえる。

京都市内を小一時間ほど走り回った後、バッテリー残量80%から、450㎞先の東京へ帰ることにした。微妙に足りないので、途中の浜松サービスエリアで今年設置されたばかりの、公共の150kW急速充電器を試してみた。

25%から継ぎ足したのだが、ここでもQ8 Sportback e-tronの急速充電許容度は安定していた。137~138kWを保ったまま、たった20分で82%まで回復したのだ。予想航続距離は一気に400㎞近く、東京まで十分にもつ。隣で90kW充電中の某SUVより後から着いて先に出発できたのだから、上々だ。

Q8 Sportback e-tronでのロングドライブは、移動距離の長さの割に疲労が少なく、移動自体がイージーかつ素早く済んでしまう。だから次々と、新しい場所や風景が入れ替わり立ち替わり現れる感覚を覚える。ある意味、それは検索リサーチとブラウジングを繰り返すのにも似ている。それこそ優れたEVは、単なるICE車の代替以上の何かで、まったく異なる感覚の乗り物だ。その魅力や面白さは、乗り手の側に移動に伴うセンセーションや心地よさとは何か、新しい経験則を獲得すること、知覚の刷新を迫ってくるのだ。


文:南陽一浩 写真:河野敦樹
Words:Kazuhiro NANYO Photography:Atsuki KAWANO

南陽一浩

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