フランス・ギメ東洋美術館で『源氏物語』の世界に浸る|『源氏の宮廷にて 1000年の日本の想像力』展

Tomonari SAKURAI

ギメ東洋美術館はエミール ギメによって誕生した美術館だ。ルーブル美術館の東洋美術のコレクションを加え、4万5000点以上の所蔵作品を誇る。日本のものに関しても、縄文時代からのコレクションが所蔵されている。

この美術館で今話題になっている展示が、11月22日〜2024年の3月25日まで開催されている「源氏物語」。2024年からの大河ドラマのテーマが紫式部であることを意識しているかどうかは定かではないが、日本大好きのフランス人の友人に誘われて行ってみた。

『源氏の宮廷にて 1000年の日本の想像力』と題された特別展。

この展示では多くの源氏物語を題材にした版画が展示された。視覚から訴える展示ゆえ、フランス人にもその世界をイメージしやすい。源氏物語自体はフランス語版があり、もちろん日本好きのフランス人には知られている。ただしその長さに読破している人はなかなかいないようだ。フランスで最も長い小説はマルセル・プルーストの“失われた時を求めて”だが、源氏物語の長さはこのマルセル・プルーストと比較して語られることが多い。とはいえ、1000年前の十二単の平安時代のスタイルを文字だけで想像するのは難しい。幸い、今回は多くの絵や版画でその世界が表現されているため、観る人も源氏物語の世界を想像しやすい展示となっている。

会場で実際に観ていくと、源氏物語の版画がいかに多く作られたことがわかりはじめる。たしかに源氏物語が書かれた11世紀にはまだ版画の技術はなく、江戸時代に入って版画に人気が出てくると版画職人、当時のアーティストがこの源氏物語に触発され、イメージを画にしていったと言われている。それほど源氏物語はアーティストに刺激を与えた作品だったようだ。

日本の100人の詩人というイラスト入りの本。19世紀のもの。源氏物語版画と手書きをあわせて本として綴じられている。

源氏物語という日本の生んだ小説の世界をまた、日本独特のスタイルを持つ木版画の世界とつなげて展示を展開するやり方がフランス流だと感じる。これらの多くの版画のコレクションはギメ美術館の所蔵するコレクションやフランス国立図書館の所蔵するものだ。

こちらは綴じられずに残った版画。

岳亭春信による個人向けに作られた版画には様々なテクニックが用いられた当時の日本の版画の技術の高さを見られる作品。

そしてこれぞフランス式!と感じたのは漫画の世界だ。源氏物語のアニメと漫画を大きく展示している。

源氏物語の漫画とアニメのコーナー。源氏物語が、いかに現代の漫画やアニメに影響を与えたかという展示。

漫画本がケースに入って展示。

最後にフランス人の目を釘付けにしたのは山口 伊太郎による源氏物語錦織絵巻だ。4巻に分けられた作品は2セット制作され、そのうち1セットをフランスに寄贈している。明治時代に織物の機械技術をフランスから伝えられ、それが錦織に大きな発展を促した御礼として寄贈したという。その展示を、フランス人の愛好家達は興味深くたっぷりと時間をかけて鑑賞していた。大人だけでなく多くの学生達(おそらく中学生くらい)も仲間同士で熱く語りながら展示を観ている姿が印象的だった。

山口 伊太郎が37年の歳月をかけて作り上げた源氏物語の西陣織。

真剣に展示品について語り合う学生。

今回の展示では日本の文化が「フランス人目線」で展示されており、日本の文化がフランス人にどのように観られているのか?が分かったのは非常に興味深いことだった。展示タイトルの『1000年の日本の想像力』にもあるように、源氏物語が日本に影響を与えた1000年の想像力の展示が、現代のフランス人にどう映るのか。それを目の当たりにするだけでも、来た甲斐があったというものだ。

なお会期中は風呂敷、茶会、日本画のワークショップなども企画され日本文化がより深く体験できる催しとなっている。


写真・文:櫻井朋成 Photography and Words: Tomonari SAKURAI

櫻井朋成

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