ゼロエミッションから、最高速300km/hの世界まで|ポルシェカイエンターボE-ハイブリッドの底力

Porsche

カイエンは、世界でもっとも売れるポルシェだ。初代の登場以来、累計販売台数は125万台以上。2022年のポルシェのグローバル販売台数は約31万台。そのうちカイエンが9万5604台で1位、マカンが8万6724台で2位に続く。2023年は第3四半期までは、マカンが68354台で1位、カイエンは64457台で2位となっているが、4月に新型がワールドプレミアされたばかりなので第4四半期には巻き返すことになるだろう。

ポルシェ史上、最大級の広範な製品アップグレード


2023年4月の上海モーターショーで発表された新型カイエンは、いわゆるマイナーチェンジ版だ。しかし、 “ポルシェ史上、最大級の広範な製品アップグレード”とうたうだけあって、変更点は多岐にわたる。

ポルシェはいま2030年までに80%超の市販車を内燃機関から電気自動車へとスイッチしていく目標を掲げる。タイカンに続く電気自動車の第二弾は、来年の発表が噂される次期型マカン。そして翌年にはカイエンのBEV版が登場する予定だ。内燃エンジン搭載車も併売されるというが、おそらくこの新型が内燃機関を搭載する最終世代のカイエンということになりそうだ。

新旧を区別しやすいようエクステリアをデザイン変更しないのは、ポルシェモデルに共通する流儀だ。まずヘッドライトの形状が変更された。目頭のあたりに注目すると先代では丸みを帯びているのに対して、新型は尖ったエッジの効いたデザインになっていることがわかる。またマトリクスLEDヘッドライトが標準装備となったが、新たに「HDマトリクスLEDヘッドライト」がオプション設定された。これは各ヘッドランプが3万2000以上の画素で構成されており、他車を識別するとハイビームを画素単位で遮断しドライバーの眩惑を防ぐというものだ。ヘッドライトの変更にあわせてボンネットのデザインもより立体的に、バンパーの開口部は大きくスクエアな印象になった。リア部分では、先代では横一文字のリアコンビネーションランプの中央部分がくぼんでいたが、新型では1本の力強いラインに見えるよう変更されている。





インテリアはフルモデルチェンジといえるほどの全面改良が行われた。電気自動車「タイカン」のデザイン要素を取り入れたもので、メータパネルは、ナセルのないフリースタンディングデザインの12.6インチ曲面ディスプレイを採用。センターディスプレイのほかオプションで助手席専用のディスプレイも用意された。オートマチックギアセレクターは、ステアリングホイールの隣に移設し、これによりセンターコンソールにスペースが生まれ、ブラックパネルデザインの大型エアコンディショナーコントローラーを配置するなどしている。



豊富なモデルバリエーション


ポルシェのもうひとつの流儀として、モデルバリエーションの豊富さがある。まずボディタイプはSUV(標準)とクーペの2種類がある。導入初期のグレード展開は、3リッターV6のベースモデルとなる「カイエン」にはじまり、それをベースとしたPHEV(プラグインハイブリッド)の「カイエンE-ハイブリッド」、そして、4リッターV8ツインターボエンジンを搭載する「カイエンS」にはじまった。

そして、10月にスペイン・バルセロナで行われた国際試乗会に新たに用意されたのは、「カイエンSE-ハイブリッド」と「カイエンターボE-ハイブリッド」の2種類のPHEVだった。新型では先の「カイエンE-ハイブリッド」とあわせて3種類のPHEVモデルを設定したことになる。それらを総称して「カイエンE-Performance」と呼んでいた。

今回の試乗会のメインは、「カイエンターボE-ハイブリッド」だ。“ターボ”の名が冠されているようにフラッグシップモデルという位置づけとなる。最高出力599PS、最大トルク800Nmの4リッターV8ツインターボエンジンに、最大出力130kW(176PS)、最大トルク460Nm、モーターを組み合わせ、パワーユニットの合計出力は“カイエン史上最高”の739PS/950Nmにと到達。0-100km/h加速3.7秒、最高速度は295km/hを記録する。



試乗会の出発地点となるバルセロナ市街地のホテルでターボE-ハイブリッドの鍵を受け取る。新型はバッテリー容量を先代の17.9kWhから25.9kWhに増大したことで、電動航続可能距離は最長82km(WLTPモード)を実現する。スタート時には満充電には少し欠けていたようで、メーターには航続可能距離66kmと表示されていた。

電動走行モードであるE-POWERで走りだす。早朝のホテルで排気音も排気ガスも出さないというのは後ろめたさがなくていい。バルセロナ市街地は通勤のクルマやバスで大渋滞している。電動走行のまま街をくぐり抜けて高速道路に入る。スペインの高速道路は片道2車線または3車線で、制限速度は100 km/h から120km/hと日本と似た設定だ。 ターボE-ハイブリッドは約130km/hまでは電動走行が可能なためエンジンが始動することはない。

しばらく高速走行を続けたのち、ナビゲーションにしたがって高速道路を下りて山間のワインディングロードに入った。約2.5トンという車重を感じさせず、わずかな指の力に呼応する軽快なハンドリングでタイトなコーナーをクリアしていく。スタート後59kmを走行した時点でようやくエンジンが始動した。掛け値なしでこれくらい走ることができれば、日常生活は電気自動車として使えるだろう。バッテリー残量が少なくなれば、エンジンの動力を使ってバッテリーを充電するE-CHARGEモードもあるので高速走行中に充電をして、市街地では電動走行するといった使い方もできる。

ナビゲーションの目的地は、バルセロナ郊外にあるサーキット、パルクモートル・カステリョリだった。全長4,140m、11コーナーがあり高低差は約50mもあるテクニカルなコースだ。ここではターボE-ハイブリッドのクーペボディにのみ設定される新グレード「GTパッケージ」を試す。

実は先代には、ニュルブルクリンク北コースでSUV最速タイムを記録した「ターボGT」というモデルが存在した。新型にも設定はあるが、日本や欧州などでは排ガス規制に適合せず、主に北米と中国で販売されるという。その代替として新設されたのが「GTパッケージ」だ。ボディ外板にカーボンパーツを多用し、軽量バッテリーなどを採用することで、ベースモデル比マイナス100kgの軽量化を実現。車高は10mm低められている。これにより0-100km/h加速は3.6秒に短縮、最高速度は305km/hに到達する。

サーキットにはインストラクターがドライブする911ターボを先導車にコースインする。走行モードをスポーツプラスモードに切り替えると、青く焼けたチタンマフラー内のフラップが開き、野太いV8サウンドが車内に響く。新型カイエンの開発マネージャーに今回注力したポイントを尋ねると、新開発のシャシーだと答えた。



ターボE-ハイブリッドが標準装備するアダプティブエアサスペンションは、伸側と縮側を別々に調整してくれる2チャンバー、2バルブ技術を採用したものという。これはワインディングロードでも感じたことだが、スポーツやスポーツプラスモードでもかたすぎず、しなやかにアシが動く。試しに縁石にタイヤをのせてみてもタタタンと小気味よくいなす。まさに洗練という言葉がふさわしい乗り味だった。

驚くほど起伏の激しいサーキットで、裏のストレートでは速度は200km/hを超える。そこから下りの侵入で一気にハードブレーキングと、並のSUVならすぐに音を上げてしまうはずだが、そこはさすがのポルシェで、GTパッケージにはPCCB(ポルシェセラミックコンポジットブレーキ)を標準装備しており、強くブレーキペダルを踏み込めば4つのタイヤがグイっと地面をつかみ、きっちりと速度を抑え込んでくれる。

「カイエンSE-ハイブリッド」にもわずかな時間だけ試乗することができたが、明らかな違いはその軽さ。クーペボディのSE-ハイブリッドとターボE-ハイブリッドを比べた場合、車両重量には155kgの差がある。もちろんターボにはそれを補ってあまりあるパワーがあるのだが、市街地などで乗り比べてみると前者のほうがやはり軽快だ。最高速や大パワーを求めず普段使いを重視するなら電動航続可能距離は最長90kmまで延びるし、こちらもありだ。

ターボE-ハイブリッドは、市街地でのゼロエミッションから、最高速300km/hの世界までその振り幅の広さこそが魅力なのだ。100%電動化へと向かうその過渡期だからこそ味わえる、V8ターボとモーターのハイブリッドならではの魅力がつまっている。




文:藤野太一 写真:ポルシェ
Words: Taichi FUJINO Photography: Porsche

藤野太一

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