ルノーが生み出した、超本気なハイブリッド|アルカナとルーテシアのE-TECHを試乗レポート

Kazumi OGATA

自動車メーカーの多くが一斉に電動化に舵を切っている主因は、ピークオイルとCO2の発生に伴う地球温暖化の問題であることは言うまでもない。石油の生産量が頭打ちし、いずれは枯渇していく。さらに化石燃料を燃やし続ければ、地球温暖化がますます進んでしまう。内燃機関車を使い続けるのは難しいから、電動車両を増やすべきだという理屈だ。

この理論を総論として肯かないメーカーは皆無だが、各論はバラバラというのが現在の状況だろう。発電の70%以上を火力によって賄っている日本のような国で、BEVの割合を増やすことは、はたして正義といえるのか。中庸と言われようと、当面はハイブリッドカー(HV)を使用し続けることが現時点では最適解とするメーカーの判断は、妥当なものだと思う。

供給するメーカーのみならず、日本の自動車ユーザーも同じ考えなのだろう。2023年6月の燃料別販売台数(乗用車)において、HVの割合は55.6%にのぼる。ガソリン車は34.6%、ディーゼルは5.7%、EVに至ってはわずか1.8%にすぎない。



残念なのが、人気を集めている割には、HVの構造についてユーザーへの認知が今ひとつ進んでいないことだ。ハイブリッドシステムは大まかに分けると、パラレル方式、シリーズ方式、スプリット方式に大別できるのだが、それぞれの構造やシステムについて理解している人は少ないと思う。これが内燃機関であれば、レシプロとロータリー、直列とV型と水平対向、SOHCとDOHCの違いなんてものは、ちょっとした車好きなら誰でも、立て板に水で説明できるのに。

ルノーがスプリット方式(ストロングハイブリッド。ルノーはフルハイブリッドと呼ぶ)のHVを登場させたにも関わらず、どうにも市場の反応が薄かったのは、そんなところに理由があると思う。

マイルドハイブリッドなど国内外の多くのメーカーが採用するパラレル方式や、日産のe-POWERなどよりEV的な操作感覚を得られるシリーズ方式に対して、これまでスプリット方式の採用例は極めて少なかった。というより、トヨタの独壇場だった。そこに殴り込みをかけたのはよっぽどのことだ。喩えるなら、マツダ以外のメーカーがロータリーエンジンを作ってきた、というくらいのインパクトなのに。

スプリット方式はいわば「全部乗せ」ゆえに、開発に手間も時間もお金もかかる。だからどこも手を出さなかった。手軽に作れるマイルドハイブリッドが主体の欧州勢にあって、なぜ突如としてルノーが本気を出したのか、昨年コンパクトSUVのキャプチャーに試乗をしたときから疑問を持っていた。想像よりもはるかに完成度が高かったから、ますます本気度が伝わってきた。





ルノーのフルハイブリッドはクロスオーバータイプのアルカナ、コンパクトカーのルーテシアとコンパクトSUVのキャプチャーにラインナップしている。海外ではEVとPHEVを含めた電動車両の総称として「E-TECH」と呼んでいるが、日本ではハイブリッドのみの展開だ。1.6Lの自然吸気エンジンに、メインとサブのモーターを組み合わせたドライブトレインは、エンジン側に4速、モーター側に2速のギアを備え、ドッグクラッチを組み合わせるという独特の構造をしている。

改めて今回、アルカナとルーテシアのE-TECHに試乗し、スムーズで滑らかな走行性能を再認識した。この超本気なハイブリッドをルノーが突然生み出した原因は、どうやらF1にあるらしい。2014年から、F1のパワーユニットはハイブリッド技術を導入することがレギュレーションで義務づけられ、ルノー/アルピーヌF1も開発を強いられた。モータースポーツで鍛えられた技術と走行データをフィードバックした副産物として誕生したのが、このE-TECHのハイブリッドということなのだ。

確かにドッグクラッチはモータースポーツ車両でおなじみの機構だ。構造的にはMTと類似していてシンプルで、クラッチもトルクコンバーターも必要としない。回転同調はモーターを電子制御する。だからミッションだけでかなりの軽量化と省スペース化を図ることができたという。





実際にアルカナに乗ってみると、40km/hほどまではモーターでスムーズに加速し、それ以上の速度域ではエンジンとモーターがバランス良く使われる。エンジン音がやや主張する印象を受けたが、決して不快に感じるレベルではない。高速道路でも実にスムーズだ。

エンジン4速、モーター2速のギア制御は、とにかく緻密な印象。現在、どのギアで走行しているかは全く感じ取れず、ただただスムーズ。多段化されたステップATやCVT、DCTなどあらゆるギアと比較しても、現状でもっともスムーズなのはこれなのではと感じされられるレベルだ。

乗り心地は、往年のフランス車然とした緩やかな足回りなどどこへやら。まるでドイツ車のような、キビキビとした走行性能が印象的だ。特にルーテシアは、露骨なほどに身のこなしが軽いのだが、首都高速のジョイント部分を華麗に捌く、乗り心地の良さに感心させられた。燃費面以外の部分でも、車はやはり軽いほうが正義だと改めて感じた。



今回、アルカナとルーテシアに新しく設定されたグレード「エンジニアード」は、まずフロントグリル「F1ブレード」やサイドステップなどに差し色的に入れられたウォームチタニウムカラーが印象的だ。インテリアも同色がインパネなどに入れられ、アルカナにはBOSEのサウンドシステム、ルーテシアには360度カメラが標準装備として加わった。



欧州メーカーのコンパクトカーが、小排気量エンジン+過給器、マイルドハイブリッド、EVというラインナップを定番とするなか、フルハイブリッドを武器を得たルノーは、日本でより受け入れられやすい状況になってきた。強豪ひしめくサイズと価格帯だが、十分に太刀打ちできるどころか、ライバルをなぎ倒すポテンシャルを備えつつあると思う。


文:渡瀬基樹 写真:尾形和美
Words: Motoki WATASE Photography: Kazumi OGATA

文:渡瀬基樹

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