ルーフはまるで魔法の扉。フェラーリ575スーパーアメリカに魅せられる

Aston Parrott


マニュアルはとりわけ稀少


ルーフの話に戻ろう。オープンにするとリアスクリーンはウィンドディフレクターとして風の巻き込みを抑える役目を果たす。また一般的なコンバーティブルとは異なり、ルーフの開閉状態にかかわらずトランクスペースはそのままで、かつ出し入れすることができる。コクピットに座っている時にはルーフガラスのもうひとつの仕掛けを試すことができる。およそ1㎡のガラスは、センターコンソールのダイヤルによって5段階に透過度を変化させることができるのだ。サンゴバン社によって初めて開発されたこれは、2層のガラスの間に調光フィルムを挟み込んだもので、わずかな電流を流すことによって約60秒で透明度40%からほぼ真っ黒に変化する。

しかしながら、新車当時からほとんど20年が経過し、その特徴的なガラスルーフは深刻な問題となる場合もある。この記事で紹介している素晴らしい車を含めて、これまでに何台ものスーパーアメリカを扱ってきたベル・スポーツ&クラシックのピーター・スミスはこう説明する。

「実際には作動方式だけでなくルーフもとても華奢なんだ。時間が経つにつれて、積層ガラスの間に水が浸入してガラスの被膜が剥がれてしまうことがある。その点は注意してチェックしなければならない。交換部品は現在でも手に入るものの、大変に高価だ。透過度を変えるレオスタットの作動状況にも同様に注意しなければならない」

限定生産モデルとして、スーパーアメリカはインテリアにも様々な特別仕様が与えられている。インストルメントクラスターには、カーボントリムで縁取りされたイエローまたは赤いレブカウンターが備わる。カーボントリムはルーフコントロールスイッチやラジオの周囲にも配されており、さらに大変に人気が高いデイトナスタイルの穴開きレザーシートが標準装備されている。

2005年当時の「限定生産」とは実際にはどのように限定だったのだろうか。フェラーリはスーパーアメリカの発表の際に、生産台数は559台と宣言していた。そのうちの大多数がいわゆるコレクターの手に渡ったと考えられている。それについてピーターは言う。

「限定生産モデルゆえに、オーナーは他にもフェラーリを所有するコレクターがほとんどで、つまり走行距離の多い車はまず見当たらないということになる。昨年走行2万マイルのスーパーアメリカを扱ったが、それはこれまでで最もマイレッジの多い車だった」

「ペイントがオリジナルかどうか、さらにホイールとタイヤがスタンダードかどうかも見るべき点だ。走行の少ない車の問題は、オリジナルのタイヤがそのまま装着されていることだ。もう少なくとも15年は経っているから、安全とはいえない。外観は問題なくとも、実際にはすべてをチェックする必要がある。オイル類や傷みやすい部品もすべて交換しなければならない」と続けた。

比較的新しい車とはいえ、メインテナンスの記録はもちろん重要だ。「何台かはその間隔が大きく開いている。しまい込まれたままだったということだね。その辺を詳しく見なければならない。4~5年ならそれほど問題ではない。まずは登録の記録、そしてその数年の間に何千マイルも走っているかどうかを確かめる。繰り返すが出所と記録が何より大事なんだ」



新車当時の基本価格は19万1000ポンドからというもので、ほとんどのオーナーが選んだF1パドルシフト・ギアボックスは7800ポンドのオプションだった。スタンダードのゲート付きマニュアル仕様は当時人気がなく、それゆえに(575Mクーペやその後の612スカリエッティと同様に)数少ないマニュアルモデルは現在では貴重だ。さらにだいたい4割のスーパーアメリカはHGTCパッケージ(1万4455ポンドのオプション)を装着しており、総額では20万ポンドを軽く超えることになる。そのパッケージは強力なカーボンセラミックブレーキ、それにスポーツ・エグゾースト・システムとより高性能で俊敏なサスペンションで構成される。再びピーターによれば「HGTCパッケージは代表的なオプションだが、必須と言うほどではないと思う。ついていればもちろん素晴らしいけどね」

550や575Mとは異なり、スーパーアメリカはこれまでも安い車ではなかったが、それでもなお、跳ね馬のエンブレムを持つ他のすべてのモデルと同じように、この20年ほどでずいぶんと値上がりした。

「10年前とは大違いだ。ここ3、4年はだいぶ落ち着いてきたとはいえ、現在スーパーアメリカの値段は、走行距離に応じて25万から32万5000ポンドといったところだろう」マニュアルモデルは特に英国のマーケットではまず見かけないが、2021年にボナムスはおよそ2万km走行の車をヨーロッパで52万9000ユーロで売り、アメリカではモントレーのRMサザビーズ・オークションで8000マイル走行の個体に78万6000ドルもの値が付いた。

フェラーリの用語法は時々行き当たりばったりに見えるが、伝説の名前を現代のスーパーカーに復活させるのは珍しいことではない。このロードスターのずば抜けたパフォーマンスとスタイル、そしてGTとしての性能はスーパーアメリカを名乗るにまったく相応しい。クラシックと呼ばれる分野との狭間に位置する上に、古典的なフェラーリ・スタイルと限定生産という希少性、そしてもちろん一風変わったルーフシステムを併せ持つスーパーアメリカはひと際輝いている。

純粋なドライビング性能を求めるならば、より手ごろな575Mクーペのほうが理にかなっている。だが、理性よりも感情を大事にするならばスーパーアメリカの魅力を無視するのは難しい。ルーフが魔法のように開くのを見て、強大で壮麗なV12が目覚める叫びを聞けば、きっと分かってもらえるはずだ。




2005年フェラーリ575スーパーアメリカ
エンジン:5748cc、V12、48バルブ、各バンクDOHC、電子制御燃料噴射 最高出力:533bhp/ 7250rpm
最大トルク:589Nm(434lb-ft)/ 5250rpm
トランスミッション:6段セミAT、後輪駆動、LSD
サスペンション(前/後):不等長ダブルウィッシュボーン、コイルスプリング、電子制御テレスコピックダンパー、スタビライザー
ステアリング:ラック&ピニオン、油圧アシスト ブレード:ベンチレーテッドディスク
車両重量:1790kg 性能:最高速 320km/h/ 0-60mph4.2秒


編集翻訳:高平高輝 Transcreation: Koki TAKAHIRA
Words:Matthew Hayward Photography:Aston Parrott

編集翻訳:高平高輝

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