キャデラックは、今やどの車よりも個性的でオーセンティック

Kazumi OGATA

キャデラックは2022年、創業120周年を迎えた。その歴史は革新的技術の積み重ねでもある。世界で初めてセルフスターターを開発し、パワーステアリングを装備し、量産型V8エンジンを搭載し、世界最速の反応速度を誇るサスペンションテクノロジー、マグネティックライドコントロールを生み出した。これらはほんの一例にすぎない。



しかし、キャデラックにはどこか古き良きアメリカ車のようなイメージがつきまとっていた。ブランドイメージを若返らせ、より広い顧客層に訴求するため、2015年に本社をデトロイトからニューヨークへと移転し、さまざまなキャンペーンを実施する。近年は"BE ICONIC" のブランドタグラインのもと、その個性をより強く主張するコミュニケーションを展開しながら、リリックやセレスティックといったBEVを導入するなど商品ラインアップを拡充し、若くアグレッシブなユーザーの獲得に乗り出している。



現在、国内で販売されているキャデラックのラインアップは、まさにリブランディングを図った5モデル。セダンの「CT5」をはじめ、SUVの「XT4」、「XT5」、「XT6」、そしてフラッグシップモデルの「エスカレード」だ。1999年に初代が誕生したラグジュアリィSUVの代表格であり、2021年に国内導入が開始されたのが、5代目となる最新モデルだ。

エクステリアは、エッジのきいたシャープなラインで構成されている。左右のへッドライトにはキャデラックの文字がエッチングされており、周囲には装飾が施されるなど細部にもこだわりが見てとれる。リアには約90cmもある直立したコンビネーションランプを配置。全長5.4m、全幅2.06m、全高1.93m、車両重量約2.7トンという堂々たる体躯で、他に比べるものがない圧倒的な存在感を放っている。





ドアを開くと、さっとサイドステップがせり出してくる。これがあれば乗り降りがとてもしやすい。ドライバーズシートに座ると目の前にはドライバーに向けて湾曲した38インチもの巨大なOLED(有機発光ダイオード)ディスプレイが広がっている。キャデラックは、伝統的に本物の素材を使うことをポリシーとしており、リアルウッドやセミアニリンレザーを用い、職人によって仕立てられた上質なインテリアは、まるでラグジュアリィヨットのコックピットのようだ。





左側にある7.2インチサイズのインフォメーションセンター、ドライバー正面の14.2インチのクラスターディスプレイ、右側の16.9インチのインフォテインメントスクリーンの3つを組み合わせたもので、ここに車両の全周を確認できるサラウンドビジョン画像やナビゲーションなどが表示される。左右のディスプレイはタッチ式で、センターコンソール上のダイヤルコントローラーとステアリングホイールスイッチでも操作が可能。さらに視線を動かすことなく情報を確認できるフルカラーのヘッドアップディスプレイや、熱感応式赤外線センサーによって夜間走行中に前方の人や動物を認識し映像を映し出す最新のナイトビジョンも備わっている。



シートレイアウトは、2+2+3の3列シート7人乗り。新型はホイールベースを延長した新しいアーキテクチャーを採用しており、2列目および3列目シートのレッグルームを大幅に拡大。特に3列目シートは、リアサスペンションが独立式に一新されたことで、従来モデルと比べて40%も広くなった。2列目が左右独立したキャプテンシートとなっており、間隔をたっぷりととっているため3列目へはウォークスルーでアクセスできとても使い勝手がよい。7名がすべて乗車した状態での荷室容量は722リッター、3列目シートを畳めば2065リッターという広大でフラットなラゲージスペースが生まれる。









パワートレインは、最高出力416psと最大トルク624Nmを生み出す6.2リッターV8エンジンと最新の10速オートマチックトランスミッションを組み合わせたもの。エンジンは、時代の要請に応じて環境性能も高められており、低負荷時には8気筒のうち4気筒または6気筒を休止させるダイナミックフューエルマネジメントを採用する。先述しておくと、それもあって、今回の高速道路をメインとしたドライブでの平均燃費は8.7km/hと、意外に悪くなかった。

エンジンスタートボタンを押すと、6.2リッターV8エンジンはジェントルに目覚める。遮音が効いておりアイドリングの音がかすか遠くに聞こえる。アクセルペダルにわずかに力をこめるだけでトルクがなみなみと湧き出てきて、大きく重いボディをものともせず抵抗なく走りだす。そして変速のショックを微塵も感じさせないトランスミッションによって、スムーズに巡航速度をあげていく。



この日、目指したのは、箱根にある「THE HIRAMATSU HOTELS & RESORTS 仙石原」。“ひらまつ”と聞いてフランス料理やイタリア料理のレストランを思い浮かべる人も多いだろう。いま同社は食を中心にビジネスを展開しており、レストラン事業をはじめ、ブライダル事業、そしてホテル事業などを手掛けている。この仙石原のホテルもその一環だ。箱根外輪山に囲まれた標高650mの高原、仙石原エリアは、ススキの名所としてつとに知られる。また様々なミュージアムが点在し、日がな一日、アートを堪能するにもぴったりの場所だ。

都心から首都高速経由で東名高速を使って御殿場へと向かう。荒れた路面や大きな目地段差も軽くいなし、乗り心地は安定感があり優雅に巡行するクルーザーのようだ。昔のようなトラック然とした乗り味は一切感じない。新開発の独立式リアサスペンションに加えて、瞬時にダンピングを制御するマグネティックライドコントロールと、車高調整機能も持つエアライドアダプティプサスペンションを採用するなど、ショファーカーとしても使えるほどの快適性を身に着けた。



都心から約130km、大きな渋滞もなく2時間ほどのドライブで「THE HIRAMATSU HOTELS & RESORTS 仙石原」に到着した。ホテルのエントランスの佇まいはさながら美術館で、絵画やアンティーク家具などさまざまなアート作品が出迎えてくれる。客室は本館11室、レジデンス9室の全20室のまさにプライベートホテルだ。すべての部屋に、源泉掛け流しの温泉風呂が設えられている。本館客室では、大きな窓を開放すれば、半露天風呂となり目の前に箱根外輪山の山並みが連なる雄大な景色が広がる。ドライブの緊張感から解き放たれるリラックスタイムだ。





そしてひらまつといえば、メインイベントはもちろんディナー。同社で長年修行を重ね、イタリア料理のみならずフランス料理の経験も活かした漆原シェフが、神奈川、静岡など地元の食材を使い日本ならではの四季を感じさせてくれる。この料理を求めて、季節ごとに訪れるリピーターが多いという話にもうなずける。都心のレストランで舌鼓をうつ2時間を過ごすのももちろんいいのだけれど、大自然のなかで温泉も料理も満喫する1日は、格別のもの。“滞在するレストラン”を標榜しているが、まさにそれだと思う。

牡丹海老と日向夏のマリネ フィノッキオのクレマとキャビア

下田漁港直送金目鯛のソテー

ダイニング

本館で一番広い客室、3Fエグゼクティブスイート

復路はクラシック音楽を全身に浴びながらゆったりとドライブする。音環境の良さはキャデラックの伝統のひとつ。エスカレードにはオーストリア・ウィーンで創業したプロフェッショナル用音響機器メーカー、AKG製3Dサラウンドサウンドシステムが備わっている。エスカレードのためだけに共同開発したサウンドシステムは、36個ものスピーカーを備え、驚くほどリアルで立体的な音響空間を創り出す。また広い車内で後席に座る友人や家族とのコミュニケーションをより図りやすくするために、マイクとスピーカーを利用して互いの会話を助けるシステムも搭載している。



温泉と料理と音楽は、まさにリラックスの三種の神器だ。そして、あたかもラグジュアリィヨットのようなエスカレードには、こうした旅こそがふさわしい。次はどこへ行こうか、思いを馳せながら帰路についた。


文:藤野太一 写真:尾形和美
Words: Taichi FUJINO Photography: Kazumi OGATA
協力:THE HIRAMATSU HOTELS & RESORTS 仙石原

藤野太一

無料メールマガジン登録   人気の記事や編集部おすすめ記事を配信         
登録することで、会員規約に同意したものとみなされます。

RECOMMENDEDおすすめの記事


RELATED関連する記事

RANKING人気の記事