羊の皮を被った狼？名俳優のワンオフ・ボルボが「ボルベット」と呼ばれる理由とは

古賀貴司（自動車王国）｜ 2023.05.25

映画俳優だったポール・ニューマンが亡くなってから15年が経過している。最近の話題は彼が登場した作品よりも、自身が愛用していたロレックス「コスモグラフ・デイトナ」が約２0億円で落札されたことかもしれない。そして今月末から、RMサザビーズが「ハイスピード：ポール・ニューマンのレーシング・レガシー」と銘打った、オークションが開催される。

1969年の映画「レーサー」に出演するために、ポール・ニューマンはワトキンス・グレン・レーシング・スクールでトレーニングを受けることになった。そこでレースに興味を持ったポール・ニューマン、後に自動車レースの歴史を紹介する初のテレビ番組「Once Upon a Wheel」に出演し、司会を務めることに。1972年にはトンプソン・インターナショナル・スピードウェイにて、プロのレーシングドライバーとしてデビュー戦を飾った。なお、ポール・ニューマンはレース時には、「P・L・ニューマン」の名称でエントリーしていたそうだ。モリゾーに似ている…

その後10年間、彼はSCCA（スポーツカークラブ・オブ・アメリカ）のイベントに頻繁に参加し、最終的に4つの国内選手権を獲得。1979年にはル・マン24時間レースにディック・バーバーのポルシェ935で出場し、2位入賞を果たした。また、ニューマンは2000年にバーバーと、プチ・ル・マンにも出場したことがある。

思い起こせばポール・ニューマンは、1980年代には日産スカイラインのテレビCMに出演していたし、“ポール・ニューマン”の名前が付けられた特別使用車も投入された。というのも、1970年代半ばから1990年代前半までボブ・シャープ・レーシング・チームのドライバーとして、主にダットサン（後に日産に改名）でトランザムシリーズに参戦していたからだ。ちなみにポール・ニューマンのレース人生は、ドキュメンタリー映画「Winning：The Racing Life of Paul Newman」（2015年）に描かれている。

そんなポール・ニューマンが集めてきた自動車にまつわるメモラビリア、そしてちょっと気になる1988年式ボルボV90がオークションに出品されている。これはポール・ニューマンのインディカーチーム「ニューマン/ハース・レーシング」（F1の“ハース”とは無関係）によって2007年に作られたワンオフだ。

V90 “Volvette”と呼ばれている所以は、コルベットのエンジンを搭載しているからである。これぞ本物の「羊の皮を被った狼」である。C6コルベットZ06の6.2リッターと同じシボレーLS3 V型8気筒エンジンに、GM製4速オートマチックトランスミッションを組み合わせている。しかもポール・ニューマンにとってワンオフ・ボルボは3台目、というから面白い。以前はビューイック・グランドナショナルの3.8リッターターボチャージャー付きV6エンジンを搭載したボルボ740、フォード・マスタングのスーパーチャージャー付きV8エンジンを搭載したボルボ960であった。

V90 “Volvette”、一見、フツーのボルボV90に見える。しかし、よくよく見てみるとリアのバッジは「V06」と変わっていたり、足元はドリルドディスクブレーキ（コルベットからの流用？）が採用されていたり、ちょっとだけ大口径のエキゾーストを備えていたりする。

純正のドライブシャフトを短くし、シフトレバーがセンターコンソールに収まるようにリンケージを調整するだけで、それ以上の加工や大きな改造は必要なかったそうだ。なお、リアサスペンションはノーマルのまま、フロントはポルシェ911の部品で改造されたという。

インテリアは、というとボルボV90そのもの。ただ、Aピラー部分に水温計が取り付けられていて、なんとなく只者ではないことが伝わってくる。

そして、グラブボックスにはチームから車両が贈られた際のプレートが貼られている。

「PLNへ
これでグリッドに時間通りに来られます。
チームより」

“このボルボV90は速いですよ”、というメッセージなのか、“これで遅刻しませんね”と皮肉っているのか…、定かではない。いずれにせよ、憎い演出である。と同時に、この車の価値を高めてくれそうなプレートである。走行10万マイル強のボルボV90 “Volvett”落札予想価格、2万ドル～2万5000ドルとやや控えめ？