予約必須のパリのレストラン「NARRO」|竹田シェフのアートの世界

前菜のTARTELETTE AUX POIREAUX(長ネギのタルト)とろっとしたネギとサクサクのタルトで食感を味わえる。何よりも見た目の美しさに食べる前から笑みがこぼれる。(Tomonari SAKURAI)

文字だけのメニューから好みの食事を注文する。それがテーブルに出されたときにまず「なんだこれ!?」と言葉を発しながら知らず知らずのうちに笑顔になり、ひとくち食べて2回目の「なんだこれ!?」と発する。これが竹田シェフの料理を初めて体験する人のほとんどのパターンだ。

文字からくる情報でそれが肉だったり魚だったり、自分の記憶からどんな料理がくるのか想像する。しかしそれが目の前に現れたとき、まったく想像と違うものが出てくる。美しくお皿に盛られた料理のほとんどに、その季節の花がちりばめられて何とも美しい。その視覚的な情報からおよそ自分が想像していたものとかけ離れている。そしてそれを口に運んだときに、香りや食感、そしてその味わいに再び想像を超えた驚きが喜びに変わるのだ。それを創造しているのは今パリでもっとも注目されるシェフのひとり、竹田(ちくだ)和真その人だ。

今パリでもっとも注目されるシェフの一人竹田(ちくだ)シェフ。

パリの左岸、カルチェラタンと呼ばれる5区。パンテオンから歩いてフィリップオーギュストが中世に築いた城壁跡を横目に突き当たったら右へ。レストランが集まるやや賑やかな界隈の中にレストランNARROがある。ラテン語で「話す」を意味するNARRO。この場に来て話が弾むよう、何よりお喋り好きなオーナーやスタッフ達から付けられた名前だ。

準備中のNARRO。オーナーの一人 めぐみさん。ワインのエキスパートでもある彼女が素敵な笑顔でお客さんを迎えてくれる。

NARROがオープンしたのは2020年の9月。準備に入ったのがちょうどコロナのまっただ中。フランスでは外出禁止令が敷かれ、飲食店は営業を停止。そんな中着々と準備が進められ営業再開に合わせてオープンしたものの、1カ月後には再び営業停止例が発令される。ところがオープンして1カ月の間に訪れた客のクチコミによりNARROの評判は広がっていく。そんな中での再びの営業停止。その間、食することが叶わない竹田シェフの料理を味わいたいと、訪れた客やまだそれを体験していない客の中で欲求不満が募っていった。営業が再開されるとその欲求を満たそうと多くの客が訪れ、竹田シェフのアートに魅了された。NARRO、そして竹田シェフの名は瞬く間に知れ渡り、予約なしではランチでさえも食べることができない人気のレストランとなった。

前菜のCARPACCIO DE DORADE ROYALE & CHRISTOPHINE(鯛のカルパッチョとハヤトウリ)ウリと鯛を重ねて花びらのように遇う。炙ったクレモンティーヌ(ミカン)とアーモンドミルクとコブミカンのソースでさっぱりと爽やか。

メインにはGIGOT D'AGNEAU RÔTI(子羊のもも肉のロースト)チコリとコンテチーズのグラタンが添えられている。絶妙な焼き加減の子羊のローストは柔らかく絶品。

春の訪れを知らせるミモザをちりばめたDÉCLINAISON DE FRUITS EXOTIQUES AU MIMOSA(エイキゾチックフルーツとミモザ)酸味の強いパッションフルーツなどをそれを抑えるためにホワイトチョコレートのカップに載せてミモザを加える。スプーンで簡単に割れるホワイトチョコのカップと一緒に口に運べば甘酸っぱさとチョコのカリカリ感が幸せを呼ぶ。

ものづくりが好き。若き竹田シェフは電気情報システム科でアンプなどを作っていた。そんな中で家庭科の授業で料理の楽しさに触れた。これがシェフの人生を決めたのだ。高級フレンチレストランを展開するひらまつに入社。ちょうど店舗を一気に増やす時期で、忙しさは半端ではなかった。フレンチシェフの精鋭が集まり、その厳しさから1年続くのは1割しかいないともいわれる中で10年経験を積んだ。そして10年という節目にひらまつを去り単身パリへ。5年間パリのレストランで経験を積みNARROの誘いを受けた。NARROでシェフとして陣頭指揮を取りNARROを引っ張っていく。客層の8割以上がフランス人。フランス人の超えた舌を虜にしているのだ。

ソースで仕上げをする竹田シェフ。

NARROと二店舗目のBAILLOTTEのシェフ、スタッフのみなさん。

決して広いとはいえない厨房に、準備中のレストランのスタッフも参加してまさに戦場のよう。日本人が多い。日本人を選んでいたわけではなく最初は皆フランス人だったが仕事ができる人を選んでいたらいつの間にか日本人の割合が多くなったという。それぞれが役割をわきまえており無言で黙々と作業をする。フランス人のオーナーの一人は“竹田シェフは禅だ。フランス人がやっていた頃は騒がしいだけ。今は静かなのにすべてがうまく行っている”と言っているほど。

この日は二店舗目の準備期間でそちらのシェフを任される網津シェフも厨房に。

先月には2店舗目をオープンした。2店目のシェフは網津シェフ。竹田シェフと友にメニューを決めるなどして網津シェフ中心に展開している。その2店舗目のお話しはまた。妥協を許さないシェフ。忙しくなればなるほどシェフが嬉しそうにしているのが伝わる。料理が本当に好きなのだ。竹田シェフのアートに触れるだけにパリに行っても決して損はない。そうはいっても簡単にパリには行けない?ならばシェフのYouTubeチャンネルを見てみよう。家庭でできるレシピをわかりやすく紹介している。日本からでもシェフのアートに触れることができるのだ。

narro / Bistronomique / PARIS
https://www.restaurantnarro.fr/

Paris chiku【フランス料理人】
https://www.youtube.com/channel/UCWUhFprYAyaY80Sg0e78dLA

お客さんのほとんどがフランス人。舌の肥えたフランス人が認めたNARRO。もし行く機会があったらランチもディナーも予約をお勧めする。


写真・文:櫻井朋成 Photography and Words: Tomonari SAKURAI

写真・文:櫻井朋成

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