美しきV6ミドシップ・フェラーリ|Ferrari 296 GTB

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最新フェラーリをサーキットで試す


国際試乗会が開催されたのはスペイン・アンダルシア地方。その風光明媚なワインディングロードとモンテブランコという名のサーキットで、296 GTBをまる1日味わうというぜいたくなメニューである。

最初に臨んだのはサーキット走行。ここでは、アセット・フィオラーノというスポーティなパッケージ・オプションが装着された試乗車を操った。



走り始めてすぐに感じたのは、V6エンジンのレスポンスがシャープで、出力特性のリニアリティが高いこと。フェラーリのターボエンジンが"ゼロ・ターボラグ"を標榜するほど鋭いレスポンスを誇っていることはご存じのとおりだが、その血統は296 GTBのV6ツインターボにも脈々と受け継がれていた。また、回転数に応じてパワーが一直線に立ち上がっていくため、エンジンが生み出す出力を予測しやすいことも特徴のひとつ。おかげで、システム出力が830psに達するにもかかわらず、初めて走るサーキットでも1周目から思い切ってアタックすることができた。

このV6エンジンでもうひとつ印象に残ったのが、回転フィールが際立ってスムーズなこと。なにしろバイブレーションを一切生み出すことなく、最高回転数の8500rpmまで一気に回りきるのだ。ちなみに、この最高回転数はF8トリブートを500rpmも上回るもの。この滑らかでストレスをまるで感じさせないフィーリングは、V6エンジンに対するわれわれの既成概念を完全に打ち砕くものといっていい。これも、Vバンク角とクランクシャフトを120度に設定した恩恵だろう。



そして、なんといってもこのエンジンは、エグゾーストサウンドが得も言われぬほど素晴らしい。その絹のように滑らかで、少し高めの音色はV12エンジンを髣髴とさせるもの。少なくとも私が知るフェラーリ製ターボエンジンのなかでは、296 GTBのV6ユニットがベストといって間違いない。マラネロのエンジニアたちが「ピッコロV12(小さなV12エンジン)」と呼んでいた気持ちも、よく理解できるというものだ。

ハンドリングも正確で、レスポンスは良好。しかも、パワステの操舵力が軽めなため、機敏に、そして軽快にコーナリングを楽しめる。なお、296 GTBのホイールベースはF8トリブートに比べて50mm短縮されているが、これに伴うスタビリティの低下はまったくといっていいほど感じられなかった。それにも増して素晴らしいのがスタビリティコントロールの動作で、160km/hオーバーでクリアするS字コーナーでオーバーステアが発生したとき、最小限のカウンターステアで窮地を脱出できたのは、スタビリティコントロールがスムーズかつ正確に介入してくれたからに他ならない。

公道でも真価を発揮する


こうした軽快感やドライバビリティの高さは、ワインディングロードに舞台を移してからも変わらなかった。

ハンドリングの基本的なキャラクターは、サーキットで感じられたのと同じで、極めて軽快でドライバビリティが高い。実は、プラグイン・ハイブリッドシステムを搭載する296 GTBは、乾燥重量がF8トリブートを140kgも上回っているのだが、ワインディングロードを走っている印象でいえば、軽快感は296 GTBのほうが間違いなく上に感じられる。その理由のひとつは、前述したホイールベースの短さにあるはずだが、それとともに重要な役割を演じていると思われたのが296 GTBの低重心設計だった。



具体的な数値は確認できなかったものの、新設計の8速DCTを採用したことで296 GTBのエンジン搭載位置はF8トリブートよりも確実に低く、これが車両全体の低重心化に役立ったとエンジン担当のエンジニアは教えてくれた。また、容量7.45kWhのリチウムイオンバッテリーを車体の極力低い位置に搭載したことも車両の低重心化に貢献しているはず。これらが、296 GTBの軽快なハンドリングに貢献していることは火を見るよりも明らかだ。

パワートレインが従順で極めて扱いやすいことは、ワインディングロードでもまったく変わらなかった。しかも、乗り心地はやや硬めながら、路面からの鋭いショックを優しく吸収する特性のため、200kmほどを一気に走ってもほとんど疲れなかったこともあわせて報告しておきたい。

革新的なパワートレインを搭載した296 GTBは、的確な基本レイアウトと繊細なチューニングにより、完全なニューモデルとは思えないほど完成度が高く、また洗練されていた。こうしたキャラクターは、296 GTBがF8トリブートに続くミドシップ・フェラーリのメインストリームに位置づけられていることを意味している。そしてそのことは、電動化時代を迎えてもスーパースポーツカー界のイニシアチブを堅持しようとする、フェラーリの強い意思の表れといって差し支えないだろう。

フェラーリ296 GTB
ボディサイズ:全長4565×全幅1958×全高1187mm
ホイールベース:2600mm 車両重量:1470kg
エンジン形式:120度 V6 DOHCツインターボ+モーター
エンジン総排気量:2992cc
エンジン最高出力:663ps/8000rpm
エンジン最大トルク:740Nm/6250rpm
モーター最高出力:167ps
モーター最大トルク:315Nm
バッテリー容量:7.45kWh トランスミッション:8段DCT
0-100km/h加速:2.9秒 最高速度:330 km/h



文:大谷達也 写真:フェラーリ Words:Tatsuya OTANI Images:Ferrari

文:大谷達也 写真:フェラーリ Words:Tatsuya OTANI Images:Ferrari

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