ランチア037を蘇らせた男|レストモッドの新星、「キメラEVO37」を生み出した人物とは

Luuk van Kaathoven

ルカ・ベッティ(43歳)は魅力的なイタリア人だ。長身で、モータースポーツと共に育ち、ランチアをこよなく愛する。その大きな理由は、父親がストラトスでラリーを戦い、1980年イタリア・ラリー選手権のタイトルを獲得したからだろう。ルカ自身も、モータースポーツの呼び声に抗うことはできず、フィアットやルノー、プジョー、ホンダを駆ってヨーロッパ各地で150戦以上のラリーに出走し、ヨーロッパ・ラリー選手権の2位に輝いている。

EVO37のスケールモデルを前にするルカ・ベッティ。

彼は起業家精神に富む人物でもある。17世紀に建てられ、美しい状態に復元されたヴィラを所有し、小さいがラグジュアリーなホテルにしたいと考えている。彼はここをヴィラ・キメラと名付けた。キメラは神話に登場する動物で、ライオンの体に翼と雄羊の角、ヘビの尾を持つ。

ヴィラ・キメラの外観。

キメラ・アウトモビリの本拠地。ルカ個人が所有する少数のカーコレクションと、ラリーで勝ち取った多くのトロフィーが並ぶ。

ベッティは父親から、「常に自分の道を進め」と教えられたという。キメラの名には、特別な思いを込めた。子音をつなげると「KMR」となり、「Keep My Road(自分の道を進め)」という彼のモットーにつながるのだ。また、彼はアイルトン・セナとオラチオ・パガーニの人生観を信奉する。セナと会うことはかなわなかったが、パガーニとは親しく付き合っている。

ベッティは、ヴィラの敷地にある何棟かの離れを改装して、キメラ・アウトモビリの本拠地とした。そこにオフィスを構え、数台のコレクションも保管している。EVO37の実物大3Dモデルのほか、自身の911ターボ、BMW M2コンペティション、そしてもちろん、デルタ・インテグラーレもある。

ヴィラ・キメラのルカ・ベッティのオフィスには、EVO37のスケールモデルと最初の実物大モデルがある。

彼は今後、EVO37の最終組立をこのヴィラに移して、車が変貌していく様を購入者が特別な体験として楽しめるようにするつもりだ。その中にはキメラでのドライビング講習も含まれ、もちろん彼自ら指導にあたる。

ベッティはEVO37を37台販売したいと考えている。私たちが訪問したときは、21台が売約済みだった。2台はイタリアに残る。あとの19台の内訳は、アメリカ4、サウジアラビア1、スイス4、スペイン1、イギリス1、ドイツ4、フランス2、クロアチア1、ベルギー1だ。ベルギーの注文はそこに住むオランダ人からのもので、ベッティと特別な関係があるので、プロダクションカー第1号を手に入れる。メタリックグリーンのボディに、ブロンズ色のホイールとイエローのヘッドライトを装着する予定だ。

赤のEVO37は走行不能の展示用。シルバーがプロトタイプ。

キメラ・アウトモビリの製造ペースは月1台。だからベッティは残りの16台の販売を急いでいない。売約済みの21台が完成するまでに1年半以上かかるからだ。

2018年に、ランチア037を甦らせる第一歩として、キメラ・アウトモビリが立ち上がった。それから数年かけて必要な資金を集め、実際の設計は2020年に開始。最初の段階にはベッティ自身も関わり、その後は最新技術が活用された。

「3年以内に走行可能なプロトタイプを完成させて製造を始められるとは、誰も考えていなかった」とベッティは話す。

彼には最初から名声ある会社やビッグネームの支えがあった。EVO37のエンジンを開発したのは、マルティニ・レーシングのランチア037やデルタS4を手がけたクラウディオ・ロンバルディと、カンビアーノにあるイタルテクニカ社だ。イタルテクニカは、自動車業界のために新技術を開発しているスペシャリストで、キメラのエンジン製造を担っている。

イタルテクニカには、トリフラックスエンジンを搭載するランチア・デルタS4 EVO2が。ここでキメラEVO37のエンジンが組み上げられる。



私たちがイタルテクニカを訪問すると、ちょうどランチア・デルタS4 EVO2の作業中だった。搭載するのは、独創的なことで有名なトリフラックス4気筒エンジンだ。エグゾーストマニホールドを両サイドに設け、各気筒4つの吸排気バルブをクロスするように配置して、2基のターボを巧妙に収めている。クラウディオ・ロンバルディは、自らの実験的なスーパーエンジンの最適化をイタルテクニカと共に継続し、出力は600~750hpに達している。残念ながら、グループBの早すぎる廃止で、ランチアがこの進化版デルタS4をラリーで使うことはなかった。

組立作業はアヴィリアーナにあるボネットCV社で行われている。最も奥がモンテカルロのコクピット、その手前がEVO37のシャシー、さらに手前がコクピットと組み合わされたシャシーの完成形。最も手前が最初の正式なプロダクション版キメラEVO37となる。

キメラEVO37のシャシーの製造・組立の大部分は、トリノに程近いアヴィリアーナにあるボネットCV社で行われている。シャシーは、かつてランチア・レーシングでテクニカルディレクターを務めたセルジオ・リモーネによるお墨付きを得ている。


翻訳:木下 恵 Translation: Megumi KINOSHITA
Words: Ton Roks Photography: Luuk van Kaathoven

オクタン日本版編集部

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