世界に一台のマセラティ│ユニークな美しさを持つ「メキシコ」

RM Sotheby's

1967年、マセラティは、前年のメキシコグランプリでジョン・サーティースがマセラティのV型12気筒エンジンを搭載したクーパーT81で優勝したことを記念して、4人乗りの2ドアグランドツアラー「メキシコ」を発表した。汎用性の高い新型4.7リッターV型8気筒エンジンを搭載したこの車は、セダンのクアトロポルテのシャシーをベースに、4インチ以上ショート化してハンドリングやレスポンスを向上させ、バランスのとれたスタイリングを実現したものだ。マセラティは最初の3台のメキシコのシャシーをフルア、ベルトーネ、ヴィニャーレに送り、誰が最もスリリングで生産に適したデザインを生み出すことができるかを競わせたのであった。

市販型メキシコのボディを担当したのはヴィニャーレだったが、最初のメキシコのシャシー(AM112 001)を担当したのはフルアで、最初に製造された4.7リッターエンジンを搭載していた。5000GTで採用された、リアフェンダーにキックを入れたスロープ状のドアラインや、背の高いサイドウィンドウ、フロントフェンダーにクロームメッキを施したヘッドランプなど、フルアならではの個性的なデザインが施された。市販車よりも魅力的な流線型で、きらめくようなスタイルを誇っていた。



アマラントカラーにニュートロ・コノリーレザーのインテリア、ボラーニ社製のクロームワイヤーホイールを装備し、1967年5月5日にモデナのネロ・デラ・カーサ氏に納車されたフルアのプロトタイプ。興味深いことに、この車にはある時点で後期型の4.2リッター・メキシコ・エンジンが換装されており、オリジナルユニットと同様に"AM112 001"と正確に刻印されている。その後、著名なカーデザイナーでありブローカーでもあるトム・ミード氏を通じてアメリカに輸出され、テキサス州のケニー・ワグナー氏に売却され、1978年までその手に渡った。その後、ラリー・メイス氏や、フェラーリ愛好家として知られ、コンコルソ・イタリアーノの創設者であるフランク・マンダラーノ氏などがオーナーとなった。



マンダラーノ氏は1980年から1999年までフルアプロトタイプを所有していたが、当時、最も特別なコーチビルド・マセラティコレクションを集めていたアルフレード・ブレナー氏に売却するよう説得されたという。マンダラーノが所有していた間、この車はオリジナルのカラースキームに化粧直しされ、1999年にはブレナー氏に売却する前に機械的なレストアがおこなわれた。

マセラティが直接依頼したワンオフのスタイリングプロトタイプであるこの魅力的なフルアボディのメキシコは、歴史的に重要なロードゴーイングカーのひとつである。世界に1台しか存在しないこの一台、イタリア車のコレクションに加えたいと願う方も多いだろう。数年前にオークションに出品された際は4000万円ほどで落札されたが、再びオークションに出品されるときどれほどの価値が付けられるのか、注目すべき車だ。

オクタン日本版編集部

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