日本で買える唯一のボルボのセダンは魅力たっぷり!S60試乗レポート

V60とともに。ボルボと言えばエステートとイメージをもつかたが多いだろうが、歴史的にもボルボはフォーマルでスポーティなセダンに力を入れてきた。 Photography: Atsuo SAKURAI

ボルボといえばステーションワゴンというイメージを抱いている方は多いのではないだろうか。現状の日本におけるラインナップをみるにそれはV90とV60、2モデルが用意されている。
 
そのうち、日本の路上環境でも扱いやすいモデルといえばV60だ。XC40より小さい1850mmの全幅は、機械式駐車場などへの適合を重視した日本法人が本社へと要望を繰り返し申し入れたことも設定の一因とされている。
 
そのV60とまったく同じ寸法構成となる兄弟車がS60。今、日本で買える唯一のボルボのセダンだ。パワートレーンは他モデルと同様、2リッター 4気筒直噴ターボを軸足に3バリエーションを展開、トリムはこのパワートレインに準ずるかたちで、モメンタムとインスクリプションの2つが組み合わせられる。すなわち、最もベーシックなT4モメンタム、そのハイパワー&ラグジュアリーバージョンとなるT5インスクリプション、そしてプラグインハイブリッドのT6ツインエンジンAWDインスクリプションというグレード構成だ。

日本におけるラインナップ上、唯一のセダンとなったS60。試乗したのはT6 Twin Engine AWD Inscription。直4DOHCエンジンにスーパーチャージャー&ターボチャージャー、さらに電動モーターを装備する。

セダンと共通だが60クラスは堀の深いサイドパネルが特徴。セダンとの重量差はわずか20㎏。 車両重量は2tを超えるものの、それは乗り心地御良さに繋がり軽快さんは失われていない。
 
昨今のボルボのストラテジーでは、求められる環境性能の向上は主に電動化で対応していく構えで、ディーゼルエンジンの選択肢は高負荷使用が想定されるSUVが中心だ。この電動化傾向に合わせて、4WDも電動モーターを後軸に配することでドライブシャフトを持たない構造とするなど、エンジニアリングの取捨選択が著しい。当初はこれを訝しがる向きもあったが、デザインの変革と相乗するかたちで、かつてない成功をもたらしている。
 
今回試乗に供したのはカタログ上のトップモデルとなるT6だ。2リッター 4気筒直噴ターボは253ps/350Nmを発揮。これはT5とほとんど同等だ。そこに組み合わせるモーターはスタータージェネレーターを兼ねる前軸が46ps/160Nm、駆動だけでなく回生も担う後軸が87ps/240Nmとなる。複雑なシステムゆえ総合出力は算出しにくいが、欧州仕様の数値を借りれば0~100km/h加速は5.2秒、最高速は230km/hと、充分にスポーツセダンの範疇にあるといえるだろう。

スカンジナビア風のすっきりとしたインテリア。T6にはスウェーデン伝統の素材を用いたクリスタルガラス製のシフトノブが装備されている。
 
ちなみにボルボは2020年、すなわち今年を目標にボルボの最新モデルに乗車中の事故における死亡者や重傷者をゼロにするという壮大なビジョンを2007年に掲げている。そのために先進運転支援技術=ADASやスモールオフセット衝突対策など、新しい安全要件領域でも常にフロントラインに立ってきた。が、一方で開発を重ねるほどに自らの技術では至らない、速度超過や飲酒運転など運転者の行為からなる重大事態への対応も看過できないところにきたとみている。その対策の一環として20年の生産モデルから180km/hの速度リミッターを装着することになるという。エキセントリックな反応にも思えるが、多様な価値が氾濫する今の御時世、こういう頑なさはかえって強い支持を集める価値足り得ることを、近年のボルボはよく理解している。

プラグインハイブリッドシステムには5つのドライブモードが用意される。Hibridモードを選べばスムーズで効率的な走りができるよう、エンジンまたは電動モーター、もしくはその両方を自動で選んでくれる。
 
車格は若干大きいものの、3シリーズやCクラス、A4といった欧州のプレミアムDセグメントも充分ライバルに想定されるS60の乗り味は、それらに相まみえるとすれば、いたって中間的だという話になる。4気筒の雑味はよく抑えられているが、水を打ったように静かなわけでもない。乗り心地にガツガツした痛さはないが、とろけるように優しいわけでもない。コーナーでは思ったとおりにすらすら曲がるが、目を見張るようなアジリティがあるわけでもない。百戦錬磨を相手にど真ん中に居座れるなんざ立派なものだと思う反面、動的資質に惚れてつい手を伸ばすタイプでもないということにもなる。

マッシブなリアスタイル。トランクフード後端をスポイラー状にキックアップさせて、高速走行時の空力性能を高めている。
 
が、S60には確実に、いにしえからのボルボに相通じる癒やしの味わいを備えているのも確かだ。それは乗り味というよりも居心地、空間力によってもたらされるところが大きいのだろう。明らかにドイツ勢とは異なる世界観をもったデザインのテイストや操作系の触感、シートの沈み込みや包まれ具合などは、思わず肩の力が抜けるほっこりしたもの。それをもってボルボを選ぶという人がいてもなんら不思議ではない。
 
センタートンネルに10kWh以上のバッテリーを搭載したT6は、2tにならんとする重量を巧くコントロールしていて乗り心地にもハンドリングにもネガは見当たらない。どころか、ワインディングではリアモーターの蹴り出しが楽しめる側の挙動変化にも繋がっている。家庭用200V電源を用いての満充電からはカタログ値で50kmに迫るEV走行も可能というから、その性能を使いこなせる環境にある向きには魅力的な選択肢だろう。

開口部の広いチルトアップ式ガラスサンルーフを装備しても、ヘッドクリアランスは十分に確保されている。この明るいインテリアの雰囲気は正にいまのボルボらしい。
 
一方で、400万円台で手に入るベーシックなT4でも、今日的なボルボのキーファクターはもれなく手に入る。最新鋭のADASはもれなく標準だし、シート表皮はいかにも北欧的なチェックのファブリックを選ぶことも可能だ。加えていえば、17インチの乗り心地とハンドリングのバランスは全グレード中でベストだと個人的には思っている。賢さがブランドイメージを構成するピラーであるならば、こちらも敢えてそういう選択を推したくなる。


ボルボ S60 T6 Twin Engine AWD Inscription
ボディサイズ:全長4760×全幅1850×全高1435 mm
エンジン:水冷直列4気筒DOHC 16バルブ 
排気量:1968cc 
最高出力: 186kW(253ps)/5500[ECE] 
最大トルク:350Nm(35.7kgm)/1700−5000[ECE]  
トランスミッション:8段AT 
サスペンション形式:前ダブルウイッシュボーン 後インテグラル 
ブレーキ:パワーアシスト付4輪ディスクブレーキ
電動機: T45(前)、AD2(後)/交流同期電動機 
モーター最高出力: 34/2500(前)、65/7000(後)
モーター最大トルク: 160/0−2500(前)、240/0−3000(後)
バッテリー種類:リチウムイオン電池
車両本体価格:779万円(税込)

文:渡辺敏史 写真:桜井淳雄

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