魅惑の1台フェラーリ275GTBを駆って美しいイタリアを巡る特別な日々

Photo Rene



ハイライトであった3日目には、フィレンツェに着き次第、ムジェロ・サーキットでのレースをおこなった。ムジェロはイタリアを代表するサーキットといわれていて、走り甲斐のあるコースがある。しかも、タールマックは最近あったMotoGPレースの熱をまだ持っていて、マルク・マルケスが走ったタイヤ跡を探していたのは私だけでないであろう。

アンソニーはフェラーリでトラックを走ることも、ヒルクライムに参加することも特に特別には思っていなかったようだが、私はオープンロードやヒルクライムを走ることができることを特別に感じた。5000rpm以上で燃えるようなけたたましいエンジン音を出しながら、ハイスピードで走る275 GTB/4を体感できるのは貴重な経験だろう。リアタイヤはタールマックにちょうど良い具合で擦れる。この車の性能の高さには、すこし調子が悪いときであっても驚かされたものだ。





フィレンツェ周辺の山道を抜け、なぜこの車が最初のオーナーに心から愛されていたのかよく分かった。3000rpmで走っていたとしても、レーシングドライバーになったかのような気分に包まれるのだ。しかし、決断力を持ちながらギアを機敏に変えていかないと、車は不満を発するだろう。それも、大きな声で。

フローレンスに着くときには、街らしい渋滞にはまり、雨も降っていてスムーズにはいかなかった。とはいえ、アルノ川に面した歴史を持つピアッザァ・オニッサンティの街は美しく記憶に残っている。すっかり汚れた100台のレーシングカーがイタリアの街を大きな音をたてながら、走っていることがモデナ・セントロ・オレの醍醐味なのだ。

先に到着したドライバーは、ディナーパーティのためにタキシードに身をつつんで、レーシングスーツの人々を待つ。ディナーの後には、シアターでオペラを鑑賞した。

最終日は、モデナのマルツァーリャのレーストラックへ。ここでのコースはまるで275 GTBのためにつくられた道なのか、もしくは275はこの道のためにつくられたのかと思うほどに気持ちの良いものであった。この時に感じたドライビングの喜びは一生、私の中に残り続けるだろう。

モデナのピアッツァ・グランデについた後は、遅くまでパーティがおこなわれた。オクタン175号の表紙を飾ったフェラーリ・デイトナのオーナーであるバーティ・ギルバート・スミスが、1964年に手にした1959年 ACブリストルについての話をしていたことがハイライトであった。レースのために購入したが、毎日の相棒へとなった。驚くことに、ある日、バーティがジャッキー・スチュアートに会ったら、ジャッキーはバーティが所有するAC ブリストルのことをよく覚えていたのだ。というのも、彼は若いころにまさにこの車でレースに参戦していたのだそうだ。2018年で、バーティとACブリストルは54年の付き合いになったわけだ。


参加車で埋め尽くされたピアッツァ・グランデ

他に私が驚かされた車は、シャシーナンバー #CSX2300の1964年 シボレー・コブラ・デイトナ・クーペだ。同モデルは6台のみ製造され、ここにいた1台は1965年のニュルブルクリンク 1000kmのGTクラスで3位、フォード・フランス全体では12位を獲得したものだ。ニュルブリンクレースの後は、ホワイトのボディにレッドとブルーのストライプが入った姿であったが、シボレーの故郷カリフォルニアに戻り、日本向けにホワイトからブルーへ塗り替えられた。シャシーナンバー#1070の1967年 フォード GT40もいた。フェラーリの姿も多くみられ、中にはレストアされていない1972年 365 GTB/4 デイトナ・コンペティツィオーネも。ベルギーのファクトリーへわたり、1973年のフランコルシャン 1000kmとル・マンでサーキットを走った。



このようなイベントでは、車の不調でリタイアすることは珍しくない。しかし、素晴らしいメカニックチームやオーガナイザーの貢献があり、リタイアした車は極めて少なかった。セレモニーで最も拍手を浴びていたのは1965年 シェルビー・コブラ289であった。なぜなら、このコブラは初日にエンジントラブルで動かなくなってしまったにも関わらず、すぐにイギリスからレース参戦可能なエンジンを探し出してイタリアまで運び、2日目の最初のレースの前には数分でエンジンを乗せ換えたのだ。

結局のところ、アンソニーが妻にメールした言葉以上にうまくモデナ・セントロ・オレを表すものは無いだろう。"暑いよ。のどが渇いているし、空腹だ。でも、求めるものなんて何もないくらいに気分が良いんだ。" 


Words: Massimo Delbo
Photo: Photo Rene

Words: Massimo Delbo 訳:オクタン日本版編集部

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