S・マックイーンも愛した希少車|フェラーリ NART スパイダー

フェラーリ 275GTB/4 NART スパイダー



250GTOを同時にもつ理由

クライヴはスターリング・モスが乗った250 GT/SWBコンペティティオーネやスペシャル166バルケッタなど数台のフェラーリを所有している。そしてその車たちを運転することがたまらなく好きなのだ。こんな価値のあるNARTスパイダーを私たちのようなしがないモータージャーナリストに貸してしまうのが、彼の気前の良さだ。

バケットシートはタイトで角度調整はない。大きなナルディのウッドリムのステアリングホイールが高い位置に配され、長いクロームメッキのシフトレバーが右ひざ近くにある剥き出しのゲートから飛び出している。3.3ℓV12エンジンがフェラーリ特有の唸りを挙げて始動すると、4オーバーヘッド・カムシャフトが回転し、6基のウェーバー製ツインチョークキャブレターが吸い込む。エンジン音は忙しくもスムースだ。シフトレバーがまずドッグレッグの1速に音をたてて入ると、330bpnのNARTは最大トルク33.2kgmの力を発揮し、すんなりと穏やかに滑り出す。

ステアリングを切ると長いノーズが沈みこみ、最小回転半径が非常に大きいことに気付く。ロンドンの入り組んだ道では注意が必要だ。低回転時のウェーバー製キャブレターは決して穏やかとは言えないが、ジェットとチョークチューブに少し流れがある方が調子がいいのだ。広く渋滞のない道に出たところで思い切りアクセルを踏むと、キャブレターに燃料が流れ込みエンジン音がぐっと勢いを増す。ギアリングは長いがV12エンジンの速度をあげてやると、活気づく。5500回転になるとカムが切り替わり、パワフルなエンジンが8000rpmのレッドラインに向かって伸びやかに回転数を上げっていくのだ。

ウォーム&ローラー式ステアリングは、フィードバックに少しばかり鈍さがあるものの正確で、ディスクブレーキは力強く、完全独立懸架形式のサスペンションは固いけれど素直だ。そしてもちろん、NARTはフェラーリ特有のしびれるような機械的精度を備えている。あらゆる制御装置はタイトで正確。全てにムダがなく、自分が車と完全に一体になったような気がする。ルーフを開けたコンバーチブルのボディワークは非の打ちどころがなく、アンサ製の4本出しマフラーからあがる甘美なエキゾーストノートは、格別だ。これこそが紳士のスポーツカーだ。「そうなんだ。それがこの車の問題かもしれないね。」我々がドライブから戻るとそうクライヴは言った。「あえて言うならば、NARTは少し上品すぎるんだ。幸いなことに私はSWBとバルケッタを持っているから思い切り大きな音で飛ばしたいときは、もっと元気のいい"そいつら"を駆るんだ。とは言ってもNARTでだって、雨の中でもコーンウォールへ行ったり、それからプロバンスとイタリアでラリーをしたりして楽しんでるよ。」

お金の話をするのはいささか野暮だが、この車のとてつもない価値は無視できない。「ロンドンの真ん中に住んでいると、この車を運転することに少し躊躇するときがある。私が持っている他の車と同じように、ちょっと飛び乗ってドライブに出かけるっていうわけにはいかないからね。これは本当に特別で、とても希少だ。だがね、この車の今の価値を考えると多少気になるところもあるけれど、それでもとにかく車だからね。これからもずっと運転して楽しみたいと思っている。」

この美しいNARTスパイダーはこれまでスポーツカーとしてのみ使用されてきた。セブリングへの遠出は別として、レーシングカーではない。この洗練されたNARTは非常に効率性の高いGTであり、その上コンバーチブルである。その価値はとんでもなく跳ね上がってしまったが、10台しか生産されていないこの車を買いたいという人のウェイティングリストは、生産台数よりもずっと長い列を成している。

エディ・スミスJrは、道路やトラックで45年もの間この車を走らせることを楽しんだ。面白いことに、NARTのオーナーのうち 6人が250GTOも所有している。彼らの熱い思いが、よくおわかりいただけるだろう。



もっと写真を見る

無料メールマガジン登録   人気の記事や編集部おすすめ記事を配信         
登録することで、会員規約に同意したものとみなされます。

RECOMMENDEDおすすめの記事