モーガン スリーホイラー|マニアを熱狂させる現代版"車のシーラカンス"

Photography: Mark Dixon



クラシック・スリーホイラーの息吹

打ち合わせどおり、チャールズがドライブする1931年スリーホイラー・スーパースポーツ・エアロと合流した。数あるスリーホイラーのラインナップの中で最も人気があるモデルで、1928年に発売した時には「正直にこう断言できます。世界最速のスリーホイラーであるだけでなく、値段が3倍のどんな車よりもパフォーマンスで上回っています」とパンフレットで謳っていた。さらに「ここに登場したのは、このクラスの車が作った過去の記録をすべて破る運命にある車、まさにタイヤに乗った悪魔」と豪語していた。

エアロは新しいモデルよりさらに小さく、より繊細で均整が取れている。コクピットは極めてタイトで乗り降りに難儀するだけでなく、パッセンジャーも楽ではない。エアロは細部に至るまで実に美しい造形と仕上げを施されている。小さなテールランプやルーバー、真鍮のラジエターシェルなどは実用面でも優れ、見る者を魅了する。

エアロの力強さと美しさの象徴が、空冷のJAP製Vツインエンジンだ。"JAP"ことJ.A.プレストウィッチ・マニュファクチャリング・カンパニーは、1894年に弱冠20歳のジョン・アルフレッド・プレストウィッチがロンドンに創業した会社で、彼らが製作したエンジンは20世紀初頭の二輪車産業で大きな成功を収めた。モーガンもスリーホイラーの生産にあたっては、サイドバルブ式のJAP Vツインをパワーソースとして選択している。

S&Sサイクル社は1958年に、アマチュアバイクチューナーのジョージ・スミス・シニアがイリノイ州ブルーアイランドにある自宅の地下室で興した(この同じ時期に、JAP社はビリアーズ社に買収されている)。現在、 S&S社はハーレーダビッドソンのほか、ビクトリー・モーターサイクル用のチューニング用パーツとエンジンを製造し、カスタムバイクなど専門的なニーズにも対応している。

チャールズのスリーホイラーのエンジンは、JAPが初めて手掛けたOHVユニットのひとつである名作のKTOR型(JTORと同時期)だ。Vバンクの挟角は50°で、剥き出しの吸排気バルブを長いプッシュロッドを介して開閉している。また、クランクケースの内圧制御には回転型スリーブバルブを用いている。吸気系には、ニードルやニードルジェット、スプレイチューブ等を持たない"オープントランペット"の"アマック(AMAC)"キャブレターを備え、排ガスはボディの両サイドに配したエグゾーストパイプを通って排出される。それはサイレンサーがなきに等しく、Vツインの弾けるようなノイズをまき散らす。

HFSの時代とは比較にならないほど、現在の乗り物の設計は複雑だが、新スリーホイラーの利点は三輪自動車に分類されるため、ホモロゲーションは四輪車より楽であった。燃料噴射装置付きのS&S製エンジンはすでに排ガス規制をクリアしており、 56°のVバンク角によって振動の減少に貢献し、なおかつ115bhpの最高出力と140lb-ft(約19.4kg-m)の最大トルクを発揮した。

シャシーはリバティー・エースが供給し、アルミ製のボディワークの大半はコヴェントリーにあるプレミア・シートメタル社が製作するため、モーガンの工場での組み立て時間は四輪車(2011年は800〜900台製造予定)に比べ大幅に短縮されている。

前述したように、新しいスリーホイラーは好評を持って迎えられ、年間100台の製造予定を上方修正した。

世界でスリーホイラーブームが起きようとしているのは明らかだ。このスタイル、このアヴァンギャルドさはほかの何にも代えがたい。人気ファッションブランド"Superdry"は独自の限定版を用意し、ジェイ・レノなど有名人もすでに予約しているという。HFSモーガンも天国で大いに満足していることだろう。



DESIGN YOUR OWN


スリーホイラーの組み立て
伝統的な四輪車の木骨ボディ構造には多くの労働力を必要とするが、スリーホイラーではシャシーとエンジンはもちろん、大半のボディワークが外部で生産されるため、工場での組み立てに要する時間は少ない。


デザインのオプション
スポーツスペックには標準で8色、エクステリアトリムは黒があり、内装は黒と褐色から選べる。また特注仕様なら、どんなペイントも革も可能。エクステリアトリムもつや出しと黒から選べる。


充実のグラフィック
これがスリーホイラーの魅力でもある。グラフィックは好きなだけ、控えめにも、派手にもできる。小さな旗のステッカーから第二次大戦中の戦闘機にあったような円形の紋章、鮫の顔。にせの弾痕まで可能だ。


Super Dry限定版
ファッションブランドの"SuperDry"は、限定版スリーホイラーを製作するため、モーガンとタイアップした。特注のグラフィック、ヘッドランプグリル、タイヤはサイドウォールがオレンジで、シートはキルティングレザーが標準だ。

もっと写真を見る

編集翻訳:伊東和彦(Mobi-curators Labo.) Transcreation: Kazuhiko ITO (Mobi-curators Labo.) 原文翻訳:木下 恵 Translation: Megumi KINOSHITA Words: David Lillywhite

無料メールマガジン登録   人気の記事や編集部おすすめ記事を配信         
登録することで、会員規約に同意したものとみなされます。

RECOMMENDEDおすすめの記事


RELATED関連する記事

RANKING人気の記事