モーガン スリーホイラー|マニアを熱狂させる現代版"車のシーラカンス"

Photography: Mark Dixon



1気筒あたり1ℓのエンジンビート

2ℓの排気量を持つVツインエンジンは、私にとって未体験のものだった。アイドリング中に大きな振動で跳ねるのではないかと思ったほどだ。

コクピットへの乗り込みは楽だ。まず足を入れ、シートに滑り降りればすむので、この車に備わっていた脱着式ステアリングホイールの世話になることはまずないだろう。ステアリングコラムにはキーとイモビライザーだけが備わり、スターターボタンはダッシュパネル上にある。そのスイッチは、ユーロファイターの爆弾ハッチ開閉スイッチに使われているような、セーフティー機構付きだ。タイトなコクピット内では、誤操作を防ぐばかりか魅力的な演出だ。

スターターが回ると、火が入ったエンジンが左右に揺れ、サイクルフェンダーが踊りだす。だが、コクピットの中は予想外に平穏で、マッサージ機を使っているかのような振動は感じられない。ひとたび軽合金製のスロットルペダルを踏み込むと、ぱたりと振動が収まり、同時に大きな轟音が響き渡る。

クラッチを踏み込み、ギアを1速に送り込んでスロットルペダルを軽く踏む。Vツインの不規則なビートを立てながらエンジン音が高まり、太いトルクに任せながらゆっくり走り出す。さらに加速を続け、ギアをシフトして行くと、エンジンのサウンドが"悪魔の芝刈り機"から"モトグッツィ"を思わせる快音に変化し、やがて第一次大戦の戦闘機を思わせるものになった。

乗れば乗るほどますます好きになり、時速30mphに達すると思わず笑みがこぼれる。マルヴァーンの町に住む人々は、モーガンが疾走する姿を見慣れているはずだが、一様に私たちを目で追い、笑顔を向ける。街を抜けてオープンロードに出たころには、雲の切れ間から太陽も顔を出してきた。これからワインディングロードが始まるという、スリーホイラーを楽しむには絶好の環境が待ち受けていた。

もっと踏み込んでみようか。排気音が高まり、景色がさらに速く後方に流れ始めた。私は昔のレーシングドライバーになったかのような錯覚に落ちいった。最初のタイトコーナーに差し掛かった際には、細いフロントタイヤと、少し太めながら"1本きり"のリアタイヤ(205/55ー16)でクリアできるのだろうか、そんな考えが脳裏をよぎった。ブレーキを踏んで速度を充分に落とし、荒れた路面のコーナーに飛び込んでみる。

フロントタイヤは軽く上下しながら路面に追従し、リアも"横っ飛び"する様子はなく、あっけなくコーナーを抜けた。少し慎重すぎたかもしれないと、次のコーナーでは進入速度を上げ、クリッピングに差し掛かる当たりでスロットルを踏み込むと、リアがスムーズに流れ始めた。こんな時にもドライバーは恐怖を覚えることなく、私のような俄モーガン乗りでも自然に修正できたことが驚きだ。五感を使ったドライビングは実にエキサイティングだ。 60mphを超えると耳元の風音と、エンジンとエグゾーストのノイズが高まり、さらにスロットルを踏み込めとドライバーにせがむ。

クワイフ製のラック・アンド・ピニオン式ステアリングは正確で、マツダMX-5の5速ギアボックスの操作感も素晴らしい。ギアボックスを出たパワーは、ハーレーのドライブユニットを経てリアに伝達される。強靱なドライブベルトがトルクの脈動を吸収してくれる。

モーガンは、伝統的にスライディングピラー式のフロントサスペンションを採用してきたが、現代版スリーホイラーでは一般的なコイルダンパー・ユニットを用いた独立式としている。リアはチューブタイプのトレーリングアームとコイルダンパー・ユニットの組み合わせになる。ホイールベースが短いため、路面状況によりピッチングを起こすものの、予想以上に乗り心地は快適だ。Uターンをしたとき、驚くほど最小回転半径が大きいことを実感させられた。これは市街地では困りものだ。


チャールズ・モーガンが、祖父のHFSモーガンが創造した自身のスーパースポーツエアロで飛ばす。魅力では現代のスリーホイラーに勝る


スーパースポーツのコクピットはとてもタイトで、径が大きなステアリングホイールを避けて体を滑り込ませるのは楽ではない。ギアノブには6段の表示が見えるがトランスミッションは2段で、リバースギアはない。

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編集翻訳:伊東和彦(Mobi-curators Labo.) Transcreation: Kazuhiko ITO (Mobi-curators Labo.) 原文翻訳:木下 恵 Translation: Megumi KINOSHITA Words: David Lillywhite

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