ジャガーXJ13プロトタイプ|数奇な運命を歩んだジャガーの真髄

ジャガーXJ13プロトタイプ



取材開始から3週間後、リチャードと私は進捗状況を確認するために再度会うことになった。私たちはコベントリーにあるチェスマン・エンジニアリングへ向かった。ここではXJ13のシリンダーヘッドが加工されて、各ポートもきれいに磨かれていた。ウォームアップすることなく何年にも渡ってスタート&ストップだけを繰り返されてきたエンジンは、結露によって腐食。ヘッドガスケットも劣化して水漏れを引き起こしていた。

チェスマンではカムシャフトのベアリングも、新しく加工されることになっていた。シリンダーヘッドは後の量産型V12エンジンとはかなり異なるものだ。違いはシャフトの数。つまりXJ13にはDOHCが奢られていたのだ。そして各シリンダーに2本のバルブ。燃焼室は典型的なレース用タイプの半球形が採用されていた。

エンジンヘッドが送られていたウィットレー、エンジン開発部に行ってみた。そこではグラハム・ヒューズとポール・ハリスが待ってくれていた。

もうひとつのXJ13エンジンおよび残りの部品は作業台の上に並べられていた。長い間行方不明となっていた後、ついに発見されたブロックは、ヘッドの大部分が欠けていて、あのオーバーレヴによってかなり傷んだカムローブがついていた。

2基のエンジンの仕様は、詳細なデータ表に記されている。ホブスが1967年に記録を達成した時、そしてデヴィスがクラッシュを起こした時に、どちらのエンジンが使用されたのかは不明だが、現在修理をしているこのエンジンがXJ13の復活に、より適していることははっきりしている。綺麗に磨かれたコンロッドを始めとして、全てがほんの少しの違いではあるが、より美しく加工されているように思えたのだ。

さて、このクロード・ベイリーの設計によるエンジンの特徴をじっくりと見てみよう。ジャガーは4カムV12エンジンのプロトタイプを7台製作したが、このうち、2基のエンジンだけがカムシャフトにギアドライブを使用した。ブロックは、ボアが小さいことを除けば、後に生産されるV12エンジンとほぼ同じである。ストロークは共に 70 mmと短いため、排気量は4944cc。典型的なレーシング用エンジンであり、Lucas製の燃料噴射装置が装備される。ディストリビューターはLucas Opusの電子制御であり、見たこともないような大きなキャップがついている。

外気にさらされていた鋳造ブロックには、アルミニウムペイントが施されていた。ギラギラとした感じではあるが、エンジンが一度熱くなると、すぐに色が変わると教わる。オリジナルも同じように塗装されていたということだった。問題になるガスケットは、フェデラルモーグル社が新しく作ることを申し出てくれた。残りのガスケットは、ポールとグラハムが自分たちで加工するとのこと。

12個のピストンをもつエンジンは、次はコベントリー・ボーリング&メタリング・カンパニー(CBMC)へ送られ、ピストンリング溝を加工する。ここで朗報がある。X線分析の結果、修理されたピストンは最大限の力を発揮するに十分な強度をもち、新しくピストンを作る必要がないことがわかったのだ。

さて、XJ13のフロント半分とリアボディパネルは、コベントリーから北東へ少し行ったXKエンジニアリングにある。ここで腕を発揮するグラハム・ホールは、かつてジャガーのEタイプの生産ラインで働いていたが、その後XKへ移り、Eタイプのレストアを手掛けることになった。ここ最近はレンジローバーのオートバイオグラフィのスペシャル仕様の制作を本業としているが、グラハムは彼のもとにXJ13がやってくることに興奮している。

「色褪せがなく、艶が長く保たれるので、2液型塗料を使って塗装します。」と彼は言う。地金が露出するまで剥離することはしない。リベット周りまでを剥ぐことは困難であるからだ。まずルーバー周りにもすべて下塗りが施される。そしてダークグリーンの塗装が施される最後のパーツはメインのリアボディ部だ。艶を帯びたまばゆい部品群も、実に美しい。

すべてのパーツがブラウンズ・レーンに戻ってきていた。完璧に組み立てられたエンジンを始め、すべてのパーツが素晴らしいコンディションであることが分かる。APレーシングはボーグ&ベック製のツインプレートクラッチを修復し、ギアボックスをきれいに掃除して古いオイルを洗い流し、SU製エレクトリックフューエルポンプにより再び命が吹き込まれた。

他には?ブレーキとクラッチの液圧システムは分解され、あらゆるシールも再利用が可能だ。すべてのゴムブッシュもまだまだ使えるし、ジョイントにはグリスアップが施されている。オイルおよび冷却水のパイプは、取り外されて洗浄をした後に新しいホースと共に再度取り付けられている。フューエルタンク(現在は右側だけが使われている)は検査のためにエンドプレートが外されていたが、噴射ポンプとオルタネータのドライブベルトは交換された。配線も全てチェック済みだ。テストの準備は整った。

私の今日の役目は、最終的な組立てのフォローをすることである。エンジンとリアサスペンションがシャシーに組み付けられた。そして私はクラッチのエアを抜き、ギアのリンケージが正常に動作するように調整を行う。デフとマニホールドにカバーを付け、レヴリミッターの配線を引く。そして十分なアンペアが得られるように、新しいバッテリーを二台、並列に接続する。

ここからは焦らずに進めなくてはならない。繊細で美しいリアボディの取り付けにかかるのだ。塗装されたばかりなので気を付けながらペグをはめ込む。サイドシルとルーバーを固定する。そして最後にまるで儀式のようにバッジを整えるのだ。新品のステッカー式ジャガーバッジをセンターラインに合わせ、一番見栄えがいいと皆が納得したところで貼り付ける。ついにジャガーXJ13の完成だ。

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