ジャガーXJ13プロトタイプ|数奇な運命を歩んだジャガーの真髄

ジャガーXJ13プロトタイプ



XJ13は、不運な歴史が繰り返しこの車を襲ったという点において、ジャガーの伝説となっていた。ジャガーXJ13はレーシング計画が頓挫した後、倉庫の中でひっそりと眠っていた。そう、このV12エンジンをベースとして開発された量産モデル、EタイプとXJ12サルーンがデビューするまでは。

1971年、XJ13は突然埃を落とされ、ビデオ撮影のため、レスターシャー州ヒンクレーの近くにあるMIRA(Motor Industry Research Association)のバンク付きテストトラックへと送られた。

撮影はベテランのテストドライバーであるノーマン・デヴィスの運転で行われた。取材が終わりに近づいた頃、彼は最後に猛スピードでバンク走行を行った。その時だった。バンクの頂上付近を疾走していたジャガーXJ13は、インフィールドに向かって凄まじい勢いで落ちていった挙句、2回のスピン。さらに2回横転した後、タイヤを下にして見事着地した。幸いにも小柄なデヴィスは、とっさの判断でダッシュボードの下にうずくまり、奇跡的に無傷だった。ジャガーの発表によると、右リアホイールの破損が原因とされている。ところが不思議なことに、4本のタイヤと共に鎮座しているXJの写真を見ると、大破したはずのボディは一見全くの無傷に見えるのだ。実際に何が起こったのか。それは歴史の霧の中で曖昧になってしまっている…。

1973年、XJ13はほぼすべてのボディパネルが新たに作り直され、徹底的な修復が行われた。それからは時折公の場にその姿を現していたが、あるイベントで致命的なエンジンのオーバーレヴを起こしてしまった。2基作られたエンジンのうちのひとつはピストンが焼け付き、本来の力を発揮することが出来なくなった。それ以降XJ13はほとんど公式な場所にその姿を現すことが少なくなっていったが、悲劇はまだ続く。それから数年後のコペンハーゲン。 XJ13を積載車から卸そうとしたときに、高い部分から2本のタイヤがすべり落ちてしまう。

そして縁石は何とオイルパンを一撃した。スチールパンをえぐり、アルミのエンジンブロックにもヒビがはいり、そしてスタッドボルトを破損した。一巻の終わりだった。もはや走ることのできなくなったXJ13は、果たして、ただじっと動かずに展示されるだけのオブジェになってしまった。

「このXJ13の修理ができる日を、2年間待ち続けていました。」ヘリテージの修理工チーフ、リチャード・メイソンは言った。再度XJ13のテストを行うことが決定したのだ。

その作業はブラウンズ・レーンで行われた。季節は3月も終わりに差し掛かる頃。そこにはXJ13のボディ半分が横たわっている。そこから少し離れた場所にリアサスペンション、ZF社製トランスミッション、そしてサブフレームがユニットごとに置かれていた。足りない構成部品は、車のリアエンドを完結させるための部品とエンジン。それらは今、ジャガーのウィットリーにあるデザイン&エンジニアリングセンターにあった。

主要な部品が取り出されたXJ13は、見た目はこざっぱりとして、過ぎた月日を忍ばせるような雰囲気が漂っていた。ただ塗装にはツヤがなく痛んでおり全体的にくたびれた印象は拭えない。今回の再試験走行のための大きな課題は、まずエンジンを復活させること。そしてもう一つの大きな課題は、修復をして再度ボディをきちんと仕上げることだ。

3箇所の急なバンクを持つトリッキーなMIRAのトラック。そこでデイヴィッド・ホッブスとXJ13が英国のサーキットラップレコード、161.6mphという新記録を叩き出した姿を、もう一度皆が待ち望んでいるのだ。あの輝かしい時代の記憶を呼び戻すために……。

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