中世から続く伝統的なワイン収穫祭「Fete du Biou」|無形文化遺産への登録も申請中

Tomonari SAKURAI

先日お伝えしたフランス・ジュラ地方の黄色いワイン。それを含むジュラ地方のワインの中心地、アルボワ市で、収穫祭「Fete du Biou(フェット・デュ・ビュウ)」が開催された。この祭りは中世から続く伝統的な収穫祭で、公式にその名が記録されたのは1665年のことだ。

アルボワ市の人たちが「天国」と呼ぶ、葡萄畑から見たアルボワ市街。

祭りでは、ブドウとワインの生産者から選ばれた4人が、その年に収穫されたブドウで作った「ビュウ」と呼ばれるブドウの玉を担ぎ、教会に奉納する。現在では、ワイン製造の仕組み(発酵)を解明したルイ・パスツールの研究所跡の建物で玉が作られ、4人がそれを担いで教会に向かう。教会では司祭が玉を祝福し、それが教会に吊るされるという儀式が行われる。

1922年からは、宗教的な意味合いを持たないブドウの冠が、アルボワ市のために命を捧げた戦没者に対して捧げられるようになり、この二つが祭りの主役となる。

今年はアルボワ市解放80周年記念も加わってアメリカ軍のキャンプも登場。

そこではアルボワ市解放の歴史を紹介。この本はアメリカ軍に配られたフランス語のガイドブック。そのほかドイツ語もある。もちろんこれは当時のもの。

2024年のフェット・デュ・ビュウは、8月31日の土曜日に玉の準備が行われ、翌日の日曜日に教会へ奉納された。ルイ・パスツールは隣町のドール出身で、アルボワで研究を続けた人物であり、ワイン製造の神様的な存在だ。彼の家は博物館になっており、道を挟んだ向かいにある研究所跡の納屋で奉納用の玉が作られる(メイン写真)。この玉の制作には毎年任命された4人だけが関わり、教会までの行進ではかつての自警団が槍にブドウの装飾をつけて共に進む。今年は平均気温より9℃高い30℃を超える中で作業が行われたが、雷雨の影響で今年のブドウの出来はあまり良くなかった。玉の芯には軽量化された金属が使われ、作業が難航し、通常1時間半で終わる作業が4時間近くかかった。その後、ジュラ地方のスパークリングワイン「クレモン」が振る舞われ、この祭り限定の伝統的なガレットも味わうことができる。

かつては葡萄泥棒を守っていた衛士の槍にも葡萄で飾り付け。

宗教に関係しないアルボワ市の戦没者に捧げる冠も同時に作られる。無宗教のこの一家がそれを長年勤めている。この日は3代にわたって冠が作られた。

翌日、9時45分にパスツールの研究所から玉が出発する。前日とは一変し、参加者たちは正装で臨む。ブドウと花で飾られた美しい玉を、4人が80kgの重さで担ぎ、4人のバイオリン奏者が先頭を行く。厳かな雰囲気の中、教会に到着すると、司祭が祈りを捧げ、玉が教会の中央に吊るされていく。

日曜日の朝、ビュウにはブドウに花や旗も添えられていた。重さは80kgにもなる。それを4人が担ぐ。それを守るように、槍を持った人たちに守られて行進が始まる。

沿道では多くの人が見守る。街の中心の噴水前にて。

教会につくと司祭によって洗礼を受けるビュウ。そしてビュウは教会に高く吊るされ奉納される。

収穫祭のミサが厳かに行われる。

その後、戦没者追悼の式典が行われ、冠が奉納される。フランス国歌の斉唱やドイツからの楽隊の演奏が続き、今年はアルボワ市の解放80周年を記念して、アメリカ陸軍第3歩兵師団に扮した一行も参加した。式典終了後は教会の駐車場でアルボワのワインが振る舞われ、祭りが本格的に始まる。

それが終わると冠が行進を始める。2人で持っているがこの冠で40kgほど。この冠を先頭に姉妹都市ののハウザッハの楽団が続く。

この収穫祭を仕切り、無形文化遺産登録まであと一歩まで導いたヴァレリー・デピエール市長(Maire Valérie Depierre)。

アルボワ市を解放したアメリカ陸軍第3歩兵師団に扮した有志。

アルボワ市を守る消防隊によって冠が戦没者の碑に供えられる。

式典の始まりだ。

式典が終わるとワインが無料で振る舞われる。冠の担ぎ手もワインで喉を潤すのだ。彼は写真ばっかり撮ってる僕にも「お前も飲め!」と勧めてくれた。

この収穫祭は現在、無形文化遺産への登録が申請されており、最終的な申請書類は2025年3月にユネスコの評価委員会に提出され、その評価に基づいて2026年末に「ビオ」が無形文化遺産の代表リストに登録されるかどうかが決定される。ジュラ地方では、黄色いワイン以外にも「ヴァン・ド・パイユ」や「マックヴァン」など、独自のワインが楽しめる。特にサヴァニャン種の白ワインは独特のアロマとスパイシーさがクセになり、コンテチーズとの相性も抜群だ。この地域の伝統と人々との触れ合いは、貴重な経験となった。ジュラ地方のワインは見つけるのが難しいかもしれないが、ぜひ機会があれば試してほしい。きっと、人生をより深めてくれるだろう。

こちらの笑顔の素敵な女性。彼女は代々アルボワ市の家系で100%アルボワの血が流れていると。この収穫祭が無形文化遺産に登録されるのを強く望んでいた。


写真・文:櫻井朋成 Photography and Words: Tomonari SAKURAI

櫻井朋成

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