自動車コンテンツ業界屈指のアートディレクターが新たに手掛ける「3Dモデリング」の世界

PLA樹脂での3Dプリントテストサンプル(shaft)

高性能スポーツカーのカタログ、一流自動車誌のデザインを手掛けた橋本誠一氏率いる「shaft」が、3Dデザイン技術を活用したスタジオを新たに立ち上げた。



自分の頭の中に思い描いた造形を、目で見て手に取れるカタチにしたい。

それは羽ばたいて空を飛べたらとか、時空を超えて旅をできたらといった、なかなか叶わない、けれども人間にとって根源的な欲求に近い。

「3Dプリンター」の登場で、しかしそうした夢は現実のものになりつつある。コンピューターの中に作り上げた立体図を、抽出した樹脂を積層して固めることで造形にしていく過程は、映像などで目にしたことがあるかもしれない。

最近では、PLA樹脂、ABS樹脂、UV硬化樹脂、TPU、カーボンファイバー(炭素繊維)、ASAなどさまざまな素材が登場して、それぞれ強度や精度の高さ、耐熱性や耐久性、透明度など多様な要求に応えられるようになり、活用できるシーンが大幅に増えている。

PA12-CFカーボンファイバーナイロン樹脂での3Dプリントテストサンプル

3Dスキャナーや3Dプリンター、コンピューターやソフトウェアの技術革新によって、生産効率が格段に上がっていることも見逃せない。たとえば筆者が取材したある自動車エンジニアが、「3Dスキャンの技術がこれほど進化していなければ、中国の自動車産業はあれほど急速に発展していなかったでしょう」と語るほど、デザインの現場における浸透度は高い。

ワンオフ制作のマクラーレン用パーツ(製作中にて未塗装)

またここ数年、ポルシェ・ドイツ本社が、クラシック・モデルのためにごく少量が生産されるパーツの製造に、3Dプリンターを積極活用している。最近ではピストンやクラッチ・リリース・レバーなど、極めて高い耐久性が求められるシーンにまで活躍範囲を広げているのだ。

そうした状況を受けて、デザイナー・橋本誠一氏が率いる「shaft」が、3Dデザイン技術を活用したスタジオを新たに立ち上げた。

橋本氏は高性能スポーツカーを中心に、国内主要自動車メーカーのカタログ制作を長く手掛けてきた。月刊誌「CAR GRAPHIC」のデザイン統括を、10年あまり担ってきたことでも知られる、日本の自動車コンテンツ業界屈指のアートディレクターである。

埼玉県川口市に設けた新拠点には、コンパクトながら自動車のカタログ写真も撮影できる規模のスタジオに、3Dスキャナー、3Dプリンターをはじめとする一連の設備が用意される。

ジャガー・XK140スキャニングの様子

「ここでは、自動車をまるごと3Dスキャンすることが可能です。自分の愛車を3D出力してオリジナルのオブジェを制作することもできますし、入手困難な部品の再生や、利便性や美観を高めるアタッチメントの作成にも取り組んでいきたいと考えています」

shaftでは手始めに埼玉県越谷市にある自動車整備ガレージの「Pista」(斉藤大輔代表)と組んで、ヒストリックカー・ラリーに出場する旧いジャガーのウィンドシールド周りのパーツ制作に取りかかっているところだ。斉藤氏は両社の取り組みについて説明する。

「パーツの再生だけでなく、車両全体を3Dスキャニングしておくことは、たとえば1960年代のアバルトなど、手作りの部分が多く一台一台のディテールが異なる車の維持管理にとても重要だと思うのです。たとえば事故でフェンダーが失われたとして、同型車のパネルを仮に新たに入手できたとしても、それはその個体には微妙に合わないケースが多々ある。スキャンデータが残っていれば、それを元通りに戻せる可能性が高まります」

ジャガー・XK140のスキャニングデータ

Shining3D社の超高性能スキャナーを使用

自動車に限らず、shaftのスタジオに収まるもので、決まった時間動かないもの(つまり眠っていない動物や赤ちゃんは難しい)なら3Dスキャンは対象を選ばないという。あなたの大事な誰か、もしくはあなた自身の身体を立体造形として記録することも可能だ。

「テストで初めてスタッフの手をスキャンして3Dプリンターで出力した時、その触感のリアルさに驚きました。積層痕が見えるにもかかわらず『まさに手を握っている感触』があったのです。3Dスキャニングはシリコーンでの型取りと比較して簡易性、人体へのストレスの無さ、コスト面などでも優位です」

Dプリンターは主にRISE3Dのマシンを使用

スキャン後、様々な3DソフトやCADソフトを駆使し、完全な3Dデータを完成させる

ワンオフ制作のマクラーレン用パーツ(iPhone車載マウント)

顧客が持ち込んだ3Dデータを出力したり、橋本氏を含むshaftのデザイナーが顧客のアイデアを聞き取り、オリジナルのアート作品を生み出したりすることも可能だ。よりプロフェッショナルな用途としては、壊れやすい美術品などの記録・再生や、既存の製品をもとに新しい提案を構築するリバース・エンジニアリングも視野に入る。

自社スタジオと3D技術、そして自動車コンテンツ業界で一流の仕事を重ねてきたデザイナーの技術の融合は、依頼主のアイデア次第でほかにもさまざまな可能性を秘めているに違いない。

「立体造形に関して、何かこんなふうに活用したいという『ひらめき』があれば、ぜひ遠慮なくコンタクトしていただきたい」と橋本氏は語る。まずはshaftのウェブサイトを眺めながら、想像力を働かせてみてはいかがだろうか。

株式会社シャフト3Dプロジェクト「YOUR OWN SHAPE.」
URL:https://3d.azabu-shaft.co.jp/

オクタン日本版編集部

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