なんと約2.8億円で落札!「炎上」した無残なフェラーリが辿ったヒストリー

©2023 Courtesy of RM Sotheby's

3台のみが生産されたレーシングカー、2台は生産時から現在に至るまでの行方がハッキリしている。しかし、残る1台はレースで大破。所有者はオリジナルのフレーム、サスペンションと一部の部品をA氏に売却。A氏はオリジナルのフレーム(シャシー番号入り)で車を復活させ、エンジンは同メーカーのものを調達するも生産番号“無し”のものを搭載。

一方、B氏は大破したレースシングカーの所有者から、生産番号“入り”のオリジナルのエンジンを購入し、自動車メーカーの外注先で全く同じフレームやボディを製作。そして、フレームには新たにオリジナルのシャシー番号が打刻された。つまり、同じシャシー番号を持つレーシングカーが2台、この世に存在することになったのだ。

同じシャシー番号を持つ車に生まれ変わる可能性を秘めた車両が、8月にRM/サザビーズが主催したオークションで落札された。1954年式フェラーリ 500モンディアル・スパイダー・シリーズI ピニンファリーナである。当該車両は以前、octane.jpでご紹介したように、脱税の常習犯により文字通り「隠されて」きたものだった。ただ、車自体は履歴がハッキリしている。



初代オーナーはミラノを拠点とするスポーツカー・ディーラーで、同地において最も重要なプライベーター・レーシング・チームのひとつであるスクーデリア・グアスタッラを率いるフランコ・コルナッキアだった。

1954年4月のコッパ・デッラ・トスカーナでは、元ファクトリードライバーのフランコ・コルテーゼ(1947年のローマGPでフェラーリ125 Sを駆って初優勝をもたらした、フェラーリ史において重要な人物)とコ・ドライバーのペルッキーニが500モンディアル・スパイダーを操り、総合19位、クラス2位でフィニッシュした。興味深いのは、コルテーゼがファクトリーのビルドシートにオーナーとして記載され、エンジニアリングノートにも何度か名前が登場していることだ。おそらくコルナッキアがコルテーゼのために購入したマシンではないかと推測されている。

同年5月には同ペアでミッレミリアに参戦し、クラス4位、総合14位に入賞。このレースで車両は何らかのダメージを負ったらしく、ボディはカロッツェリア・スカリエッティのものに交換されている。ちなみにシリーズI生産第1号車だけはスカリエッティが手掛け、2号車以降はピニンファリーナがスパイダーボディ(計13台)を手掛けている。ということは当該車両、かなりレアなボディを纏っていたことを意味する。なお、500モンディアルはスパイダー、バルケッタ、クーペ合計29台が生産された。

当該、500モンディアル・スパイダー、1955年にはフランコ・コルナッキアの手元を離れ、しばらくはイタリアにおいて複数のジェントルマン・レーサーによって所有されてきたが1958年にアメリカに輸出された。やがて500モンディアル・スパイダーのシグネチャーだった2リッター直4エンジンはアメ車のV8エンジンに交換され、アマチュアレースに用いられた。なお当時、“V8エンジンへの載せ替え”はメジャーな改造だったそうだ。オリジナルのエンジンの行方が気になるところだが…、当該車両はレースで事故に遭い炎上してしまった。



事故車両のまま複数のオーナーの手元を渡り、最終的にはウォルター・メドリン氏によって45年間、所有(隠し)続けられた。どのタイミングでエンジンが入手されたのか不明だが、当該の500モンディアル・スパイダーには750モンツァ用の3リッター直4エンジン(500モンディアル・スパイダーは2リッター直4)ならびにエンジンとマッチするトランスアクスルが付属している。事故車のまま取引をしたオーナーたちは“いつか直そう”と思ったのか、“価値があがったら直そう”と思ったのか、後者であったならば皆さん先見の明をお持ちだ…





そんなこんなで当該車両、オークションでは予想落札価格が120〜160万ドルだったものが、なんと187万5000ドルで落札された。そもそも事故車両で炎上したままの状態のものにしては高額な予想落札価格だったのに、競りがいかに白熱したかが伺える。落札者がどうしても欲しかった理由は不明だが、まさかオリジナルのエンジンが見つかったのだろうか?それとも純粋に500モンディアル・スパイダーへの需要が高まっているのだろうか?



ちなみにB氏のレーシングカーはエンジンのみがオリジナルでシャシー番号は無理やり“再生”されたものにもかかわらず、なんと生産した自動車メーカー自身が「オリジナル」と認定してしまった。A氏は猛烈に反発し、在住地にて2度の勝訴判決を獲得するも、当該自動車メーカーの地ではB氏に車両に軍配が上がった…。裁判所による忖度を疑う声が出たものの、B氏の車両が「本物」ということになった。なおB氏の車両は別なオーナーの手に渡った後に借金のカタに取られ、オークション会社による恣意的な評価額の引き下げにより、A氏との争いとは全く別なドロ沼の訴訟沙汰に巻き込まれた…

シャシー番号やエンジン番号さえあればどんな状態からでも“復活”できる、高級クラシックカー。シャシー番号0406MD、エンジン番号0440MDが今後どうなるのか、見ものだ。






文:古賀貴司(自動車王国) Words: Takashi KOGA (carkingdom)

古賀貴司(自動車王国)

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