海外オークション出品は簡単にできるのか !? 日本人オーナーによる、ザガート・ガビア出品体験談

Bonhams


そしてガビアに付けられた評価額


9月10日朝、約束の時間に迎えに来たタクシーに乗り、ビューリーへと向かう。オークションが開かれるビューリーは、南イングランドのサザンプトンという港町から遠くない場所にある。詳しくはOctane日本語版のホームページに書かれているので参考されたい(https://octane.jp/articles/detail/2064)。前回訪れたのはもう40年近く前のことだ。カタログの中に招待状が入っており、それを見せてタクシーごとゲートに入り、オークション会場へと向かった。

オークション会場は屋外と屋内の会場に分かれており、私のガビアは屋外だが、建物に近い良い場所に展示されていた。建物の中にはオークションの目玉となる車と自動車に関連したオートモビリアと呼ばれる様々なグッズが展示されている。10時からは、先ずオートモビリアからオークションが始まるというが、中に入るやメールのやりとりを担当してくれていた担当者から声をかけられた。日本人としてただ一人オークションに参加している私は、ボナムスの関係者からも知られているようだ。ガビアに付けられた評価額は、3万から5万ポンド。36000から59000ユーロが併記されている。

ボナムスは、スペシャリストと呼ばれるその道に通じた担当者のチームによって牽引されている。その下に事務方の運営スタッフ達がいて、カタログの作成や顧客との連絡、会場の設営に当たっている。ボナムス社に入社すると、まず事務方を数年経験した後、それぞれの得意分野に特化したスペシャリストへと育成される。それぞれのスペシャリスト達は、世界中に自分の顧客を持ち、車両を買いたい人、売りたい人とを繋ぎ、膨大なネットワークを形成している。私にボナムスへの参加の門を開けてくれたポール・ダーヴィル氏もスペシャリストの1人で、パリを拠点としてヨーロッパ大陸で動き回っているというが、今回のオークションには来ていない。

ロットNo.543のガビアは午後2時半から3時にオークションに掛かると教えられた私は、今回のオークションに出品された様々なクラシックカーを見て回った。フェラーリのV8気筒エンジンを積んだミウラのレプリカが評価額3万から4万ポンドで出ていたり、古い商用車やロールス・ロイスをベースにしたスペシャルとか、まさに百花繚乱とでも表現すべきバラエティに富んだ出品だった。 オークション会場を囲む柵の外にも、オークションに集まって来る顧客を目当てに会場外でも様々な業者や個人が展示し、目を止めてくれるのを待っていた。むしろこちらの方に展示されている車の方に心を動かされるような車が多かったのは面白かった。

さあ、私のロットNo.543の番だ


ナショナルオートモビルミュージアム(国立自動車博物館)の中を見学し、カフェテリアで軽く食べてからオークション会場に戻り、ロットNo.543の順番を待つことにした。オークショニア(競売人)が数人交代しながら軽妙な早口のクイーンズ(いや、キングか)イングリッシュで会場に並ぶ顧客とやり取りをしながら値を上げていく古典的なオークションが進み、私のロットNo.543の番になった。緊張が高まる。

オークショニア(競売人)は数人いて数回で交代しながら軽妙な言い回しで会場に並ぶ顧客とやり取りをしながら値を上げていく、古典的なオークションだ。私のロットNo.543のガビアの番になる。緊張感が最高に達する。

1万ポンドからスタートして、早口なオークショニアが読み上げる数字は掲示板でリアルタイムに更新されて行く。興奮してくる。が、数字は2万6千ポンドで止まってしまった。ボナムスの評価額は、3万から5万ポンド、このまま売らないという選択肢もあった。ちょっと困惑している私の顔を見て、件のダーヴィル氏に代わって当日の担当をしてくれているチームメンバーのライアン氏が声を掛けてきた。

「私は、この会場には来ていない顧客を世界中に持っているので、彼らに電話で連絡をとってみるから30分ほど待っていてください!」2万6000ポンドというと170円で計算して442万円。オランダで付いた価格よりも随分良いが、ここまで運ぶ経費も掛かっているからもう一声欲しいところだ。ライアン氏を信じて待つしかない。待つことしばし、笑みを浮かべたライアン氏がやって来て「3万ポンドでアメリカ人の顧客と話が付いた。売る売らないの判断は、あなたが決めることだが」。4千ポンド(68万円)上乗せで、510万円で売れるなら満足して決めるしかない。適切な価格で次のオーナーに渡すことができたのだ。

スペシャリストたちの「さすが」の仕事


ボナムスのオークションで自分の愛車を売りたいと考えるなら、スペシャリスト個人に連絡するか、ロンドン本社に連絡すれば対応してくれるそうである。価値がある(と思われる)車なら、現地に到着して充分に時間を掛けて鑑定作業をしたいので、オークションの予定時期から2ヶ月前には届くようにしたほうがいいそうだ。特別に価値があるなら、もっと前、例えば4ヶ月前に届いたら、現地のクラシックカー専門誌の取材を受けられるように手配もできるとのことだった。とまれ、パリでの出会いからたった1ヶ月でオランダからビューリーの会場まで車を運び、カタログを完成させ、顧客に寄り添ってくれるスペシャリスト達の姿は、さすが歴史あるオークション会社だと感心させられた。


文:宮野滋 Words:Shigeru MIYANO
Thanks to Paul Darvill (European Auctions Manager) paul.darvill@bonhams.com Bonhams Collectors' Car Department 4 rue de la Paix, 75002, Paris

文:宮野滋

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