抜群の悪路走破性を有した、シトロエンの多目的車両は約80歳!

Bonhams

シトロエンの創設者、アンドレ・シトロエンはロマンチックな空想家でありながら、現実的な実業家でもあった。そして「発明」を見れば、その可能性を嗅ぎ取る能力に長けた人物であった。

22歳の時、旅行で訪れたポーランドの鋳物工場で、V字型の歯を持つ見慣れないタイプのギアホイールを目にした。彼はすぐにこの設計の可能性に気づき特許を買い取り「アンドレ・シトロエン社」を設立。新しいダブルヘリカルギア(二重らせん歯車)の製造方法を開発した。これがシトロエンのロゴに用いられている“ドゥブル・シュヴロン”である。

第一次世界大戦後、シトロエンはエンジニアのアドルフ・ケグレスが発明した独創的なクローラ式駆動の権利を取得。このクローラ式駆動は、フランス生まれのケグレスが、かつての雇用主であった皇帝ニコライ2世から“雪道でも走れる”車を、と依頼された作ったものである。従来のクローラのような重い鋼鉄製のヒンジプレートではなく、後軸から駆動する台車にゴムバンドを巻き付けた軽量な方式を考案したのだ。ロシアとフランスで特許を取得し、第一次世界大戦が始まる頃には「ケグレス方式」が完成していた。

ロシア革命後、フランスに戻ったケグレスは、アンドレ・シトロエンを紹介された。シトロエンはすぐにケグレス方式の可能性を察知し権利を買い取り、開発と製造を行う「ソシエテ・シトロエン・ケグレス・ハンスタン社」を立ち上げた。

ケグレス方式は、大きなパワーを必要としないことが特徴で、当初は10CVのB2型を改造したものでテストされた。このオートシェニール(シェニールはクローラを意味する)は、すぐに成功を収めヨーロッパ全土で農業、林業、軍事用など様々なシーンで活躍することに。

すぐに成功を収めた理由には、今でいうところの“バズり”があったからだ。

驚くべきオフロード能力を実証するために、シトロエン・ケグレスが3.5トンのメゾン・ルラント(移動式住居)を牽引して高さ106mの砂丘を登れるところを披露したのだ。そして、もっと世間を驚かせたのは1922年から23年の冬に5台のシトロエン・ケグレスB2の遠征隊がサハラ砂漠を横断し、アルジェリアからフランス領の赤道アフリカまでを走破したこと。

それまではラクダとともに移動し、当然ながら時間も要した。5台は、トゥグルトからトンブクトゥまでの3000マイルに及ぶ道のりを当時としては画期的な21日間で駆け抜けたのだ。



今回、ボナムスのオークションに出品されたシトロエン・ケグレスP17Eは、1933年12月にフランス陸軍省によって発注され、1934年にフランス軍で運用が開始された車両である、ということだけ分かっている。なお、車両のフロントに装着されているローラーは、「アンディッチング・ローラー」と呼ばれるもので、泥濘や窪みにハマった際、車両を脱出させる装置。



残念ながら当該車両の詳しい履歴は分かっておらず、出品者は車両を入手してから倉庫にて保管してきたものである。また、現在は不動車で走らせるには、オーバーホールを要する。落札予想価格は2万ユーロ~3万ユーロと見積もられていたが、結果的には不動車にもかかわらず3万4500ユーロで落札された。




文:古賀貴司(自動車王国) Words: Takashi KOGA (carkingdom)

古賀貴司(自動車王国)

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