マセラティが新車種「グレカーレ」で大幅変化したSUV市場に挑む

Takaaki MIURA

本来なら1年以上前に日本に上陸するはずだった新車種マセラティ・グレカーレが、ついに発売開始となった。世界的な半導体や部品の不足の影響を受け、マセラティ史上2台目となるSUVが2022年半ばに投入された。「ミストラル」「ギブリ」「シャマル」、そして同社初のSUV「レヴァンテ」など、風の名前を車名とすることを伝統としてきたマセラティが、「地中海のイオニア諸島から吹くギリシャの風」を意味するグレカーレをラインアップに加えた。



レヴァンテの登場から6年が経ち、SUVの市場が大幅に変化してきた。フェラーリやランボルギーニも含めて、ほぼすべての高級車メーカーがSUVを出すようになったので、競争が激しくなっている。また、6年前に導入されたレヴァンテが少し古くなったし、大ライバルのポルシェ・マカンやBMW X4Mなどが登場したので、マセラティには新味でよりコンパクトなSUVが必要だった。

すると、マセラティのデザイン部にそのギリシャの風が吹いたかのように、グレカーレの内装のスタイリングや質感というか、空気感がガラッと変わった。マセラティとしては最大の収益源としたいモデルでもあり、「以前の質感のレベルとは決別した」とマセラティ広報がいうほど、グレカーレは大きな期待を背負っている。



「レヴァンテ」の下に位置するDセグメントのSUVとして、グレカーレは、アルファ・ロメオの「ステルヴィオ」などの、最新世代の「ジョルジョプラットフォーム」を採用する。より小型なSUVに乗りたい人向けに、全長はレヴァンテより150mmほど短く、重量も何とレヴァンテより400kgほど軽い。全幅は10mmほど縮んでいるけど、全高は一緒だけど、キャビンはルーミー。



サイズ的には日本の道路状況にレヴァンテより合っているが、スタイリング面に関しては賛否両論がある。正直なところ、もう少しデザイン的に冒険してほしかった。スーパーカーのMC20からは縦目ヘッドライトフェイスとなり、これまでの横目系とは表情も違うのは確かだ。グレカーレは滑らかで綺麗なプロポーションを持っており、高級感が漂うし、彫刻のようなフィニッシュを感じはさせるけど、6年前のレヴァンテに比べてそれほどスタイリングの軸を進化させてはいない感じがする。今回新しく導入した外装色はブロンゾ・オパーコ(くすんだ銅色)だが、陽の当たり方によってゴールドや、くすんだブラウンに見える。もう少しゴールドが入った方がより多くの顧客のハートに響くと思うのは僕だけかな。



いっぽう、グレカーレの内装は素晴らしい。チョコレート色のプレミアムレザーが用いられた「グレカーレGT」のインテリアはモダンでなかなか印象深い。何度も変速したくなるシフトパドルはアルミ製で、カチッと触り心地が最高に気持ちが良い。イタリアのオーディオメーカー「ソナス・ ファーベル」の1000Wサウンドシステムが全車に標準装備され、高級なスピーカーが存在感たっぷり。

レヴァンテよりコンパクトなのにもかかわらず、室内はとても広々して、開放感がある。しかも、レヴァンテのGPSナビやタッチスクリーンに比して、グレカーレは最新の技術をアピールしている。12.3インチと8.8インチの液晶パネルを組み合わせたセンターディスプレイの採用によって、スイッチ数を削減してデザインがスッキリしている。なので、運転席周りはとてもシックで、タッチスクリーンはマセラティとは思えないほど、クリーンで上質な感じだ。画面の画像やアイコンが色鮮やかで、奥行きを感じる。



グレカーレには、V6ツインターボの「トロフェオ」や、僕が乗った「GT」を含む3グレードが設定されている。GTは、2リッター直4のターボエンジンと48Vバッテリー、eブースター、BSGなどのコンポーネントによって構成されている。BSGはオルタネーターとして機能するほか、エンジンに組み合わされるeブースターに電力を供給する。



最高出力は300psと450Nmのトルクを発生する。eブースターのおかげで、アクセルを踏んだ時に、ほとんどラグを感じさせない加速感は気持ちいい。確かにV6ではなく4気筒ターボエンジンではあるにもかかわらず、300psは充分だと思った。高速道路で合流や追い越しをする時でも、一度もパワー不足を感じなかった。ただ、アクセルを踏んだ時のエンジンノイズは、もう少しハートに響くような気持ちの良い音にチューニングしてほしかった。

アクティブ・ショック・アブソーバーとエアスプリングを採用したサスペンションは車の安定性を保ち、乗り心地をしなやかにしてくれる。また、レヴァンテと比べて静粛性がかなり上がっているのに驚いた。ステアリングとブレーキのタッチも魅力的だ。ブレーキ・バイ・ワイヤの技術を採用したマセラティ初のブレーキシステムは文句なし。効き目は抜群だし、ドライバーに自信を与える。適度な重さと手応えを持ち、ステアリングが狙ったラインを綺麗にトレースしてくれる。

やはり、強豪のポルシェ・マカンやBMW X4Mと闘っていくには、これぐらいの新鮮味と質感の良さ、そして上質な外観とパワフルな走りが不可欠。GT仕様で862万円からの価格設定は、この手のSUVにしてはリーズナブルといえる。


文:ピーター・ライオン 写真:三浦孝明
Words: Peter LYON Photography:

文:ピーター・ライオン

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