跳ね馬史上初の4ドア4シーター|フェラーリ・プロサングエがついにデビュー

Ferrari

フェラーリが「SUV」を世に放つのはいつかと、ここ何年もの間、皆がその登場を期待していたSUVスタイルの4ドア・フェラーリがついに発表された。しかし予想に反して、このサラブレッドはSUVに非ず、純血種の「スポーツカー」なのであった。



フェラーリのプレゼンテーションはいつだって刺激的だ。アンドレア・ボチェッリが故郷に働きかけて建設された野外劇場「テアトロ・デル・シレンツォ」は、すっかりフェラーリ色に染まり、新たな時代の幕開けを告げようとしている。まったく新しい“スポーツカー”の誕生に、世界中から訪れた2000人のフェラリスティも狂喜乱舞した、に違いない。

そう、我々が“ついにフェラーリもSUV”と予想していたモデルは、確かに世にいうSUVスタイルを持つマラネッロ初の4ドアモデルだった。けれども同時にそれは、首脳陣が念を押して我々メディアにマラネッロで語ったように、「まったく新しいカテゴリーながらオーセンティックなマラネッロ製スポーツカー」でもあった。



ピサ郊外の街ラジャティコにてワールドプレミアを行う数日前、我々メディアは密かにマラネッロで新型モデルを観察し、首脳陣や開発陣から話を詳しく聞く機会に恵まれた。その名は予想通り、プロサングエ。あえて訳せば純血種、要するにサラブレッド。つまりまったく新しいモデルでありながら、それはマラネッロの75年にわたる歴史にあってあくまでも純血種であり、伝統に背くモデルではないという強い意思表示の現れだった。

スタイリングはおそらく皆さんの予想通りでもあったことだろう。初期のリーク写真によく似ている。印象的だったのはリアフェンダーの膨らみとリアオーバーハングの短さ、そしてアッパーボディとロワーボディの二階建てになっていることだった。ちなみにロワーパートはマットかグロスのブラックが標準で、カーボンはオプション。ボディ同色は今のところ認めていないというが、テーラーメードで解決できるかもしれない。



予想通りでなかったのはリアドアの開き方だった。ロールス・ロイスのように観音開きする。マラネッロはこれを「ウェルカムドア」と名付けた。実際に開け閉めして乗り込んでもみたが、たしかに乗りやすく(ドアの開き方も大きい)、リアへ荷物を放り投げることも容易い。それだけじゃない。リアドアを後ろヒンジとしたことでホイールベースを必要以上に長くせずにすみ、ピラーを残すことで軽量化と高剛性化にも寄与した。実際、そのボディサイズは2ドアのGT4ルッソとほとんど変わらず、20cm高くなっただけ、だ。



インテリアにも目を見張る。ローマからの流れを汲んだデュアルコクピットコンセプトをいっそう大胆に盛り込んだ。後席もまるで前席と変わらず、座ってみればタイトなシートと広い空間の組み合わせがなるほど新鮮だった。細かな点ではステアリング周りのスイッチ類も“ローマの不評”を改善しており、操作性が向上していた。





マラネッロがこの新型モデルを「純血のスポーツカー」と名付けた理由は、そのナカミを知れば完全に理解できる。

何はさておきエンジンだ。大方の予想通りにV12を積んできた。6.5リットルの自然吸気だ。エンツォ由来のF140型で、812コンペティツィオーネ用のF140HBユニットからいくつかのパートを引き継ぎつつ、主要パーツを一新した”ほぼ新型“で、F140IAという。最高出力を725cvと”抑えた“うえで、実用域からのトルク性能にこだわって再設計された。SF90以来の軽量低重心な8DCTを組み合わせている。



重要な点は、このV12エンジンを完全にフロントミドシップとした点。つまりフロントアクスルよりキャビン側にエンジンが収まった。要するにGTC4ルッソの車高をそのままあげたようなもので、V12+フロントミドというナカミはもうそれだけで他と一線を画すると言っていい。



4ドアモデルへの顧客からの期待は、実はずっと前から高まっていたとマラネッロは言う。エンツォ・フェラーリを筆頭に2+2モデルの愛好家が多かったのも事実で、今回のプロジェクトもまたエンツォの息子で副社長のピエロが絶大な後押しをしたらしい。そして、今まで実現できなかった4ドアモデルがなぜ今になって登場したかといえば、それはまったく新しいアクティヴサスペンションシステムによって、車高の高いクロスオーバースタイルでもフェラーリらしいスポーツカー性能を実現できた点に尽きるという。このサスシステムは重心高をもコントロールし、進化した4RM-S Evoと新たなABSシステムに組み合わせたことで、プロサングエに最新のスポーツ性能を与えている。

マラネッロはプロサングエを“2階で組み立てる”という。フェラーリファンならその意味も分かるだろう。そう、「2階」とは12気筒専用のアッセンブリーラインだ。つまりプロサングエはマラネッロにとっての大量生産を意味しない。生産量は高々年産2000台(2割程度)にすぎないのだ。

マラネッロはプロサングエを(他のブランドのように)大量に売りたいわけじゃなかった。SUVだと思うから、大量に売って儲けて利益をスポーツカーに還元するものだと筆者まで誤解していた。

プロサングエはあくまでも812シリーズやGTC4ルッソの代わりに「2階」で生産するモデルだ。だからこそ、初めての4ドアで背の高いモデルであってもスポーツカーらしくなくてはならなかった。彼らが“SUVではない”という理由もいっそう腑に落ちたのだった。




文:西川 淳 Words: Jun NISHIKAWA 写真:フェラーリ Images: Ferrari

文:西川 淳

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