こんなのアリ!? 可笑しな装備が付けられた世界に一台のぺーサー

barrett-jackson

1992年に公開された映画『ウェインズ・ワールド』をご存知だろうか。ロックをこよなく愛する若者2人組を中心に繰り広げられるコメディ作品である。1970年、80年代の楽曲が挿入歌として使用されており、誰もが一度は聴いたことのある曲も多い。主人公たちが車に乗りながら、クイーンの『ボヘミアンラプソディ』をノリノリで歌うシーンは名シーンとして語り継がれている。90年代に『ボヘミアンラプソディ』が再ブームとなったのは、この映画がきっかけでもあった。

このシーンで彼らが乗っていた車は1976年 AMC・ペーサーと呼ばれる車である。AMC(アメリカンモーターズ)は現在存在しないが、今見ても前衛的な車"グレムリン"を生み出したことで広く知られる。グレムリンですでに突飛なデザインだったが、"さらに革新的な車を"と開発された車がこの「ペーサー」である。1971年に企画され、1975年のモデルイヤーで発売されている。日本ではめったに見かけないが、アメリカでは大ヒットになった。ペーサーはデザイナーのリチャード・ティーグがデザインした未来志向の車で、非対称のドアや大きな曲面リアガラスなど、発表当時は賞賛を浴びたのだ。当初は小型のワンケルロータリーエンジンを搭載する予定だったが、ゼネラルモーターズのアメリカンワンケルがオイルショックの影響で開発中止になり、ランブラーの6気筒エンジンが搭載された。写真ではコンパクトに見えるが、4,364×1,963×1,320mmとちゃんとアメリカンサイズである。



ぺーサーは大ヒットしたものの、今流通している個体は少ない。ましてやコンディションが良いものといったらほとんど見つからない。しかし、『ウェインズ・ワールド』のぺーサーは違った。大切に保存されてきていたのだ。撮影当時とは一部変更されている箇所もあったそうだが、映画撮影当時の状態に戻すために入念なレストアがおこなわれており、現在では映画で見たぺーサーそのものを楽しめる状態となっている。映画のために施されたカスタムといえば、オリジナルのイエローだったボディを水色に、ブラウンだったインテリアをブルーに、フロントサブフレームに牽引フックを溶接、ロッカーパネルにはカメラサポート用の1/4インチスチールプレートを溶接、ヒーターとエアコンの取り外し、スピーカーボックスを取り付けるためのリアホイールハウスの改造、リコリス(お菓子)ディスペンサー取り付けのためにルーフ穴開け、炎をモチーフにしたステッカー、カップディスペンサーの取り付け、といった点である。ホイールはリアがクロームスポーク、フロントが純正ハブキャップと、あえてミスマッチな組み合わせにされている。



レストアではいかに映画の姿を忠実に再現できるかということを目標にしていたため、メタルむき出しにしてからの再塗装、バンパーとオリジナルホイールが再メッキされ、ボディは映画でのカラーに合わせたネイソンのベースコート/クリアコートで再仕上げがおこなわれている。シートとヘッドライナーは復元され、すべてのインテリアパネルとダッシュボードも修復されている。唯一映画に忠実でないのは、アップグレードされたスピーカーとステレオだ。しかし、ステレオ・システムは動作するため『ボヘミアン・ラプソディ』を大音量で流して映画の気分を味わうという楽しみ方もできる。



あまり台数が出ないもののぺーサーの相場としては、高くものでも1万2000ドル周辺だがこのぺーサーは数年前にオークションに出品され3万7400ドルと3倍以上の値段で落札された。手にした人はよっぽどの『ウェインズ・ワールド』のファンだったのであろうか。どこかで映画のワンシーンを再現しながら走っていることだろう。

オクタン日本版編集部

無料メールマガジン登録   人気の記事や編集部おすすめ記事を配信         
登録することで、会員規約に同意したものとみなされます。

RECOMMENDEDおすすめの記事


RELATED関連する記事

RANKING人気の記事