一世を風靡した名俳優もゾッコンに|魔法のパワーを持つ崇高なフェラーリ

Aguttes

1960年代半ば、各メーカーがスポーツカーのエンジンをドライバーの背後に搭載するようになったとき、エンツォ・フェラーリは頑なにV12をボンネットに収め続けた。しかし、自分の名前をスーパーカーの頂点で輝かせることを決意したコメンダトーレは、やがてエンジニアたちの提言に屈し、ピニンファリーナのP6スタディからインスピレーションを得て、ミドエンジンGTを開発する。

フェラーリ初のミドエンジンは、1971年に発表された365 GT4 BBである。365GTB/4 "デイトナ "に代わり、F1の12フラットやスポーツプロトタイプ(フェラーリ312)のアーキテクチャ、コロンボV12のコンポーネントを採用し、伝統と現代性を兼ね備えた新しいエンジンを搭載した。375馬力を発生するこのエンジンは、卓越した体格により、ドライバーを時速300kmという非常識な速度まで押し上げた。より短く、より低く、より広いBBは、スポーツカーレースで活躍したマラネロのプロトタイプを彷彿とさせる。時代に合わせて進化を遂げたBBは、発売から11年後の1984年にテスタロッサに取って代わられるまで、2つのバリエーションが存在した。

最初の進化は、1976年に登場した365 GT4 BBに代わるBB 512。外観はわずかに変更されたが、内部は大きく進化していた。6個あったテールランプとエキゾーストパイプがなくなり、妹分の308GTBと同じ4個のテールランプと4本のパイプになり、スポイラーとワイドホイールが追加されて高速走行時の安定性が向上した。エンジンのシリンダー排気量は365ccから411ccに拡大され、アメリカの新基準によるパワーロスを補った。20psを失ったものの、その性能は引き続き他社を凌駕していた。1981年に登場した2度目の、そして最後の進化は、BB 512iと呼ばれる。iは、フェラーリがモータースポーツで培った技術であるインジェクションの略である。低回転域でよりトルクフルな走りを実現し、何よりも信頼性が高く、日常的に使いやすいものとなった。



レオナルド・フィオラバンティがピニンファリーナでデザインしたBBは、フェラーリの歴史において3つの理由で重要な位置を占めている。コンセプトカーP6からBB512iに至るまで、そのデザインは純度が高く、わずかな変更を加えるだけで済むこと、技術的なブレークスルーをもたらしたことでマラネロの歴史における重要なマイルストーンとなったこと、そして最後に、そのデザインのストーリーから伝説(フェラーリ公式サイトでも言及されているのでもはや伝説ではない)が生まれることである。ミラノ出身のデザイナー セルジオ・スカリエッティらは、彼が描いたスケッチを見て、この車に惚れ込んでしまった。

その美しさに打たれた彼らは、フランスのスター女優 ブリジット・バルドーへのオマージュとして、このプロジェクトに「BB」というニックネームをつけることにした。この頭文字をとって、イタリアンブランドは「ベルリネッタ・ボクサー」という正式な意味を持たせて発表したが、実際にはそうではなかった。



1982年4月、イタリア・ボルツァーノのAutoexpo Spaが新車で販売したこのBB 512iの2番目のオーナーは、大のスポーツカー好きで、フランス映画界の誰もが認めるスター ジャン=ポール・ベルモンドだった。フランスの宝ともいわれ、アラン=ドロンと並び一世を風靡した彼はキャリアの絶頂期にあった1985年12月にBBの魔法にかかりこの車を手に入れた。1986年1月9日にパリ6区のサン・ペール通りにある彼の自宅で名義変更をして以来、69歳になった2002年7月14日まで所有していたのだからその魔法は本物だったのであろう。

購入時の走行距離は不明だが、1992年4月14日に19,457kmを記録し、2002年5月14日には30,000kmに達している。現在、この車の走行距離は40,978kmで、1992年、1996年、1998年、2002年、2007年、2009年、2012年、2015年、2017年、2021年に定期点検を行い、走行距離は順調に伸びている。定期的に使用していた3番目のオーナーにあたるパリ出身のカップルがこの崇高なフェラーリを非常に丁寧にメンテナンスしていたことを、大量の請求書が証明している。また、ジャン=ポール・ベルモンドの署名入りの販売証明書のコピーも添付されている。





そして2015年6月10日、この車はクラシックカー専門のディーラーから4番目のオーナーに売却された。ボディワーク、インテリア、カーペット、エンジンルーム、ランニングギア、フロントトランク......多岐にわたるレストアが施され、フェラーリ・クラシケも取得。もちろん、エンジンもギアボックスもオリジナルで、電気系統もすべてリコンディショニングされている。アルジェント・メディオ・フェロ・カラーにブラックレザーとライトグレー・ファブリック(ペッレ・ネラ/ストッファ)の希少なデイトナ・インテリアは、運転席側の灰皿にあるジャン=ポール・ベルモンドのサインを消さないように完全に張り替えられているのが魅力的である。深い愛情を注がれてきたこのBBは先日フランスで開催されたオークションに出品され、推定最低落札価格よりも高い442,860ユーロ(約5757万円)という価格で落札された。ジャン=ポール・ベルモンドがかけられた魔法はまだまだ効き目を発揮しているようだ。

オクタン日本版編集部

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