美しきスーパースポーツカー、ジャガーXJ220が30年の眠りから目を覚ます

Photography: Tomoko TAKANO

約30年間、眠り続けていたジャガーXJ220がかつての美しさを取り戻した。陽の光を浴びてこなかった一台が千葉ガレージによって丹念に仕上げられ、今はまばゆいほどの輝きを放っている。


これまでに、数えきれないほどの自動車が誕生してきた。車それぞれが持つ用途は千差万別で、その数だけ個性がある。デザイナーが何かしらの意図やメッセージを込め、描いているのだから同じものがないということは当然だ。しかし、ひときわ特殊な個性を放つ車が中には存在する。「スーパースポーツカー」というジャンルに分類されるものはそれにカテゴライズされることが多いが、中でもとてつもない異彩を放つものもある。このジャガーXJ220もその一台だ。

一時は「世界最速の市販車」として名を馳せたジャガーXJ220。ジャガー・コヴェントリーのデザインスタッフが通常業務終了後に取り組んでいたサークルのような「サタデー・クラブ」と呼ばれる活動がきっかけで誕生したスーパースポーツカーである。ジャガーが世界最高の性能と魅力を備えた車を設計、生産できることを証明することを目的としていたこのマシンは、ポルシェ959やフェラーリF40といった当時のスーパーカーと競い合うことができるようにジャガーが培ってきたレーシングマシン設計の技術を用いて開発された。3.5リッター V6ツインターボエンジンを支えるものは、アルミハニカムをアルミ板で挟んだパネルによるモノコックシャシーとオールアルミのボディパネルである。アルミならではの風格といえる、なめらかに流れるようなボディラインはどこから見ても美しい。インテリアにはコノリーレザー、ウールカーペットが用いられ、スパルタンな設計とは裏腹にラグジュアリーな雰囲気が漂う。これぞジャガーらしさ、といえようか。

眠りから覚めたXJ220


そのような一風変わった車XJ220 が今回千葉ガレージに入庫した。ただでさえ触るのにも気を張るような車であるが、この1台は紆余曲折あり日本に来てから約30年間にわたってほとんど動かされることなくほぼ眠っていたものなのだから余計に気を遣う。走行距離はおよそ900km。フェンダーに貼られたフィルムはじっとしていた年月を語るようにヒビ割れている。もちろん走っていないのだから、泥汚れはゼロに等しい。しかし、経年によるボディのくすみ、インテリアのやれが見られる。ジャガーのデザイナー、キース・ヘルフェットが描いた、このボディラインと風格を再び蘇らせることが今回の一番の目的だ。

研磨のためマスキングテープを貼ると、その独特なボディラインがさらに浮き出てくる。このように曲面ばかりのボディは作業が難しくなる。

当初はV12エンジンが搭載されるはずであったエンジンルーム。普通に開けただけでは手が届かないため周りのパーツを取り外してエンジン洗浄をおこなう。

千葉ガレージでは車それぞれの特性に合った仕上がりをイメージしながらリフレッシュが施されるが、XJ220はこれまでの中でもイメージを描くことも困難であったという。アルミは繊細であるし、経年劣化によって想定外のことが起きたりもする。車を綺麗にすると考えると、洗車してコーティングを施せば、ある程度綺麗な見た目にはなるかもしれないが、それではこの車にはそぐわない。正面から向き合い、よく観察し、手探りながらも確実な方法でひとつひとつの作業に時間を要する。この車に限ったことではないが、このように幾度もの工程と、尊い時間が1台にかけられるべきである。

取り外せるパーツはすべて外し、ひとつずつ丁寧に時間をかけて洗浄、研磨を施す。リアスポイラーだけでも2時間以上はかけられている。

今回、下回り洗浄などすべてをおこなうには専用工具が必要となるためそれらは施されていないものの、リアスポイラー、エンジンルームを囲うパーツ、トランクルームのパネルなど取り外しできるものはすべて取り外してリフレッシュされている。特徴的なフロントダクトも、ぱっと見だけの綺麗さではなく、中のラジエーター周りも洗浄し徹底的に仕上げられている。普通であれば手が届きにくいような箇所も洗浄し、すべてがピシッと決まってこそ完成する。

“えら”のようなフロントダクトがひとつの特徴。いざそこを覗いてみたらほこりが…なんてことにならないようにすべて洗浄する。

ライトは当時の雰囲気を残すため、あえて多少のくもりを残している。徹底的にピカピカにするのではなく、車それぞれの歴史に合った姿に仕上げられる。

コノリーレザーが華やかさを演出するインテリアからは、バケツ1杯分もの汚れが取れたという。

一連の工程では、オリジナルを活かし、かつての姿を尊重することが重要になる。たくさんの想いを注がれながら1992年の姿に蘇ったこのXJ220は、新しい人生を今走り出そうとしている。

見事に30 年前の美しさを取り戻したショット。タイムワープしてきたかのような風格を放っている。


株式会社千葉ガレージ
住所:168-0062 東京都杉並区方南2-4-6
電話:03-5913-7170(要予約制)
参考価格:1泊2日クイックリフレッシュ
16万5000円(税込)~


<車両協力>
Jaguaria/株式会社ワイズ
長年に渡りジャガーを専門に取り扱うショップ。新旧問わず各モデルを取り扱っており、ジャガーのことなら何でも相談に乗ってくれる。経験とノウハウを活かして、良質な車両の販売、車検、整備、レストア及び海外からの車両、部品の輸出入等、幅広いニーズに対応してくれる、ジャガー愛好家にとって心強い存在だ。
在庫車の一例:1990年 JAGUAR Sport XJR-S 6.0
Black /De Chrome /Magnoria Leather/U.K specif ication/35000 Miles from New/Superb Condition


■東京事務所
177-0054 東京都練馬区立野町14-7 2F
TEL:03-5712-3600
■川口工場
334-0074 埼玉県川口市江戸3-13-8
TEL:048-290-8401

営業時間:10:00~19:00 定休日:日曜日・祭日
mail:wids@widsjapan.com
HP:www.jaguaria.com


文・写真:髙野智子 Words & Photography:Tomoko TAKANO

文・写真:髙野智子 Words & Photography:Tomoko TAKANO

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