メルセデスの歴史を紡ぐSクラス│新しい時代に寄り添った新型に試乗

Kazumi OGATA

メルセデス・ベンツ的には、このW223W型Sクラスはその名を用い始めて7代目ということになるらしい。ちなみに初代はライトが縦目から横長の角目となったW116型になるという。が、個人的にはそれ以前の縦目や丸目も含めて、各々の心の中にあるザ・メルセデスこそがイコールSクラスということでいいのではないかとも思う。言い換えれば、代々のそれをもって積み重ねてきた特別な歴史があり、それゆえの乗用車の雄という敬意こそが今日の多様化したメルセデスを束ね支える源泉でもある。ゆえに、新しいSクラスと聞けばことさらに期待も大きくなる。

新型SクラスのラインナップはディーゼルのS400dとガソリンのS500の2種類になり、各々に標準ボディとロングボディが用意される。パワートレインは共に先代W222型の後期から設定された最新世代の直6直噴ターボで、S500はISG(インテグレーテッド・スターター・ジェネレーター)を組み合わせた48Vマイルドハイブリッドとなる。組み合わせられるミッションは共に9段ATだ。衝撃的なのは日本に導入されるモデルは全て4マチックつまり四駆になったということ。実は本国さえ最も廉価なS350dにのみFRが残されているという状況で、もはやSクラスは4マチックがデフォルトと言っても過言ではない。北米市場の要請という側面もあれど、そのくらい搭載するパワーやトルクが増大したということでもあるだろう。



新型Sクラスの最大のトピックはやはり大胆なデジタライズ化だ。その象徴たるところはセンターコンソールに鎮座する12.8インチのLEDモニターだろう。常時表示されるクライメートコントロールを筆頭に、ほとんどのファンクションはこの画面を通じてタッチ操作で設定する。当然ながら機能選択のための階層は深くなるわけだが、そこを補完するのが進化を続けるMBUXを介したボイスコントロールや、新たに加えられたジェスチャーコントロールということになる。これによって膨大な機能を司る物理スイッチの数は激減したが、前型からの劇的な変化には慣れを要することになるのも確かだ。




 
一方で、一見前型にも増して派手に飾り立てるがために設えたようなアンビエントライトが、全席に対応したMBUXのコマンドに呼応するかたちで反応したり、ADASの視覚的警告として機能したりと、安全性により寄与するための進化もしっかり果たしている辺りはメルセデスらしい。それでいえばAR表示されるナビの方向指示は画面だけでなくHUDとも連携しており、実視界と重なってわかりやすく表示される点も、デジタル化の安全寄与の一例といえるだろう。


 
試乗車は標準ボディのS400dだったが、新型Sクラスの走りでまず触れておくべきは、大きく向上した快適性だろう。ランフラットではなくラジアルタイヤの採用もあり、低速域からの入力に対する応答はすこぶる穏やかだ。コンフォートモードのまま120km/h級の高速域に達すると持ち前のフラットネスがちょっと削がれたかという印象も抱くが、スポーツモードでは上屋の動きもピタリと収束し、ねっとりと路面に張り付く安定感を味わわせてくれる。スポーツモードの足捌きはなかなか柔軟性が高く一般道でも硬さを余り感じないので、インディペンデントモードを巧く活用して、足回りだけをスポーツに設定しておくのもありだと思う。


 
極低速域ではCセグメント級の小回り性能に寄与する4WSは、高速域の安定性からみれば驚くほど軽快なワインディングでの身のこなしにも積極的に関わっている。ロール量を無理に規制する感はなく、そこと鋭いハンドリングとの整合性という面ではまったく違和感はないわけではないが、慣れが解決する話には収まっている。実際、試乗の後半にはゆるゆると走ってはスラッと曲がる、その動き方が体にすっかり馴染んでいた。



インターフェース面でも然りだが、新型Sクラスは持ち前の包容力は譲らず、一方でユーザーに新しさを受け入れてもらうべく、慣れの範疇を相当慎重に見極めたのではないだろうか。ここまではリピーターもついてきてくれるだろうというギリギリのところを突きながら、新しい時代と新しいユーザーにもしっかり寄り添っている、でも結果としての読後感はまごうかたなきSクラスであると、その匙加減が絶妙だと思う。


文:渡辺敏史 写真:尾形和美

文:渡辺敏史 写真:尾形和美

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