「なるほど!」な特徴の数々 文化的で洗練された世界に一台のフェラーリ・テスタロッサ

Photography:Christian Martin for Artcurial


 
さらにもうひとつ個人的な特徴がある。それはヴァレオのクラッチシステムだ。後にモンディアルTに採用されたが、フェラーリのロードモデルとしてはこれが初採用のメカニズムだったとされている。センターコンソール上のボタンを押すとクラッチペダルが格納され、代わりにステアリングホイールに備わるボタンがその役目を果たす。ギアを変える際にはそのボタンを押してシフトレバーを操作すればいい。左脚を使わなくても済むというわけだが、それこそ1950年代の交通事故の古傷に悩んでいたアニエッリのための特別装備だった。「彼は脚に大けがを負ったんだ」とスターンは説明してくれた。



「それからというもの歩く時には足を引きずるようになった。クラッチ操作にも苦労していたという。このテスタロッサの他にもヴァレオのギアボックスを装備したF40も持っていたはずだが、F40はヴァレオのシステム以外はまったくスタンダードだったと思う。この車は無数のユニークな特徴を持ち、それらが調和するようにすべて入念に考慮されている。これはフェラーリのオーナーのためのワンオフスペシャルとして作られた唯一のフェラーリだ」
 
実際に運転してみると、市販モデルと変わらない完成度を持っている。車全体がしっかりしており、乗り心地も良く、そして驚くほど扱いやすい。テスタロッサはベルリネッタ・ボクサーよりも長く、街中ではその全幅を気にしないわけにはいかないが、何よりもエンジンの素晴らしさがそれ以外の印象を圧倒する。回転数を問わず、逞しいパワーが滑らかに、抑えられた排気音とともに湧き出して来るのだ。ひと言で説明しようとするなら、熱く激しいというよりも文化的で洗練されている。


 
これまでにも垂涎のフェラーリを所有してきたあなたにとって、この車はどのあたりにランクされるのか?と尋ねた時に、スターンは一瞬黙り込んだ。

「すべての車に愛着を持っている。どのフェラーリも心の中に収まるべき場所があるんだ。GTOでのロングツーリングは途方もなく刺激的だ。1960年のモスのSWBは並外れて素晴らしく、ロードカーとしては間違いなくGTOを凌ぐ。ノンシンクロの290MMも忘れられない。トランスアクスルからの唸り声はまるでB52のようだった。これまで幸運にも何台かの偉大な車に巡り合ってきたが、このテスタロッサは皆の眼を釘付けにする本物の主役ではないだろうか」

編集翻訳:高平高輝 Transcreation:Koki TAKAHIRA Words:James Page Photography:Christian Martin for Artcurial

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