祝!佐藤琢磨選手インディ500、2度目のV|20年来寄り添うジャーナリストが贈る「琢磨君」への心からの賛辞

Photography: Kazuki SAITO



けれども、捨てる神あれば拾う神あり。インディ500でのファイティングスピリット溢れる走りに感銘を受けたインディカー界の重鎮、AJフォイトが自分のチームに招き入れたことで琢磨君のキャリアは新たな局面を迎えます。決してトップクラスとはいえないAJフォイトのチームで1勝を挙げると、2017年に名門アンドレッティ・オートスポーツに移籍。見事、この年のインディ500を制したのです。もちろん、これは日本人初の快挙。本当だったら、これ一発で国民栄誉賞に輝いても不思議ではないのに、日本でのインディカーの認知度が低かったせいで内閣総理大臣顕彰にとどまった(なんていったら失礼か)のは、ほんのちょっぴり残念でした。



ウマのあわないアンドレッティを1年限りで飛び出した琢磨君は、2018年にグレアムとの2カー体制が整ったレイホールに復帰。そして迎えて3年目のインディ500が今回だったというわけです。「2012年に取り逃した栄冠を絶対に勝ち取ってみせる」 琢磨君がそんな意気込みでこのレースに臨んだことは想像に難くありません。

2.5マイル(約4km)のオーバルコースを200周して勝敗を決めるインディ500は、とにかく駆け引きが大切なレース。先頭を長く走り続けると風圧を受けて損するあたりは、かつて琢磨君が打ち込んだ自転車競技にも通ずるところです。おかげで150周目あたりまではあくまでも様子を見ながらの周回。それまでにマシンのセッティングを整えて、終盤の戦いに備えるのがインディ500の基本なのです。

そして最後の最後に重要になるのは、まるで詰め将棋のように巧妙に仕組まれた攻防戦。2017年に強豪ペンスキーのエリオ・カストロネヴェスを制して優勝できたのは、まさにこの詰め将棋並みの戦略のたまものでした。

この年、琢磨君が純粋な速さでカストロネヴェスに太刀打ちできないことは明らかでした。それでもスリップストリームを使って先頭に立てば、彼が再び追いついてくるまでに少なくとも2周が必要なことに琢磨君は気づきます。実は、レース終盤に琢磨君はシミュレーション代わりにカストロネヴェスをパス。その2周後にカストロネヴェスが琢磨君を攻略したことで、彼との力関係を計っていたのです。そしてチェッカーまであと5周となった195周目に琢磨君はカストロネヴェスを追い抜いてトップに浮上。これはフィニッシュ間際にイエローが出てオーバーテイクのチャンスが奪われるのを防ぐための作戦で、案の定、残り2周となったところでカストロネヴェスに一旦は追いつかれますが、ここを必死のディフェンスで凌ぎきると、あとは無我夢中で走り抜けてインディ500を制したのです。





ただし、今年はだいぶ様子が違っていました。優勝争いを演じる相手はチップガナッシのスコット・ディクソン。琢磨君はレース終盤の157周目に初めてディクソンを攻略してトップに立ちますが、ここから琢磨君はズンズンとディクソンとのリードを広げていきます。それは、最後のピットストップを行なった168周目以降も同じこと。一度は順位を落としながらも、再び速さでトップを奪い返すと、フィニッシュ間際のアクシデントでイエローフラッグが振られるまで琢磨君はディクソンを引き離していったのです。



それにしても思うのが、琢磨君の闘争心と熟練度のバランスが整ってきたことです。彼の闘争心はいまも健在。でも、勝ちたいがゆえに待つこともできるようになったし、リスクを回避する知恵も身につけた。コーナーの進入でブレーキング争いするときも、敢えてライバルとの間に距離をおいて、接触の可能性を最小限に留める工夫をしていたりする。そんなところも、いま琢磨君がインディカーで好成績を収められる理由のひとつだと思います。



もうひとつ忘れることができないのが、彼の肉体面。もはや現役としてはほぼ最長老にもかかわらず、日ごろからトレーニングを欠かさないせいで43歳のいまも筋肉隆々。ちなみにスポーツ医学を研究する某施設で「肉体が疲労しているとき、どれだけ冷静な判断ができるか?」について検査したところ、琢磨君は驚異的な成績を収めたそうです。こんなところも琢磨君がインディ500で強い理由のひとつかもしれません。



この調子であともう1回、できればあと2回勝って欲しい。そうすれば、琢磨君はインディ500の最多優勝記録である4勝で並び、その名を歴史に刻むことになるのだから……。いやいや、まずは琢磨君に「2勝目、おめでとう!」と伝えるのが先決でした(笑)


文:大谷達也 Words: Tatsuya OTANI 写真:斉藤和記、INDYCAR Photography: Kazuki SAITO, INDYCAR

文:大谷達也 Words: Tatsuya OTANI 写真:斉藤和記、INDYCAR Photography: Kazuki SAITO, INDYCAR

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