熾烈なバトルのプレイヤー│フェラーリF40 vs ポルシェ959

Photography:Michael Bailie



もう一方の主役はポルシェ959である。ヒストリック・レーサーでランチアのエンスージアストとしても知られるオーナーのアンソニー・マクリーンによれば、オドメーターが4万㎞余りの彼の車はかなり"走った"車だが、959には珍しくないという。959は信頼性が高く、現代の交通の中をノロノロ走ってもまったく問題ないらしい。発表時は衝撃的だったものの、今では巨大なテール部分を除けば、ごく普通に見える。おそらくそれはフラッシュ処理されたヘッドランプや一体化されたバンパー、エアロダイナミックな形が現代の一般的な自動車と共通するからだろう。

959の自慢はグループCカーの956および962に搭載されレースで実証されたエンジンを備えていることだ。水冷ヘッドを持つ2.85リッターフラット6ツインターボエンジンは450bhpを生み出すとされるが、マクリーンの959はポルシェ公認の改良を受けている。より小型で効率的なターボチャージャーや改良型ECUなどによってパワーは585bhpに増強、トルクもスタンダードの369lb-ft(500Nm)/5500rpmから引き上げられているという。

エンジンと並ぶ特徴が可変トルク配分を備えた4WDシステムで、路面コンディションに応じてトラクション、アイス&スノー、ドライまでセッティングを変えることができる。ギアボックスは6段マニュアル、サスペンションは車高調整機構付きダブルウィッシュボーン、さらにボディワークの51%は複合材でCd値は0.32などなど、驚くほどハイスペックである。

他にもル・マン用に開発されたタイヤ空気圧モニターシステム、中空マグネシウムホイールやランフラットタイヤなど、その最新装備リストは果てしない。

アルミニウム製ドアを開けると、こちらは見慣れた911のインテリアである。ただしスターウォーズ風メタリック調のシートはいかにも80年代だ。ポルシェは時々このような変わったシートを採用する。70年代の派手なチェック柄のシート地を覚えているだろうか。

エンジンもまた911のように始動する。クラッチは軽く扱いやすく、スロットルレスポンスは若干鈍く感じるものの、959はまったく神経質なところを見せずにゆっくりと走り出す。村々を抜ける田舎道ではポルシェ959はF40よりもはるかに扱いやすい。室内は静かで快適で、乗り心地も素晴らしく滑らかなうえに視界も良好。ギアシフトはちょっとゴムを捩じっているような感触があるが、ステアリングはパワーアシスト付き、そうそう、パワーウィンドーも
備わっている。

開けた道でその実力を解き放ってみる。最初は静かに回転を上げていくが、次の瞬間にゾクゾクするような加速が始まり、続いて4500rpmで二つ目のターボが作動するとドン、と誰かがシートの背を蹴飛ばしたかの加速が加わる。ポルシェはひとっ飛びに次のコーナーに迫り、一気にブレーキングするとすべてが止まる。実に素晴らしい。

ひとたびエンジンが目を覚ませば、959は獰猛なまでに速いマシンだ。しかも山道では速いだけでなくすべてが調和して扱いやすい。ブレーキは文句なしに素晴らしく、これに比べるとF40の弱点がよく分かる。

スイスの山道を駆け巡って明らかになったのは、ポルシェ959がずっと先進的な車であるということだ。F40よりも何十年も進んでいるように感じる。おそらくそれは非常に洗練されているからで、同時にそのおかげで私のような腕では一般路上でF40よりも速く走ることができる。959は指先で操ることができるが、従順ではないフェラーリを御するには肩と腕の筋肉を目一杯使わなければならないのだ。

編集翻訳:高平 高輝 Transcreation:Koki TAKAHIRA Words:Robert Coucher 

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