鍛え抜かれたアストンマーティンのサーキット専用スーパーカーとは?

Photography:Dominic Fraser



次はOne-77だ。2008年の発表以来、77台が限定製造されたこの車で走ってみたいと考えた人は多いはずだ。それが2台も目の前でアイドリングをし、世界屈指のサーキットへ走り出すのを待っているのだから、興奮を抑えられるはずがない。

One-77が特別な車であることは、ピットレーンをゆっくり進んだだけで分かった。ヴァンテージSよりダイレクトなのだ。トランスミッションのノイズが大きく、サスペンションは硬く、エンジンの咆哮もアグレッシブだ。まずは通常モードで走行したが、それでも7.3リッターV12エンジンは560bhpを発揮する。

最初のコーナーから、より鋭くターンインするのを感じた。だからといってグリップを判断するのはまだ早い。タイヤは温まっておらず、インストラクターも見ている。慎重にいかなければ。だが、One-77は期待通り絶妙の感触だ。

数周すると、スポーツモードに入れる許可が出た。フルパワーの700bhp強を解き放つ。即座に加速が増し、エグゾーストノートもしびれるような雄叫びに変わった。このマシンはV12ヴァンテージSより"キワモノ"だ。音量はもちろん、6段トランスミッションが後発のヴァンテージほど洗練されていないのも一因ではある。だがそれより、最高220mphに達する驚異的なパフォーマンスと、きついコーナーでも切り込める転回性能の高さによるところが大きい。

特に強烈な印象を残したのが、サンテ・ボームのS 字を立ち上がり、長いミストラル・ストレートへと続くセクションだ。V12ヴァンテージSも速かったが、One-77はまるで弾丸のように加速していく。やがて、突然コース脇に「ブレーキ」ボードが現れ、一瞬で視界から消える。その瞬間、カーボンセラミックのブレーキをきかせるのだが、まるで壁に激突したかのように大きく減速するので、下手をするとシケイン手前でスピードを落としすぎてしまうほどだ。数周でピットに戻ったが、One-77のパフォーマンスがはるかに上であることはよく分かった。このサーキットを走り始めてほんの1時間ほどだが、プロのインストラクターからあらゆるポイントについて指導を受けながら、アストンマーティン史上最もパワフルなロードカーで走行できたのだ。



次のステップでは、ヴァンテージGT4をスリックタイヤでドライブする。まず、チーフインストラクターから説明を受けた。「メカニカルグリップが大きく上がります。違いをはっきり感じるでしょう」ここでヴァルカンがF1のようなサウンドを上げて通り過ぎた。遠ざかっていく轟音のほうを指しながら笑顔で続ける。「あれは、メカニカルグリップでも空力でも、さらに上です」

GT4 に乗るためには、レーシングスーツに着替え、HANSを装着しなくてはならない。当然、気分も高まってくる。いよいよ本物のレーシングカーだ。車内はどこもかしこもFIA 準拠のロールケージで埋まり、シート後方の空間にも調整可能なケージが交差している。おかしな話だが、外観ではOne-77よりはるかに小さくおとなしい車に見える。ところが、早くもピットレーンから活力にあふれ、ノイズも大きいのだから驚く。

タイヤもブレーキもまだ冷えているにもかかわらず、やはりGT4も第1コーナーからターンインで信じられないほどの違いを見せつけた。これに比べたらロードカーはのっそりとしたものだ。GT4はあらゆるインプットに反応し、トランスミッションとエグゾーストが競い合うように素晴らしいBGMを奏でる。市販車と同じ4.7リッターV8エンジンとセミオートマチック6 段だが、300 ㎏も軽量化された車重と、空力パーツ、硬いローズジョイントのサスペンションで大きな差になるのだ。この日の最後に二人の顧客がGT4を購入した。ヴァルカンが納車されるまでの練習用だという。いやはや……。

編集翻訳:伊東和彦(Mobi-curators Labo.) Transcreation:Kazuhiko ITO (Mobi-curators Labo.) 原文翻訳:木下 恵 Translation:Megumi KINOSHITA Words:David Lillywhite 

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