世界初 マクラーレンF1をファクトリーでレストア│心臓が止まるかと思うほど騒々しいノイズ

Photography:Tim Scott, Restoration photography:Patrick Gosling / Tim Scott



シャシーナンバー25Rのフロアパンには数え切れないほど多くの打痕や擦り傷が残っていたが、もしも新しいパネルに置き換えてしまえば、車内から見ても交換した事実が明らかになってしまう。そこで、スティーヴと彼のチームは、見た目をよくするために薄いカーボンファイバーのシートを、ピンクのポリエステル接着剤(正確にいえば3M社の9323という製品)でフロアに貼り付けることにした。

「モノコックを組み立てるのにも同じ3MのDP490が使わ
れましたが、この目的で使うにはやや重すぎます。ただし、色が黒ではなくピンクになることを含めて、9323とDP490は見た目がよく似ています」とスティーヴ。「この接着剤が硬化するまで室温で4時間ほどかかります。さらに事後処理として温熱ランプで数時間温めますが、この間は平面を保つために重りを載せておきます」

F1ロングテールのアウターパネルはフロントとリアのボディカウルがその大半を占めるが、激しいコンペティションの痕跡はここにも数多く残されていた。そこで、オリジナルのボディカウルはロードカーとして用いるときのために確保しておき、レース仕様で展示するときには、未使用もしくは古いストックのボディカウルを装着するという方針が固まった。ちなみに、同じボディカウルでもレース用とロードカー用では形状が異なっている。GTRを一般道で走らせる際には、ライドハイトを上げるためにサスペンションのピックアップポイントも別のものを用いるが、こうするとホイールとホイールアーチの間に見苦しい"ギャップ"が生まれてしまう。そこでロードカー用では、ホイールアーチのフレア部分を少し下げたボディカウルに付け替えるのである。

ロードユースの際に装着されるオリジナルのボディカウルは、そこかしこに残る傷が目立たないように補修されているが、それでもレース仕様で用いられる未使用品や古いストックからなるボディカウルに比べると、コンクールデレガンスなどでの評価に100%耐えうる状態とはいえない。25Rのレストアでプロジェクトリーダーを務めるラッセル・ハンコックスは、ボディカウルの多くは補修の際に内側からウェットカーボンを貼り合わせて補強されていたという。ラッセルが打ち明ける。「オリジナルのリアバンパーと倉庫に眠っていた未使用のリアバンパーを比べると、オリジナルの重量は未使用品の倍近くもありました!」

レストア中に置き換えられたアウターパネルの80%以上は、リプロダクション品ではなく、マクラーレンがストックしていたオリジナル・パーツが用いられた。そうしたパーツを見つけ出すには大変な苦労が伴うこともしばしばだったという。マクラーレン・オートモーティブは2000年代に入ると急速に規模を拡大していった。しかも在庫リストのソフトウェアが数年前に更新されたため、古い在庫に関してはごく大ざっぱな記録しか残っていなかった。「倉庫に出かけていって、そこに置いてある段ボールを開けたとき、なかに入っているものを見つけて大いに驚いたことが何度もありました」 ラッセルはそうも教えてくれた。

こうした状況のなかで、ラッセルは素晴らしい発見を何度もしたという。たとえば、25Rの6速シーケンシャル・ギアボックスは完全にリビルドされたが、内部のパーツはすべて新品を用いた。「今後、同じことができるかどうかはわかりません。なにしろ、特定のパーツに関してはたったひとつしか見つけることができなかったので⋯。ただし、オリジナルの設計図はすべて残されているため、必要とあらば新品を造り出すこともできます」

編集翻訳:大谷達也 Transcreation:Tatsuya OTANI Words:Mark Dixon 

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