ジャガー EタイプとFタイプをスペイン・バルセロナで乗る

Photography : Mark Dixon



朝、Fタイプクーペ・プロジェクトマネージャーのダンカン・ブライアンと早めの朝食を共にした。「過去から今後まで、ジャガーはどうあってどうあるべきなのか、Eタイプのエッセンスを洗い直しその結果をスタイリングとエンジニアチームにフィードバックしました」とはブライアンの弁だ。

では、新型Fタイプクーペはその完璧なヘリテージを製品に反映することができたのだろうか。今回のテストドライブでは我々はそのパワーに魅了され続け、周囲の山々はこの質問の答えを見いだすのにふさわしい場所へと我々を誘った。特にカレル・デル・ブルッフ周辺のワインディングロードやコーナー、さらにジェットコースターのような「のこぎり山」という名の、ピンクの礫岩がそそり立つモントセラト周辺。スイッチバック、急登坂(そして帰路はその反対)反復してあらわれるコーナーと荒れた路面。この苦行はモータリングのニルヴァーナ、解脱への道のようだ。



Eタイプは常にGT以上のスポーツカーであるべく改善され続け、それをレースで実証してきた。グレアム・ヒルはEタイプ発表から1カ月後のオールトンパーク・サーキットで、フェラーリやアストン・マーティンを抑えて早くも優勝を果たしている。今日ではEタイプは案外小さく感じられ、特に"ロードローラーのような" ファットで大径の19インチホイールを履いたFタイプの隣にあってはなおさらだ。小さなドアから滑り込み、不要なパディングを排した薄いバケットシートにはまり込む。車重1219kgはたいへん軽量といえるだろう。コクピットに収まったドライバーの目前には大径のウッドリム・ステアリングホイールが控えている。それはラック・ピニオン式で直進時は左右に約1/2インチほどの"あそび" がある。

もちろんパワーアシストなどないが、パーキングスピードでも不当に重くはない。Eタイプに搭載された3.8ℓDOHC6気筒エンジンの公表出力は265bhp、最高速は150mph(241㎞/h)と発表されたが、これは特別に調整されたテストカーで達成されたものだ。

これに対して、新型FタイプのV6Sスーパーチャージャー付き3ℓユニットは375bhpを発揮し、最高速度は171mph(275㎞/h)に達する。これが技術の進歩というものだろう。 

1960年代当時、英国製のスポーツカーは英
本国のみならず世界中で市場を席巻していた。発表時のEタイプの価格は2000ポンドをわずかに超えるもので、ポルシェ911がたった2ℓながら、ほとんど倍の値をつけていたのとは好対照だ。ジャガーには他社にはあり得ないスピードとコストパフォーマンスがあり、特にEタイプは人々の視線を引きつける魅力"色気" を備えて登場した。ヘリテージジャガー社のテクニシャン、デイヴィッド・ウイザース(今稿のEタイプの整備を担当)は、これをニール・アームストロング船長の月面着陸になぞらえ「小さな一歩」と呼んだ。その後のEタイプは進化し、多少のコンセプトの修正もあり、しなやかさと敏捷さからは遠ざかりながら、最終的には5.3ℓV12エンジンとオートマチックトランスミッションも選択できるグランドトゥアラーとなった。もしこれを音楽の世界に例えるならこれはエルヴィス・プレスリーだ。

昨年Fタイプロードスターが発表された際には、専門家の批評や受賞のことを語らずとも、それを試乗したほとんどすべての人が絶賛した。そして今回はねじれ剛性を大きく80%も改善したクーペバージョンが登場。ジャガー社は、トップレンジのRモデルには、最速ロードスターに搭載した488bhp仕様の代わりに、XFR-S用の542bhpを発揮するスーパーチャージャー付きV8エンジンを搭載すべきではないかと真剣に考えているようだ。

2011年、私は後年Fタイプとして結実するC-X16コンセプトについてイアン・カラムを取材した。その時、彼は「これはモダンとクラシックの素敵な融合だ。私はおそらく他のどのジャガーよりこれが好きかもしれない」と語っている。

この事は車全体すなわちルーフラインのプロポーションと、テールライト等細部について、そのままEタイプにも置き換えることができる。さらにカラムは「Eタイプからの影響については特に意識して反映させてはいないが、しかしもし人々がその事に気づいたら、それはちょっと嬉しい事だね」と付け加えている。

そして、C-X16コンセプトにEタイプクーペと同じ右ヒンジのテールゲート(電動式)を付けたことについては「ちょっとした悪戯だった」と告白した。もっとも生産型ではテールゲートは常識的な上部ヒンジとなった。FタイプはEタイプ以来初の純2シーターでありながら、ジャガー社は1台所有のファーストカーとしても売っていこうとしているから使い勝手は重要だ。XKコンバーチブルはセカンドカーとして購入されることが多かったのだった。周囲はカラム率いるデザインチームが、Eタイプのそれと同様完成されてしっくり馴染む"適切な" ボディをFタイプに与えるのを待ち続けていた。DNAが歴然とした、特徴的かつとてもジャガー的で細部にも想いが宿ったデザイン。純粋に美しくいつまでも眺めていたくなるが、眺めているうちに過去のEタイプを眺めるのとは異なる視点で見ている事に気づくだろう。つまりこの2台には実際には十分な視覚的なつながりがあるわけだ。 

Fタイプのインテリアの仕
上がりは十分な高級感を感じられるが、通常では見落とすような箇所にはスタンダードクオリティーの素材も使われている。ドアポケット、ダッシュの下部、センターコンソールなどは機能本位なプラスティック樹脂製だ。ジャガーの代名詞は伝統的に「ウッドとレザー」のコンビネーションだが、Eタイプの後継であるにもかかわらずFタイプのインテリアにはその名残は見当たらない。

編集翻訳:小石原 耕作 Transcreation: Kosaku KOISHIHARA Words : Glen Waddington 

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