「ムカデ」と名付けられた8輪車|奇想天外な操作が求められるファニーカー

唯一無二のカスタムはファニーカー!?(Photography:Lyndon McNeil)

「ムカデ」と名付けられた8輪ウィリスはカスタムカーの天才職人、ディック・クックがこの世に送り出したワンオフである。カスタムの天才として知られていたクックだが、8輪ウィリスを通して知るクックは笑いの天才でもあった。

ワンオフで造られたウィリスは、まさに"未知との遭遇"だった。ステアリングホイールがあって、アクセルペダルとブレーキペダルがある。車のようだが、車でない。このレバーを引っぱって、あのボタンを押して…、操作方法は奇想天外。あらゆることが冷や汗の連続だった。真っすぐなんて走れない。ストレートパイプからV8エンジンのファンファーレがこだまし、排ガス臭がコックピットに立ちこめる。そうこうしているうちに、なんとかフロント4輪を走りたい方向に操舵できたものの、リア4輪が暴れ出しそうな危うさが漂うといった具合。しかも、リアのデフをロックしているにもかかわらず、だ。駐車場内ですらこの状態だから、8輪ウィリスの未知ぶりがご理解いただけるだろう。

悪戦苦闘すること約10分、それまでの焦りは笑みへと変わっていった。ゆっくりとではあるが、田舎道を意図する進路に向けて走行できるまでに上達した。車体は横を向いているのに、真っすぐ走る姿は実に滑稽だ。しかし、運転は決して楽ではない。ビニールで覆われたドライバーズシートに「サポート」という単語は無縁。身体は左右に揺さぶられ、容赦ない振動が背骨に伝わる。尻も痛む。天井に頭をぶつけた回数は一度では済まない。アクセルペダルを踏み込み40mph(約60km/h)ほどに達すると、何の前触れもなく不本意に走行車線をはみ出し、恐れおののきアクセルペダルを戻す。するとどうだろう、車両は左右に激しく揺さぶられ走行車線内に戻るではないか。心拍数は不必要なまでに上がる。ドライバーがなせることといったら、存在しうる罵倒用語を叫びまくるだけだ。一体、どこの誰が、こんな車両を、何のために作ったのやら。

カスタムビルダーの茶目っ気
ディック・クックはアメリカのカスタムカー業界では知られた腕利き職人で、流行を追うような人間ではない。そうしたクックを右手として迎え入れたのは「アウトロー」、「ラット・フィンク」などを世に送り出したエド・ロスだ。ロスはクックの腕、そしてユーモアを買った。ロスはかつて、クックが手掛けた1940年式のシボレーを気に入って購入したこともある。オールズモビルのトライ・パワーエンジン(編集部註:2バレル・キャブレターを3基搭載した高出力エンジン)を搭載していただけでなく、元非常用ブレーキハンドルをシフトレバーに改造したという車だった。当然、それを知らない人にシェビーを運転することはできなかった。そんなカスタマイズをたいへん気に入ったそうだ。

ロスは1970年代はじめにホットロッド・シーンから身を引いたが、クックは奇想天外なワンオフを生み出し続けた。今回の試乗車である8輪操舵のウィリスは、おそらくクックの最も"ぶっ飛んだ"作品だと呼んでいいだろう。53年式ウィリスをメインに、ジープ・ステーションワゴン2台を文字通り「切った貼った」している。通常のウィリスM151シリーズのフロントサスペンションを全輪に採用し、前後に不等長ドライブシャフトとピニオンヨークを備えたディファレンシャル、ジープ・クワドラトラック・トランスファーと組み合わせている。エンジンは327cu-in(5.4L)の排気量をもつシボレー・コルベットV8をリアに搭載。トランスミッションには、ボーグワーナー製ターボ・ハイドロマチックを用いている。

編集翻訳:古賀貴司(自動車王国) Transcreation:Takashi KOGA (carkingdom) Words:Richard Heseltine Photography:Lyndon McNeil

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