まるで凍結保存されたような「バイヨンフェラーリ250GTスパイダー」をレストアすべきか否か

Photography: Evan Klein



オリジナルとは何か
ボディのどこを見ても長い間に荒れ果て、黴と剥がれたクロームばかりが目につく。こんな状態にしておくなど馬鹿げていると言う人もいるだろう。ボロボロの外観の中でも、長年、雑誌の山の重みが掛かったせいで大きく凹んだトランクリッドは実に痛々しい。果たしてこの状態で保存するのが正しいことなのだろうか。あるいはアラン・ドロンが所有していたころのような眩い色とコンディションにレストアすべきなのだろうか。

なにしろ、この2935GTを購入した理由のひとつは、買い手の妻が若かったころ、アラン・ドロンの大ファンだったからだというのだ。

考えはなかなかまとまらなかった。この"未レストア"のフェラーリを委ねてくれたのは、オクタンと私を信頼してくれたからに違いない。そして長い間眠っていた伝説的な車を堪能し、それがどのようなものか世間に伝えてほしいと彼らが望んだからである。しかしながら、私の頭を占めていたのは、その希少性や素晴らしい運転体験よりも、やはりそのかわいそうなコンディションだった。

"アンレストア"(未レストア)と"プリザーブド"(保存された)は異なる。私の意見では、保存された車とはオリジナルを保っていなければならず、歳月の影響による他はどのような改造も許されない。このフェラーリの場合は、緩やかに年老いたというよりも放置されていたと言うべきである。無論、長期間見捨てられていたのはムシュー・バイヨンの意思ではなく、彼の経済的苦境によって引き起こされたことだ。この偉大なフェラーリはその塗装、バンパー、インテリアトリムなどがオリジナルではない。またエンジンルームはほぼオリジナルではあるが、実際に使用できる状態とは言い難い。

未レストア車であっても、このような状態では、造られた時の本当の姿をうかがい知ることはできない。もちろん、このような車を運転することは特別な感慨を揺り起こすし、カリフォルニア・スパイダーらしさも残っている。また納屋からそのまま走り出てきたような風情を見ることもできる。さらに言えば、ジャック・バイヨンがかつて所有していたことは、アラン・ドロンが乗っていたことと同じく、この車の歴史の一部でもある。この車は今や"バイヨン・フェラーリ"として世に広く知られている。それゆえに、当時の状態のまま保存されることを認めていいのかもしれない。

そのままの状態を維持するか、レストアするかという議論は今後も止むことはないだろう。我々オクタンはこの件についての皆さんの意見を歓迎する。いずれにしても、バイヨン・フェラーリはどんな歴史書や研究書よりも明らかな実例である。そのフェラーリは自らの過去を語っているのである。


1961年フェラーリ250GT SWBスパイダー・カリフォルニア
エンジン:2953cc、V型12気筒、SOHC、ウェバー40DCL6ツインチョーク・キャブレター×3基
最高出力:280bhp/7000rpm 最大トルク:195lb-ft/5000rpm* 
トランスミッション:4段MT、後輪駆動 ステアリング:ウォーム・セクター

サスペンション(前):ダブルウィッシュボーン、コイルスプリング、テレスコピックダンパー、スタビライザー
サスペンション(後):半楕円リーフスプリング、ラジアスロッド、テレスコピックダンパー
ブレーキ:四輪ディスク 車重:1240kg* 性能:最高速=125mph*、0-60mph加速=7.2秒*
(*『スポーツカー・イラストレイテッド』誌1959年9月号、250GT LWBスパイダー・カリフォルニアのロードテストでの数値)

編集翻訳:高平高輝 Transcreation: Koki TAKAHIRA Words: Winston Goodfellow 

無料メールマガジン登録   人気の記事や編集部おすすめ記事を配信         
登録することで、会員規約に同意したものとみなされます。

RECOMMENDEDおすすめの記事


RELATED関連する記事

RANKING人気の記事