時を超える美しさと技術|リシャール・ミル カップが紡ぐ100年の共鳴

Richard Mille

風を読み、波を感じ、自らの経験と感覚を頼りに舵を切るヨットレース。それはまさに自然との対話であり、船と一体となって大海原を航海する、究極のマリンスポーツだ。リシャール・ミルは100年以上前に設計された競技用ヨットを招き、いまではクラシックとなった美しいヨットたちが持つ高性能なレーサーとしての働きを讃えることを目的に「リシャール・ミルカップ 2024」を開催した。



リシャール・ミルのマーケティング・ディレクターを務めるティム・マラシャールは「私たちは他ではやっていないこと、すなわちヴィンテージヨットに100年前に競った同じコースでレースに挑む機会を提供したいのです。これはパレードではなく、2週間にわたって繰り広げられる本格的なヨットレースです」と宣言する。



革新的な素材と技術を駆使した近未来的なデザインで知られる腕時計ブランドであるリシャール・ミルが、なぜヴィンテージヨットのレースを主催するのか?そこには、単なるノスタルジーを超えたブランドの根底に流れる哲学が息づいている。それは、伝統への深い敬意と、現状を打破しようとする革新性、そして究極の美しさへの飽くなき追求だ。リシャール・ミルカップに参加するヨットオーナーたちは、皆、自らの愛艇を「動く歴史遺産」として捉え、その修復には惜しみない情熱と費用を注ぎ込む。最新素材や技術を駆使しながらも、オリジナルのデザインや構造を忠実に再現することが重要視される点においては、まるでアンティーク時計の修復師やクラシックカーの整備士たちが、長年培ってきた技術と経験を駆使して、時を刻んできた機械に新たな命を吹き込む作業に似ている。



2024年の初夏、100年前に設計されたヴィンテージヨット10艇による、イギリスとフランスの風光明媚な海岸線を舞台にした、2週間にわたる熱戦の火蓋が切って落とされた。255マイルにも及ぶ過酷なオフショアレースでは、参加者たちは、刻々と変化する海の状況を読み解き、風と波を味方につけるための戦略と技術を競い合った。月明かりを頼りに、荒れ狂う波濤の中を航海する夜もあった。過酷な自然と対峙し、自らの限界に挑戦する。そこには、現代のヨットレースでは味わえない、冒険心とロマンが溢れている。

一方、インショアレースでは、各ヨットの性能が最大限に引き出される、白熱した戦いが展開された。特に最終日に開催された、イギリスヨットレースの聖地とも言えるロイヤル・ヨット・スクアドロン沖でのレースは、“ストリート・ファイト”とも称されるほどに激しい駆け引きが展開され、多くの観客を魅了した。

2024年の大会で大型ヨットのレガッタクラスで見事勝利を勝ち取ったのは、1911年にウィリアム・ファイフが設計・建造したガフカッター船「マリキータ号」だった。総合2位に入賞したのは、ステイスルスクーナー船の「ヴィヴェカ号」だ。29年にJPモーガン社のために建造された同号は、近年になって施されたカリフォルニアでの修復作業が評価され、賞が授与された。100年以上もの時を経てもなお、その美しいフォルムと、力強い走りは、見る者を圧倒する。しかし、リシャール・ミルカップの魅力は、レースの勝敗だけではない。レース期間中には、参加者や関係者が集い、ヨットへの情熱を共有する様々なイベントが開催された。コーンウォールの風光明媚なトレリシック・ハウスでのオープニングパーティー、歴史的なヨット「アトランティック号」での船上レセプション、各ヨットクラブが主催する格式高い表彰式など、そこには、ヨットという共通言語で結ばれた、特別なコミュニティが存在することを見せてくれた。



リシャール・ミルカップは、ヴィンテージヨットという歴史的遺産に新たな光を当て、その魅力を世界に発信する。それは同時に、伝統と革新を融合させながら、真の価値を創造し続けるという、リシャール・ミルというブランドの哲学を体現するものでもある。リシャール・ミルカップは、単なるヨットレースではなく、時間と情熱を紡ぎ出す、壮大な海の叙事詩と言えるだろう。

今大会を振り返り、主催者のウィリアム・コリアーは、次のようにコメントしている。
「素晴らしい2週間でした。リシャール・ミルカップは、何よりもクラシックヨットの本来の目的であるレースで競う雄姿を讃えるために創設されました。クラシックヨットの修復作業の質と船乗りのスキルが相まって偉大なレースが実現し、栄誉を受けるに相応しい勝者が誕生するのです」

リシャール・ミルカップはまだはじまったばかりだ。それでもすでにこの大会がもたらす意味はあらゆる面から見ても大きい。




文:前田陽一郎 写真:リシャール・ミル
Words:Yoichiro MAEDA Photography:Richard Mille

前田陽一郎

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