連載:アナログ時代のクルマたち|Vol.37 ジャガーDタイプ

T. Etoh

1955年、ジャガーは100台のレーススペックのDタイプ 生産を計画した。しかし、実際に生産されたのは75台であったそうだ。

ジャガーにとって1950年代は、少なくともレースシーン、そしてメーカーとしての立ち位置を不動にした時代である。40年代後半に登場した、XK120と呼ばれたスポーツカーが大好評を博し、この車でレースをしたユーザーもそれなりの戦績を収められるようになった。そこでジャガーはこのXK120をベースに、ワークス用にレーシングカーを仕立て上げる。それがCタイプであった。いきなりCと言われると違和感があるが、正式名称はXK120-Cという。何でCなのか。それはこの車を作るときの言わば号令が、chuck it all away and start again、即ち「すべてを捨ててもう1度やり直す」という言葉の最初の文字がCで、これを取ったものだからだそうだ。一般的にXK120のコンペティションモデルということでCとされたという説もあるが、開発内部的には前述した内容だったようである。

Cタイプは、デビューした1951年のル・マン24時間で見事ジャガーにとって初の優勝をもたらした。そして53年にも2度目の優勝を勝ち取るのである。こうなると、誰もがジャガーを強敵とみなす。そんなジャガーも当然ながら次を画策する。Cタイプの次であるから勿論Dタイプであるのだが、その車名からXK120の名は消えていた。CタイプはXK120のラダーフレームから軽量なチューブラーシャシーに転換し、サスペンションもフロントこそ基本はXK120と同じだったが、リアは大きくモディファイされ、リーフスプリングからトーションバーとトレーリングアームに変更されていた。それでもエンジンなどはXK120をチューンしたものであったところからXK120-Cに名が使われたようだ。

これに対してDタイプは全く異なる構造を持っていた。一つはチューブラーフレームからモノコックに変わっていたこと。エンジンも車体を低くする目的もあって、ウェットサンプからドライサンプに変更された。それでも空力の鬼才マルコム・セイヤーが望む高さとはならず、エンジンは8.5度傾けられて搭載され、さらに足りない部分をバルジを使って処理している。 



ドライサンプ化されてもエンジンの呼称はXKを引き継いでいて、排気量も初期モデルは3.4リッターDOHCであった。エンジンについては、Dタイプがレースを続けた1954年から数回の変更を受けている。55年シーズンにはビッグバルブを装備したものに変わり、57年には排気量が3.8リッターに拡大された。因みに55年は、ワークスマシンにいわゆるロングノーズのボディを持ったマシンが6台ほど作られた。そして、その翌年にはル・マンのレギュレーションが変更されたのに合わせ、排気量を3リッターに落とし、ル・マンには引き続き60年まで参戦した記録が残されている。もっとも、ジャガーのワークス活動は56年をもって終了しているが、Cタイプ同様、Dタイプも多くのプライベーターに供給されていて、彼らがジャガーの活躍を大きくサポートしたことは間違いない。



ル・マンにデビューした1954年は、フェラーリをあと一歩まで追い込んだものの、届かずに総合2位。翌55年は、忌まわしいル・マンの大事故を潜り抜けたMホーソーンがドライブするDタイプが優勝した。そしてワークス参戦最後となった56年は、ワークスがごく初期に2台のマシンを失ったにもかかわらず、プライベーターのエキューリ・エコスから参戦していた1台が見事優勝し、2連覇。ワークス活動がなくなった58年は、排気量を拡大したエンジンが供給されたプライベーターが大活躍した。1位から4位を独占しさらに6位入賞も遂げるという最高の成績を収め、Dタイプは3年連続ル・マン制覇の偉業を成し遂げたのである。



冒頭にジャガーが100台のレーススペックDタイプを作る計画をぶち上げた話をした。そして実際には75台しか作らなかったとあるのは、ジャガー・ヘリテージに書かれている一説だが、ものの本には異なる記述もある。そして残ったパーツから、ジャガーではロードゴーイングのDタイプとして、25台のXKSSの生産を企画した。しかし工場が火災に見舞われ、XKSSは16台を作って生産を終えている。

ホンモノと称されるXKSSは16台だが、Dタイプの2台がXKSSにコンバートされているので、正確には18台。そして75台作られたというDタイプには、今やおびただしい数のレプリカが作られているから、果たして何台が現存しているか正確に判定するのは難しい。ロッソビアンコ博物館が所有していたライセンスナンバー50KVのモデルも、シャシーナンバーがわからず、戦績などは不明だが、博物館の発行したカタログ本の記載によれば、1955年製のショートノーズ、3.4リッターエンジン搭載車である。





余談だが、ジャガーはコンティニュエーション・モデルとして、100台作る予定だった残りの25台を生産することを、2018年に発表。併せて、25台作るはずだったXKSSも、残り9台をコンティニュエーションの形で生産している。




文:中村孝仁 写真:T. Etoh

中村孝仁

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