レトロモビル2024でリシャール・ミルが捧げたフェラーリへのオマージュとは

Richard Mille

「RM UP-01フェラーリ」という僅か1.75㎜厚の機械式時計で知られる通り、フェラーリのオフィシャルパートナーでもあるリシャール・ミル。2024年のレトロモビルの会場では、8台ものフェラーリの耐久マシンが並べられた。



2024年も1月31日から2月4日にかけて、パリのポルト・ドゥ・ヴェルサイユ見本市会場でレトロモビルが開催された。今年は第48回目を数え、3年前のコロナ禍での中止から徐々に回復していた来場者数は、主催者発表でじつに13万人以上を数えた。これは2019年の13万2000人に限りなく迫る動員数となる。

エッセンのテクノ・クラシカやボローニャのアウト・モト・デポカなど、春と秋にも欧州大陸における大規模なインドア・ミーティングは存在する。しかしレトロモビルの突き抜けた評価は、ヒストリックカーの展示販売だけではなく、希少な車両を歴史的・文化的な文脈の中で見せるテーマ展示の質、いわばキュレーションのレベルの高さに帰せられる。とりわけ希少なヒストリックカーがこぞってパリを目指すのは、そうした理由だ。

今回、主催者が様々な自動車博物館やコレクターらと協議して用意する公式展示のテーマは今回「MGの創立100周年」だった。昨今、MGは中国製EVとして欧州市場で復活し、EV交付補助金問題の主役のひとつでもある。英国の大衆的スポーツカー・ブランドに対する郷愁か反発か、反対派と無関心派いずれの陣営をも巻き込む視点が、きわめて時事批評的でもあるのだ。

他方、ハイエンド・スポーツカーの分野で、通り過ぎる人々が目を釘づけせずにいられない、カリスマ的といえるテーマ展示を行ったのはリシャール・ミルだ。きわめてテクニカルかつハイエンドなスポーツ時計として知られるリシャール・ミルは、幾多のスポーツカーそしてスポーツレーシング・プロトタイプのコレクターでもある。昨年の2023年もエンツォ・フェラーリの生誕125周年を記念し、312Tシリーズをはじめとする歴代F1やGTを展開したが、今2024年はずばり「エンデュランス」に焦点を当てた。いうまでもなく2023年はル・マン24時間の記念すべき100周年大会でフェラーリAFコルセの#51、499Pが総合優勝を遂げたが、このウイニングマシンたるハイパーカーを中心に、8台ものフェラーリの耐久マシンが並べられたのだ。

499Pのみボディを磨かれることなく、ル・マンで24時間を闘い終えたままの姿で展示されていた。

跳ね馬にとって2023年はじつに58年ぶりの総合優勝であった1965年の前年にNARTから出走したS/N:5901の250LMが、まず目を引く。さらに同時代にタルガ・フローリオやニュルブルクリンク1000㎞などで活躍した365P、1967年にスパやブランズハッチに出走した後、日本に留まっていたこともあるS/N:0854の412P、1972年にジャッキー・イクスやアルチューロ・メルツァリオらの手で欧州耐久選手権のいくつかを制した元ワークスマシンの312PBが脇を固める。さらには1976年の365GTB/4コンペティツィオーネに、1981年ル・マンで総合9位とクラス3位を記録した512BBLM、2003年ル・マンでLM GTSカテゴリーを制した550プロドライブといった、GTカーの系譜までも披露されていた。

250LMのワイヤーホイールはセンターロックとはいえスピナー式。

512BBLMは、当時として最先端のエアロホイールでありながらBBSメッシュ仕上げだ。

過去を未来へと圧倒的に繋いでみせること


これらの展示から読み取れるのは、各年代においてフェラーリがワークスやセミワークス、プライベーターを問わず、つねに一貫して耐久レースの第一線で戦績を残し続けてきたという事実だ。それは今現在のフェラーリと耐久シーンそのものでもあり、ハイパーカーからGT3カテゴリーで闘う姿へと、そのまま重なり合う。フェラーリ耐久レーサーの歴史が、展示された(たったの)8台によって見事に集約されて語られていることに気づくと、その簡潔にして要をおさえのル・マン制覇だったことは知られるが、最後たナレーションの妙にも気づくはずだ。

エクステリアの空力デバイスも、アルミ、FRP、カーボンへと素材が時代ごとに変化していく。

曲線的なエアダクトやルーバーにメッシュ、NACAダクトからカーボンのディフューザーなど、空力デバイスは時代を反映し続ける。

究極のテクノロジーとパフォーマンスを究め尽くしたマシンとして、時間の流れから独立してしまったような感覚は、リシャール・ミルのタイムピースにも相通じるものだ。このブースの周りで、なみいるフェラーリの耐久マシンに魅入られ圧倒された人々を見ていると、時は流れるものでも追われるものでもなく、忘れるためにあることが体験できるはずだ。


文:南陽一浩 写真:リシャール・ミル
Words:KazuhiroNANYO Photography:Richard Mille

南陽一浩

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