< 新たな価値観が開く新時代 >なぜ?5000万円を超えたG-SHOCK

PHILLIPS

2023年12月10日、ニューヨーク。フィリップスのオークション会場。積極的な入札が続いていたアイテムが、いよいよ決着の時を迎えようとしていた。ハンマーが打たれた瞬間、それは史上最も高価なG-SHOCKとなった。最終的な落札プライスは予想価格の3倍に近い、なんと400,050ドル(約5800万円)だ。本来、「落としても壊れない時計」として手頃な価格で販売されているG-SHOCKがこれほどの高額をつけた理由は後述するとして、今、オークションを含むセカンド・マーケットは、この数年来の傾向だった「高級機械式時計ならばなんでも値上がり」していた時期が過ぎ、このG-SHOCKのように、「限られた価値ある時計にとんでもない値が付く」時代に入ろうとしている。



2年間継続されていたフィリップスの時計オークションにおけるホワイト・グローブ・セール(オークションの全ロットが完売すること)が、今年のジュネーヴオークションの最終ロットで、これまで時計高騰の象徴でもあったロレックスの「シードウェラー」で途切れたことは、非常に印象的な出来事だったといえる。

ロレックス、オーデマ ピゲなどの、いわゆるスポーツモデルの高騰が落ち着き始めると、腕時計に投資しSNSで画像発信することがライフスタイルだったような、若い富裕層の一部が時計収集から撤退し、その需要も減少する一方、入口は投資目的だったものの、やがて真の時計愛好家へと成長した人達も多く生まれている。しかも彼らは豊富な資金力と同時に、相場の価値よりも自分にとってより特別なもの、より希少なものを選別する独自の審美眼を養い始めている。


以下、そうした新たな傾向やそれによって生じた価格の動向などを反映していると思われる事例を、最近のフィリップス時計オークションの注目ロットから、いくつかピックアップしてご紹介しよう。



CASIO/G-shock / Ref. G-SHOCK G-D001
The New York Watch Auction Lot.79
予想落札価格: $70,000-140,000 
落札価格:  $400,050(約 58,007,250円)

冒頭で紹介したこのG-SHOCKは、イエローゴールド製のユニークピースで、G-SHOCK40周年記念の一環として製作されたもの。世界で1本という希少さはもちろん、18K製でありながらもG-SHOCKならではの耐衝撃性を持ちうるよう、AIと人間のデザイナーが共作する「ジェネレーティブデザイン」という近未来的な手法でケースが設計された、これまでの「G-SHOCK」とはすべての面で異次元の存在。



G-SHOCKを世に送り出したカシオの伊部菊雄氏をして『G-SHOCKの新たなる第一章の始まりを象徴している』と言わしめたこのモデルを落札することは、G-SHOCKの今後数十年分の未来を先取りしたようなもので、世界中に数多くいるG-SHOCKマニアの中にあっても、このモデルのオーナーのみが手に入れられた価値は他には代えがたい、まさに超特別な1本なのである。ちなみにこれはオークション出品で、売上は全額アメリカの自然保護団体へ寄付される。



文:北村 泰(WATCH MEDIA ONLINE編集人) 

無料メールマガジン登録   人気の記事や編集部おすすめ記事を配信         
登録することで、会員規約に同意したものとみなされます。

RECOMMENDEDおすすめの記事