フォードCEOも所有したシェルビー427コブラがオークションに！

古賀貴司（自動車王国）｜ 2023.07.03

RMサザビーズといえば高級オークションハウスだが、最近は「プライベートセール」と称した委託販売も行っている。オークションだろうと、プライベートセールだろうと売り手と買い手を繋げる、という点では一緒。すなわち、彼らの得意分野というわけだ。

現在、そんなプライベートセールにて気になる一台が掲載されている。1966年式シェルビー427コブラだ。釈迦に説法かもしれないが、427と呼ばれる由来は排気量が427立方キュービックインチだから…、ではない。正確には425.98立方キュービックインチ（6990cc）なのだが、当時のレース界隈での枠組みとして427立方キュービックインチまで認められていたゆえに「427」と名乗っている。

1961年から1968年まで生産されたシェルビー・コブラは998台で、427エンジンを搭載したものは343台。その希少性、そして新車時からの履歴がハッキリしている個体とあって、100万ドル超えの販売価格がつけられているのだろう。

当該車両は1965年12月に完成し、当初のエクステリアカラーは黒で、インテリアも黒であった。最初のオーナーはフロリダ州ペンサコーラのジェラルド・K・ベアーで、1966年5月に現金7,000ドルで購入した。不運なことに所有1年目に交通事故に遭い、左ドア、ロッカーパネル、リアクォーターパネルを損傷した。

その後、当該車両はオハイオ州トレドのデイブ・トゥルーハフトに売却され、1年半かけてオーナー自らが修理をしたそうだ。その後10年、複数のオーナーの手に渡り、この間にエクステリアは白地に青のストライプに塗り替えられ、後期型の丸型テールライトが取り付けられた。

1985年、当該車両はカリフォルニア州カーメルバレーの小児科医、シュリーブ・マクラーレン・アーチャーに売却された。揺さぶられっ子症候群、外傷性脳・脊髄損傷に関する研究と治療の権威であったアーチャーは趣味がヴィンテージ・レースで、サーキットにおけるより安全なバリア設置の提唱や、自動車におけるシートの安全設計などに一役かった人物でもある。

アーチャーは当該車両を手に入れた直後、モントレーの「エントロピー・レーシング」にヴィンテージ・レーサーとしての改造を依頼した。フロントとリアに7.5インチと9.5インチのハリブランドホイールを装着し、ボンネットスクープ、サイドエキゾースト、レース用ウインドスクリーン、そして極めつけは完全レース仕様の427V8エンジンを搭載した。

アーチャーは全米各地のヴィンテージ・レースに精力的に参戦した。2003年、20年にわたるレースの後、アーチャーはコブラをレストアし、2004年の夏にはレースに復帰した。2007年、アーチャーが58歳で他界した後、カリフォルニア州サンタモニカのジョン・リンフェスティに売却された。

リンフェスティは当該車両を所有しているあいだに、ロレックス・モントレー・モータースポーツ・リユニオンやザ・クエイルといったイベントに参加。そして、フォードの現CEOであるジム・ファーリーに車両を売却する話がつけられた。

この頃のファーリーは長年勤めていたトヨタ・アメリカからフォードに移り、グローバル・マーケティング、セールス＆サービス担当のシニア・バイス・プレジデントを務めていた。本格的なレース仕様の427コブラを探していた彼は、289コブラともう1台のシェルビーをリンフェスティと交換し、当該車両を手に入れた。趣味と実益を兼ねて、この頃はコブラをよく売買していたそうだ。

ヨーロッパ・中東・アフリカ・フォード社長への昇進に伴い、2014年後半にファーリーは現在のオーナーに当該車両を売却。ファーリーから現オーナーに送られたEメールで、ファーリーは「私は完璧なコブラを所有するつもりでこの車両を購入しました。究極のコブラを完成させるために、最高の専門家だけでなく、私自身の専門知識もすべて注ぎ込みました」と述べたとか。

現オーナーはレースには参戦せず、ストリート・ユースを念頭においた改造を施した。車内にはカーペットを装着、以前のレース用シートからシェルビー・アメリカンから調達したS/Cスタイルのバケットシートへの交換、ダッシュボードにバックミラーを装着するなどした。エンジンは最近リビルトされ、圧縮比はストリート用に11:1に調整された。