完成間近!アジア初のドライビングクラブ「THE MAGARIGAWA CLUB」

文:藤野太一 写真:佐藤亮太

コーンズ・アンド・カンパニー・リミテッドが、千葉県南房総市で建設を進めている会員制ドライビングクラブ「THE MAGARIGAWA CLUB」の工事が最終段階に差し掛かっており、正式オープンを目前に控え、報道関係者に施設見学およびコース試走の機会が与えられた。

コンセプトは「どのサーキットにも似ていないコースを持つ、世界に唯一のドライビングクラブ」。東京都心や羽田空港からクルマで約1時間、富士山と東京湾を望む100万㎡もの広大な敷地には、全長3.5kmのロードコースを中心に、オーナーズ・パドックやクラブハウス、ダイニング、そしてプールやジム、温泉といった施設を備えている。長期保管が可能なガレージは300台の収容能力を誇る。

そもそもは、同社の渡社長が2014年に訪れたスペインのアスカリサーキットに感銘をうけ、このプロジェクトが発足したという。2020年5月の着工以来約3年、コロナ禍を乗り越えてようやく今年7月のグランドオープンを迎えることになる。

最初に訪れたクラブハウスは切妻屋根が印象的な2階建て。ロビーの吹き抜け部分の天井から吊るされた、大分県在住のアーティストが竹を使って丸1年がかりでつくりあげたオブジェが目をひく。2階にはメインダイニングや、プライベートダイニングがある。レストランなどをはじめホスピタリティは、「金谷ホテル」でよく知られるKANAYA RESORTSが担当する。ダイニングでは地元の食材を生かしたコース料理などが提供される。

切妻屋根を用いた、日本の伝統建築とモダン要素を融合したデザインのクラブハウス。設計はプロデューサー、建築家、インテリアデザイナーからなる気鋭のクリエイティブチーム、16A(イチロクアーキテクツ)によるもの。

エントランスメイン階段の竹細工は大分在住の竹藝家、中臣一氏によるもの。世界各地の美術館やギャラリーで作品を発表。また、リッツカールトン東京、リッツカールトン京都、福岡空港VIPラウンジなどのアートワークも手がける中臣氏が丸1年をかけて制作した意欲作。



クラブハウス内のホスピタリティは、「金谷ホテル」でよく知られるKANAYA RESORTSが担当。2階にはメインダイニングでは南房総の海の幸をはじめ、地元の食材を活かしたコース料理などが提供される。これ以外にもバーラウンジ(正会員のみ利用可能)、シガールーム、カラオケルーム、シミュレーターなどの娯楽室、プール、ジム、ヨガ、トリートメント、乳幼児向けのファミリーラウンジ、温泉、サウナなど、多岐にわたるサービスが提供される。

それ以外にも富士山を望むインフィニティプールや、地下918メートルから掘り当てたという天然温泉やスパ、ジムやエステ、サウナ、バールームやシミュレタールーム、キッズルームなど家族も休暇を満喫できる施設が整う。開業後には追ってテニスコートの開設も予定されている。3機分(1機は緊急時用)のヘリポートも確保されているので、休日のアクアラインの渋滞を避けるにはうってつけだ。

クラブハウスの駐車スペースには、2基の急速充電器が備わる。左が50kW、右が100kW。

クラブハウスの目の前にはオーナーズパドックと名づけられたヴィラスタイルの宿泊施設がある。今年4月に入札形式でおこなわれた第1次販売の5戸は即日完売。当初、予定していた全9棟は完売予定のため、開業後に追加で14棟が建設される計画だ。部屋は約245㎡〜528㎡で、価格はおよそ2.5億〜8億円。リビングからは富士山や緑の山々を、眼下にはロードコースを眺めることが可能。部屋タイプによってはメイドルームも完備する。今後所有者の多くは、「THE MAGARIGAWA CLUB」に管理運営を委託し、不在時にはホテルユースなど賃貸事業を行う見込みという。





オーナーズパドックと名づけられたヴィラスタイルの宿泊施設。今年4月に入札形式でおこなわれた第1次販売の5戸は即日完売。当初、予定していた全9棟は完売予定のため、開業後に追加で14棟が建設される予定。部屋は約245㎡〜528㎡で、価格はおよそ2.5億〜8億円。リビングダイニングにはドイツ製の薪ストーブなどが備わる。B1階には主寝室ともう1つゲストのためのベッドルームが備わっており、部屋タイプによってはメイドルームも完備する。

部屋タイプによって2台〜4台分のプライベート駐車スペースが用意される。

そして最後に、パドックへと向かう。冷暖房のきいたパドックには36台が収容可能で18ものソファセットが用意されている。コースデザインは、F1をはじめ数多くのサーキットをデザインしてきたヘルマン・ティルケ氏率いる「ティルケ・エンジニアーズ&アーキテクツ」の手によるもの。約800メートルのストレート、22のコーナー、標高差は約80mと、山を切り拓いてつくれた起伏に富んだチャレンジングなコースだ。

MAGARIGAWAプロジェクトの室長である山口オスカー博義氏は、同社にコース設計を依頼した経緯をこのように話す。

「まず第一に、彼らは安全面を計算できるんです。 どういった車が、どれだけのスピードで、どういうミスをしたら、ランオフの幅は何メートルあれば安全なのか。ですから我々は安心しておまかせすることができました」

アスファルト路面にも徹底してこだわり、市販車でもレース用のスリックタイヤでも楽しめる、グリップしすぎず、滑りすぎないものをセレクト。舗装の際にもできるだけ継ぎ目のないフラットな施工を行っている。またコースアウトした際の緩衝材も一般的なタイヤバリアなら約1000万円ですむところを、F1でも使用されている樹脂製のテックプロバリアを採用。これだけで約3億円を投じている。さらに万が一バリアを突破してしまうような事態も想定し、こちらもFIA公認のジェオブルッグ社のデブリフェンスを敷設しているというから驚くほかない。一方で、いくら安全だといっても、退屈で平凡なコースレイアウトでは、すぐに飽きてしまうし、経験豊かな目の肥えた会員を満足させることはできない。

「ティルケさんとお話をさせていただく中で、このMAGARIGAWAをデザインするのは、本当に今までにないエキサイティングな出来事だったとおっしゃっていただけました。ここはレースをするためのサーキットではないので、FIAなどの基準に準拠する必要はありません。あえて観客席やスターティンググリッドも設けてありませんし、意図的にコースの後半ではコース幅を狭くしています。安全性も楽しさも、両立できるコースができたと思います」

実際に試走させてもらったが、山間のコースだけに周囲がすべて緑に囲まれているのがとても印象的だ。ドイツのニュルブルクリンクやベルギーのスパ・フランコルシャンを思わせる。そしてコース後半にあらわれる、前方が見えないブラインドコーナーを経て、空に向かってコースを一気に駆け上がり、下るさまはまるでアメリカのラグナセカのようだ。

山間を走る緑に囲まれたロードコース。コーナー数は22、最大上り勾配20%、最大下り勾配16%、高低差80m。レースを行うことを前提としていないため、あえて道幅を狭くするなどして、追い抜き箇所を多くつくらない配慮がなされている。

コース後半では、高低差80mの上り勾配を一気にかけあがる。ときにブラインドコーナーで、空しか見えないスリリングな瞬間が味わえる。ランオフエリアは景観と溶け込むようにグリーンに。また自然の形態を残すため、切土面をコンクリートで覆わず、地層が見えるようにしている。

そうしてもう1点、印象的だったのがデジタルフラッグだ。これは一般的なサーキットではあれば旗を振るコースマーシャルが必要になるが、ここではコントロールセンターでコース全体を管理。コーナーごとにとても見やすい位置に配置されている。当日は晴れだったが、雨や曇りの日でも視認性がしっかりと確保されており、さらに前を走るクルマが突然遅くなったり停止した際には自動で感知し、イエローフラッグを掲出する仕組みになっているという。

各コーナーに計21個設置されたデジタルフラッグ。カメラは全部で22台設置されており、コントロールセンターにてコース状況を把握。デジタルフラッグはGPSと連動するオートマーシャリング(自動誘導)機能を備えており、前走車の急な減速や停止などもリアルタイムで検知し、イエローフラッグを掲示する。

「THE MAGARIGAWA CLUB」の現在の会員権価格は3600万円(2023年6月まで)。年会費22万円。会員数は500名を上限とする。また正会員のほかに「アソシエイト会員」が設定されている。コース利用日数などに制限があるが、主要な施設の利用が可能。入会金は400万円。年次諸費用105万円。会員権は5年ごとに更新が必要。コース利用費用は、正会員、アソシエイト会員ともに半日1.1万円(ゲストドライバーは5.5万円)。

すみずみにまでこだわりが詰まった施設だけに、総工費はすでに300億円を超えるというから、これらの会員費も決して法外なものではないということがわかる。実際にアスカリサーキットを訪れた経験からいっても、この「THE MAGARIGAWA CLUB」のコースとホスピタリティの充実ぶりは、アジア初というだけでなく、世界一のドライビングクラブといえるものかもしれない。




文:藤野太一 写真:佐藤亮太
Words: Taichi FUJINO Photography: Ryota SATO

文:藤野太一 写真:佐藤亮太

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