ORIワインプロジェクト10年目|ブドウ本来のポテンシャルを味わう

左から白、赤、ロゼ。白ワインのエチケットは 2023年に110周年を迎えるアストンマーティンの歴史的名車クローバーリーフ。赤ワインは 19世紀フランスを代表するピアノメーカー、1907年製のエラール。歴史を大切にする大里研究所らしいデザインだ。ちなみにロゼワインには、ORIのために作られたバラ「ROSE ORI」が描かれている。

柿の王様と呼ばれる「富有柿」の産地として知られる岐阜県揖斐郡の大野町において、大里研究所(ORI)は化学的農薬・肥料を使わず育てたブドウからビオワインを作るORI WINE PROJECTを進めてきた。
働き手の高齢化に伴い休耕地と化す柿畑が増えている中、シニア世代が夢を持ち生き生きと過ごせることを目的に、地域や自治体と一緒になって2012年から活動を続けている。ブドウ畑は10,000坪まで広がり、しっかりと樹齢を重ねてきた。プロジェクト開始から10年。そのブドウによって作られたORI WINEがどう語りかけてくるのか、そのポテンシャルを確認するユニークな会が開かれた。



シニアの夢のために


まだ雪山を遠望できる軽井沢駅に降り立ち、2022年2月にオープンしたばかりのホテルインディゴ軽井沢を目指す。「山の隠れ家」を標榜するこのホテルは街の洗練された感性と豊かな自然にインスパイアされている。同ホテルのレストラン「KAGARIBI」のソムリエとシェフがORI WINEPROJECTのビオワインを試飲し、この日のためのメニューを作り上げた。完成したワインは3種類。ピノ・ノワールというブドウで作ったロゼと赤ワイン。シャルドネ種の白ワイン。ちなみにこのロゼと赤ワインは、元は同じステンレスタンクで発酵させたもの。ロゼは醸造の途中で果汁だけをすこし抜き取る「セニエ法」という技術によって作り分けられたものだ。

集まったゲストはメディア関係者や英国車インポーター代表など。旅やグルメ、著名人、文学など軽井沢の知られざる魅力を紹介する「軽井沢ヴィネット」編集長の広川美愛さん。大人の男性が関心をもつあらゆる情報を網羅する「ENGINE」編集長の村上政氏は、国内外の取材の機会に様々な美食を経験している。ブドウ畑では大里研究所が目指す“カッコいい”農業を体現し、かつ実用性の高いランドローバーの新旧ディフェンダーを使用している。このORI WINEのアンヴェールには、ジャガー・ランドローバー・ジャパン代表取締役社長のマグナス・ハンソン氏、アストンマーティン日本および韓国のリージョナル・プレジデントに就任したグレッグ・アダムス氏の両名が、プロジェクトの社会的意義に賛同し駆けつけた。

ホテルインディゴ軽井沢のエントランス正面に英国車を並べて。林理事長とアストンマーティンにグレッグ・アダムス氏。このホテルはジャガー・ランドローバーとのコラボレーションでレンジローバーをVIP送迎用に走らせるほか、昨年は「レンジローバープラン」としてホテルのネイバーフッドホストがレンジローバーのドライバーとガイドを務め、ゲストに軽井沢のドライブ旅を提供するというアクティビティも提供するなど、ジャガー・ランドローバーとの縁も深い。

林理事長と長いお付き合いのジャガー・ランドローバー・ジャパン社長のマグナス・ハンソン氏。このプロジェクトは社会貢献や健康維持など、さまざまな意味においてランドローバーのキャラクターにマッチしているとコメント。

「オクタン日本版」でプロジェクトを取材してきた私も、この心躍る会に参加させていただいた。 オリジナルエチケットを纏った3本のワインを前に、大里研究所・林幸泰理事長からの挨拶で会は始まった。「今日は、大里研究所が地元岐阜大野町で10年前に発足したORI WINEPROJECTの一つの結果を確認していただきます。何事も失敗をしなければ成功もありません。素人が始めたビオワインに対して、こういうのがいいな!といったフランクな意見を教えてもらえれば、それがORIWINEの次の目標になっていきます」

「300坪から始めたブドウ畑も今や10,000坪になりましたが、一方で地元名産の富有柿を大事にすることも重要で、ワイン作りをビジネスにしていくつもりはありません。この企画はシニアの夢プロジェクトと考えています。私はアストンマーティンやランドローバーなど英国車が好きで、ヨーロッパでの仕事が多かった。あちらの農業の風景を見ると、たとえばイタリアの農家は太陽の下、笑顔にあふれて楽しそうな雰囲気がある。毎朝シニアの皆さんが目を覚ましたときに、今日はあれをやろう!という前向きで明るい気持ちになれれば、それが病気の予防になります。未病の段階から予防し病気を遠ざければ、必要以上に病院に行かなくて済む。それこそがこのプロジェクトの真の利益になると考えています。このホテルインディゴ軽井沢が、私たちが作ったワインのための特別なメニュー作りに協力してくれました。ぜひそれぞれの香りを楽しみつつ、忌憚なきご意見をください」

何も加えない、生命の力強さ


ブドウをどうやってワインにするか。林理事長は長野県伊那市美篶(みすず)にある伊那ワイン工房の取締役社長で醸造責任者でもある村田純氏に依頼することにした。村田氏はワイン醸造で40年もの経験をもち、丁寧なワイン作りをされてきた。村田さんはこう語る。

「理事長の林さんがうちに来たのは2019年。ただでさえ栽培が難しいピノ・ノワール種をビオで作ったので、醸造をしてワインにしてほしいという話でした。条件は“一切何も加えない”こと。これはとても厳しいオーダーでした。ワイン作りはまず発酵させることから始まります。実はこれが難しい。発酵を促すために酵母を入れたりすることもありますが、このプロジェクトではそれもやらせてもらえない。醸造家にできるのは温度管理と、適切にかき混ぜることくらい。あとは自然の力に委ねることになります。ただし、食品の安全面から濾過と加熱だけは許してもらいました」

奥様と二人で伊那ワイン工房を展開されている村田純氏。あまり日本ではワイン作りに使わない北米品種のブドウを用いたワイン作りなどもされている。

「何も入れないということはブドウの力をそのまま引き出すことになります。もしこのワインが良いという評価ならば、それはブドウそのものに力があったということです。醸造家はいろいろと工夫をしたがりますが、ORI WINEにはそういった細工を一切していません。ヨーロッパでは“いいワインはいいブドウから”という表現がありますが、日本の土壌は本来欧州のワイン用品種に適したものではありません。選んだピノ・ノワールという種類は粒が小さくて糖度が上がりにくい。一般的に熟成糖度が22度から23度ならばワインを作りやすいのですが、ORIWINEのブドウはまだ14度から15度くらい。それでもどんどん良くなってきていて2022年のブドウはさらに期待がもてます」

香りが華開く


ORI WINEについて、ホテルインディゴ軽井沢のフード&ビバレッジマネージャーでJSA(ジャパン・ソムリエ・アソシエーション)ソムリエ・エクセレンスの資格をもつ安藤修氏にその印象を聞いてみた。

「最初に感じたのは香りが素晴らしいということです。アルコール度数が7%前後とのことで、通常、低アルコールのワインは水っぽいものですが、それはまったく感じられません。世界的にも低アルコールワインが流行ってきていますし、時代にあったワインであり注目に値すると言えるでしょう。3つのワインに共通している印象は、しっかりとした酸があり、ブドウそのもののポテンシャルが高いこと。ブドウの品種にこだわり過ぎると料理の邪魔をすることがありますが、これらはどれも料理に合わせやすいものでした。このままブドウが樹齢を重ねていくと凝縮感やボリュームが出てきて、さらに香りにより華やかさが現れてくるでしょう。とても楽しみなワインです」

ソムリエ・エクセレンスの安藤修氏。ORI WINEの香りがどれも素晴らしいとのこと。

それぞれのORI WINEの特徴も聞いてみた。

まずロゼについては、きゅっと引き締まった酸味が特徴で、今までのワインにないチャーミングさがある、春らしくさわやかな感覚で楽しんでもらえる。シャルドネの白も素晴らしいとのこと。黄色のトーンがしっかりとしていて低糖度でもボリューム感とフレッシュさがある。自然を相手に化学的な農薬や肥料を使用せず収穫を待つのは相当な忍耐と見極めが必要だが、この色はブドウの糖度がきちんと上がってから摘み取っている証拠。柑橘のフレーバーがあり、それが余韻を後押ししてくれる。レモンとの相性がいいので南イタリアで好まれるアクアパッツァとマリアージュしてみた。ヨード香やシェリー香もあり食欲をそそる、と高い評価。

ロゼと同じピノ・ノワール種から作った赤ワインは、“薄負け”をせず、味わいとしてしっかりとしたボリューム感があり、これで7%とは驚くとのこと。すでに赤ワインの骨格をもっており、ピノ・ノワール種特有のエレガントな味わいは肉料理にも負けない。今回アントレとして用意した信州ポークは、あえて大きなブロックのまま焼き上げてうま味が逃げないようにした。薪の香ばしさがフワッと湧きたつが、この赤ワインは主張し過ぎることがないので、ソースと薪の香りを楽しむにはぴったりとのことだ。

メニュー名はSPECIAL 5 Course with ORI BIO wine。イタリア産ブラータチーズと柳沢農園フルーツトマトのカプレーゼ。愛媛の真鯛のアクアパッツァ。信州ポークの薪グリル。ほうれん草を練りこんだタリオリーニ タラバ蟹 トマトソース。そして苺のティラミス。ORI WINEとの相性は格別であった。

果たして食事と一緒に口に含んだワインの味わいはソムリエの説明の通りであった。

伊那ワイン工房の村田氏に伺ったが、ワイン文化がまだ浅い日本人にとって、良いワインの評価基準が“しっかりとした赤”に限定されてしまっている感は否めない。ワインは生き物であり、ブドウの品種と気候、そして土壌によってあらゆるものができあがるのだ。条件に恵まれたブドウで造られたこのワインは、アルコール度数が7%とは思えないほどしっかりとした滋味深いものであった。

私は以前イタリアのシチリア島を旅行したときに、車では行けない丘の上に小さなリストランテがあり、燦燦とした太陽のもと、地元の人だけが楽しむラベルも貼っていない白ワインを味わったことがあるが、正にそのときのワインの迫力と爽快感を思い出した。

林理事長が結んだ言葉は興味深かった。「私はクラシックなものが好きで、それは音楽も、それを奏でる楽器もそうだし、クラシックカーにも興味があります。ただし考えてみるとあらゆる生き物の中で、唯一人間だけが昔をリスペクトできる動物です。今日楽しんでいただいたORIWINEは大昔のひとが味わっていたもの、たとえば古代ローマ人が飲んでいたワインに近いと考えることができます。このワインを通じて根底的な哲学を楽しむこともできるのです。そして伊那ワイン工房に感謝しているのは、我々が作ったブドウを持ち込んだとき、それが夜中でもすぐにワイン醸造のための作業をしてくれたことです。ビオ栽培であるため我々のブドウが万一病気でも持ち込もうものなら醸造所そのものがダメになってしまうリスクもある中、一生懸命にプロジェクトを支えてくれています」

「私はORI WINEに別の可能性や魅力も感じています。農薬や酵母を加えれば本来100%の量が出来るところ、ビオ栽培では20%から30%しか完成品になりません。でもその環境で生き残ったブドウで造るワインは、すでにサバイバルを経てきている。つまりブドウ本来の力強い味がそこにある気がしています」


文、写真:堀江史朗(オクタン日本版)、大里研究所 
Words, Photography:Shiro HORIE(Octane Japan), Osato Institute

大里研究所
www.ori-japan.com
Tel: 0585-34-3830

オクタン日本版編集部

無料メールマガジン登録   人気の記事や編集部おすすめ記事を配信         
登録することで、会員規約に同意したものとみなされます。

RECOMMENDEDおすすめの記事