「オシャレでスマートで堅実」三拍子揃ったハイブリッドカー、ルノー キャプチャー E-TECH HYBRID

Motoki WATASE

ハイブリッドカーといえば、日本車の牙城である。スプリット方式、いわゆるストロングハイブリッドに限れば、独壇場と言っていい。いまや新型車といえばBEVだPHEVだFCVだと、電動車両へ国内外の自動車メーカーの多くが一斉に舵を切る中、酔狂にもストロングハイブリッドを投入した海外勢がいる。ルノーだ。

5月に発売されたハイブリッドカー専用のクーペSUV「アルカナ」で先陣を切り、6月に発売されたコンパクトハッチバック「ルーテシア」にもハイブリッド版を追加。続いて放たれた3本目の矢が、今回発売されたコンパクトSUV「キャプチャー」のハイブリッド仕様だ。



欧州では、すっかりBセグメントSUVの本命といえる存在になりつつあり、ガチガチのライバルはフォルクスワーゲンTクロスやプジョー2008あたり。日本車ではホンダヴェゼルやマツダCX-30あたりが車格的に競合するモデルといえるだろう。

コンパクトで燃費がそこそこ良く、長距離走行もそれなりにいける。加えて、見切りの良さや迫力あるルックスをも兼ね備えているから、小型実用車(いわゆるアシ車)の世界でもSUVは中心の座に収まりつつあるが、そうなれば立場も責任あるものになってくる。

入門カテゴリには、トガった車は似合わない。堅実で堅牢で、誰にも嫌われることのない普遍的な価値と品質を見せつけなければならない。しかしルノーといえば、日本市場で人気を誇るモデルは長らく「カングー」一択。たまに「メガーヌ」や「ルーテシア」が話題になったと思えば、尖りに尖った「RS」と、飛び道具ばかりだった。筆者もメガーヌⅡを2台乗り継いだが、1台はカブリオレだったし、もう1台も敢えてMTのハッチバックを選んだ。言い方は悪いが、濃厚な味を求める酔狂な客の御用達のポジションだ。

繊細な出汁の味を重んじる日本で、正統派で勝負するなんて大丈夫かいな?と思いながら乗り込んだキャプチャーは、実に真っ当な車だった。20年前に乗っていた化石のような車と一緒にするなと怒られそうだが、かつてのルノーの乗り味に通じる部分は皆無に近い。ただただしなやかでスムーズでスマートなのだ。

あえて喩えれば、ドイツ車と日本車の中間的な存在といえるだろうか。ドイツ車からは硬質感をほんのりと削り、日本車にうっすらと重厚感を添えたような、いいとこ取りの味わい。もちろん取り回しが良く、高速安定性にも長けているという、欧州のスタンダードカーとして王道を行く資質をしっかり備えている。

今回の白眉たるハイブリッドシステムは、特にミッションが独創的。トヨタのTHSは遊星歯車を用いる動力分割機構が変速機の役割を果たすが、キャプチャーはドッグクラッチを採用し、エンジン側に4速、モーター側に2速のギアを搭載。ニュートラルを含めた12通りの組み合わせで、スムーズなシフトを実現した、としている。

説明を聞いた感想がほんまかいな?だったのは、記憶というより呪縛に近い過去の思い出のせいだ。再び20年前の化石の話を持ち出して申し訳ないが、MTはともかく、当時フランス車の定番だった4速AT(いわゆる「AL4」)のフィールは、およそ「スムーズ」という単語とは縁遠いシロモノだった。スムーズといってもどの程度のスムーズなのか半信半疑だった。

いざ走ってみれば、加速時によくよく注意していても、変速タイミングがわからないほどにスムーズでナチュラルにシフトチェンジが行われる。エンジン音が消え、バッテリー走行に切り替わるときは辛うじて認識できるものの、それだって高速道路走行中は風切り音やロードノイズのほうが遙かに大きいレベルだから、聞きのがさまいと努力しなければわからない。なるほど、これは声を大にして「スムーズ」と言える。



1.6Lの直4エンジンに 2つのモーターがアシストする加速性能は、驚速とはいえないまでも、なかなか十分にパワフル。エアコンをガンガンかけざるを得ない38℃越えの炎天下のテスト走行だったにも関わらず、市街地ではバッテリーのみで走行する場面が多かった。燃費はWLTCモードで22.8km/Lと、十分な数値。内装も乗り味同様に、ドイツ車と日本車の特性を併せ持った雰囲気だ。



輸入車唯一のストロングハイブリッドという特性を考えると、競合となるのはトヨタC-HRやマツダCX-30などの日本車になるのかもしれない。ラテンのノリは姿を消したが、派手さはなくとも堅実な中身が日本で受けるのかと問われれば、首を縦にぶんぶん振りたい。オシャレでスマートで堅実な丸の内のエリートサラリーマンが、フランス人のルックスしてりゃ、そりゃモテないはずがないでしょうよ。



文・写真:渡瀬基樹 Words and Photography: Motoki WATASE

オクタン日本版編集部

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