北へ、南へ、シトロエン2CVと30年|第29回:2CVとキャンプはよく似合う

写真:原嶋 明男

草木の匂い、風に揺れる木々の音、流れゆく雲、満天の星。2CVに乗っているとそんな「何気ない自然の素晴らしさ」を身近に感じることができる。

今さら自分ごときが偉そうに感想を述べるのも気が引けるが、宮崎駿さんの名作「となりのトトロ」の魅力の一つは、「何気ない自然の素晴らしさ」を描写していた点にある。宮崎さんは2CVを愛車としていて、作品クレジットも「二馬力」だ。トトロに描かれていた「何気ない自然の素晴らしさ」と2CVはきっと繋がりがあるのではないだろうか。いつか宮崎さんにお会いする機会を得たならぜひ聞いてみたい。誰か紹介してください(笑)

というわけで、今回はそんな「何気ない自然の素晴らしさ」を行きも帰りも現地でも存分に味わえる「2CV Camping 2021」なるイベントに参加したので報告しよう。

緑に映える2台の赤い2CV。左はシンボさんのクラリス号、右はタナカさんの右ハンドル号。

客観的にみて2CVとキャンプはよく似合う。自動車として宿泊場所として、どちらもプリミティブな存在であり、それゆえに自然との共存を強く意識するものだからだ。先ほどから何度も書いている草木の匂い、風に揺れる木々の音、流れゆく雲、満天の星などの「何気ない自然の素晴らしさ」を、どちらも身近に感じることができる。2CV乗りである以上、やはりキャンプを趣味とするべきである。

それはよくわかっているのだが、実は筆者はキャンプが苦手だ。

子供時代を自然豊かな郊外で育ったので「何気ない自然の素晴らしさ」には一方で、寒かったり暑かったり、虫に刺されたり野良犬に追いかけられたりするリスクがあることを肌感覚で知っている。泊まるならテントでなくホテルや旅館に限る。元じゃらん編集部員としてのポジショントークではなく本音である。

ついでに書くとキャンプに必須の料理も苦手、というよりほぼ出来ないに等しい。さすがに米を炊くぐらいはできるから「得意料理は?」と聞かれたら「カレー」と答えるようにしている。野菜カレー、ビーフカレー、インドカレー、横須賀海軍カレーまで、そのレパートリーは数知れない。もちろんここで言うカレーとはボンカレーに代表されるレトルトパックのことだ。



しかし、キャンプイベントに参加しないかと誘ってきたのは、他ならぬ一部で2CVのネ申さまと言われているHラシマさんだ。主催者のIワサキさん(なぜか伏字にできない)も直接の面識はないものの、某ベストカーの人気連載で「ひとりフランス文化革命」と言われるほどフランス文化に精通した2CV界の有名人である。気弱で知られる筆者に断るという選択肢はなかった。

今回で2回目となるこのイベント、当初は5月に予定されていたもののコロナの影響で延期となりシメシメ、いや、残念!と思ったのも束の間、コロナが一時的に沈静に向かっていた10月30日〜31日に実施された。ちなみに今は1月30日。原稿がここまで遅れたのは気乗りしなかったからでも、いざキャンプに行ったら楽しくてうっかり取材メモを取らなかったからでもなく、12月に突然、新型シトロエンC4の記事制作をぶっ込んできたオクタン日本版編集部のせいである。参考までにこの原稿が遅れる原因となった新型シトロエンC4の記事はこちら

キャンプベース安中榛名はご覧のように木々に囲まれた素敵なロケーション。(写真:サイトーさん)

会場となった群馬県の「キャンプベース安中榛名」は北陸新幹線の安中榛名駅からほど近い標高420mの高台にある。ソロキャンプやデュオキャンプなど少人数専用の20区画ほどのキャンプ場だ(現在はソロキャンプ専用として運営)。

周囲を木々に囲まれたこの素敵な空間に、日帰りも含めて22台の2CV、そして2台のDS、ダブルシェブロンをつけたホンダカブなどが集まった。関東周辺のみならず北は宮城から、西は岡山、大阪、福井などから駆けつけた参加者もいた。

このキャンプイベントを主催した岩崎さんことIワサキさんと愛車の赤白のドイツ仕様ドーリー。

イベントと言っても基本は「勝手にソロキャンプ」がコンセプト。主催者のIワサキさんが入口で参加費を集金して、「区画サイトですが、貸切なので好きなところに停めて下さい」と案内する。それ以降は主催者あいさつなし、自己紹介なし、集合写真もなし。参加者は日暮れまでに集まって、各自テントを張って火を起こし食事を作る。そして翌朝に自由解散という「勝手にソロキャンプ」の名の通りのシンプルなイベントだ。

C3で参加したマツザキさん。いつかは2CVに乗りたいと話す。高齢化が囁かれる日本シトロエンクラブ(CCJ)の若きエースだ。

キャンプが苦手で、当然道具も持っていない筆者は、テントではなく管理棟宿泊を選んだのは言うまでもない。しかし料理だけは自給自足しなくてはと思って、最低限の道具は1週間前になって慌てて買いそろえた。カセット式ガスバーナー、クッカー、簡易テーブル、チェアーなどだ。キャンプは苦手だがガジェットは大好きなのである。

何もかもフランス製の道具で固めたIワサキさん。今もひとりフランス文化革命は前進中だ。(写真:Hラシマさん)

特にガスバーナーはイワタニがいいのかSOTOがいいのか散々悩んだ挙句、SOTOのST-310に決めたものの、世は空前のアウトドアブーム。楽天もAmazonもヤフオクも品切ればかり。諦めかけていた頃、楽天のあるお店が数量限定でタイムーセールを実施することを知って、久しぶりに開始時間をドキドキしながら待ち、なんとか手に入れることができた。こういうご時世にプレミア価格をつけないお店は素敵だ。ちなみに管理棟には布団がないと聞いて危うくスノーピークの暖かそうな寝袋も買いそうになったが、自分が今後キャンプに行く可能性がどれほどあるか冷静に考え直してレンタルという賢い道(?)を選んだ。

ピカピカの黒い2CVとグランピングのようなラグジュアリーテントで異彩を放ったサトウさんが振る舞った芋煮は大好評。



それにしてもこだわり派の多い2CV乗りらしく、テントはもちろん、ランタンも調理器具も焚き火台も、そして作る料理もウンチク満点(?)の逸品ばかり。特に焚き火台とランタンは重要だ。焚き火台には人が集まり話の輪が広がる。これがないと始まらない基本アイテムであることが分かった。





ランタンは自分と同い年のものなど古いタイプのものを使っている人が多く、皆のウンチクの熱量も最大だ。これこそキャンプ用品の花形なのだと理解した。揺らぎのある炎や光は本能に訴えかける何かがある。ランタンと焚き火台は次回までに必ず買おうと、キャンプが苦手なガジェット好きは心に誓った。まあ家の庭でも楽しめるし。

タナカさんご自慢のお好み焼き。写真はシンボさんこと新保和彦さん。

ネ申さまHラシマさんは世界的にその独特な風味が問題視されている(?)「ハギス」を持ち込んだ。意外に好評だったと本人は主張する。

テントなし、焚き火なし、ランタンなしの筆者はアサブキさんのテント横をお借りして得意のサトウのごはんとボンカレーで夕食を済ませたが、アサブキさんをはじめ、顔見知りのサイトーさんやタナカさんなどから美味しい料理の差し入れを頂いた。

銃撃されたシンボさん(奥)の話に聞き入る筆者(手前)を盗撮したのはHラシマさん。

お腹がいっぱいになった後は、赤いクラリス号オーナーのシンボさん(ちなみに今回のキャンプにはたまたま三人ものシンボさんがいた)のテント前の焚き火にあたりながら、シンボさんが銃撃事件に巻き込まれて足を撃たれた事件など滅多に聞けない話を楽しんだ(赤いクラリス号のシンボさんは遊び好きではあるものの普通のサラリーマンです、念のため)。



1963年と1955年の2台の425ccエンジンモデルのチェックに余念がないIシハラさん。ちょっと怪しい人に見えるが実際その通りだとHラシマさんは言う。(写真:Hラシマさん)

宮城からはるばる駆けつけた2CVのカラーコードを知り尽くした色神様ことIシハラさん(なぜか伏字にできない)の2CVレストアにまつわる話や、主催者のIワサキさんの数々のフランスかぶれ、いやフランス好き逸話、Hラシマさんの2CVに関する深すぎる話なども、時間を忘れてさせてくれた。



10月末の北関東の夜は、気温一桁台の厳しい冷え込みながら、美味しい料理とお酒、揺らめくランタンの光と焚き火の炎の相乗効果で、楽しく更けていった。用を足しに暗がりの中を歩いていると、草木を揺らす風の音が聞こえ、見上げると満天の星がキレイに瞬いていた。

「キャンプベース安中榛名」http://mscraft.under.jp/camp/

文・写真:馬弓良輔 Words & Photography: Yoshisuke MAYUMI

文・写真:馬弓良輔 Words & Photography: Yoshisuke MAYUMI

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